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老後の手本に迷う 杉並区/70歳女性 |
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コロナ禍で本を読むことが多くなりました。書店に行くと、「在宅ひとり死のススメ」とか「終活はやめなさい」というような内容の本が目に留まります。現在一人暮らしで70歳、ステイホームを経験し今後の暮らしを考える上で、何をお手本にしたら良いのか迷っています。
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中村寿美子 |
70歳という年齢はまだまだ元気、しかし個人差は大きく介護サービスを受けている人も少なくありません。そして、誰もが老後のことを考えるようになる年齢でもあります。人は幼少期から現在までの体験によって今の自分を形成していると考えられます。その体験の中に、とても大変だった身内の介護や看病のつらい思い出があると、自然に子どもたちや周囲の人には、「そんなつらい思いをさせたくない」と心から思うようになります。一方、何事もなく人生が送れた人は老後の心配など、どこ吹く風に思えるでしょう。
ちょっと考えていただきたいのは、これからの時季、突然の脱水症状などで動けなくなったとき、誰が飛んで来てくれますか? 子どもたちや姪(めい)・甥(おい)などの身内に迷惑をかけたくないと思っていても、自分が動けない状態になれば、仕方なく誰かに頼まなければ物事は前へは進めません。実際には病院や介護サービスなどの各種手続きもあり、そして「保証人は身内の人でお願いします」と言われる社会です。また、在宅での医療や介護にはケアマネジャーからの連絡を受けるキーパーソンが必要ですが、それは誰に頼みますか?
過去に相談を受けた人で、がんの治療で入退院を繰り返している一人暮らしの女性がいました。主治医から「もう一人暮らしは危険だから、どこかの施設に入りなさい」とアドバイスを受けて、介護付有料老人ホームに入居して半年後に永眠されました。最後の半年は用意された食事をおいしく食べて、夜中も安心して眠り、遺言書も書き直し、すべて自分の意思通りに人生を全うしたということでした。
一方では車椅子の生活になっても思うように特別養護老人ホーム(特養)へ入所できない事例をいくつも見ていて、真剣に老後の準備を始めたという人も少なくありません。それには、まず、高齢者に必要な社会資源、高齢者医療と介護保険の実態を学ぶことです。自治体によってもサービスの在り方に多少の違いがあるので、地域包括支援センターに行くなどして情報を得ることで安心感につながります。在宅暮らしでも知識があれば、あわてることもないでしょう。
そして高齢者は一人ひとり条件が異なるので、お手本はあってないようなもの、自分を取り巻く現実にしっかり向き合う覚悟を持ちましょう。
(介護コンサルタント
中村寿美子) |
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