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  横浜・川崎版 令和7年1月号  
100年残る映画をつくる  映画プロデューサー・新田博邦さん

渡辺大(父・渡辺謙)、三浦貴大(父・三浦友和)、真由子(父・津川雅彦)ら、偶然だが映画「シンペイ 歌こそすべて」では、新田さんの人脈により2世俳優が多く出演。中山晋平を世に送り出した劇作家・島村抱月役の緒形直人(父・緒形拳)による“怪演”、そして、20代だが中山晋平を若き日から晩年まで演じきった中村橋之助(父・中村芝翫)の堂々たる存在感も見ものだ。「厳しい目のある環境で育った彼らの演技は本物。特に歌舞伎の世界で育った中村橋之助さんは“大物たち”をずっと見ているからね。さすがでした」
中山晋平の生涯描いた「シンペイ 歌こそすべて」公開
 「湾岸ミッドナイト」シリーズ、「キャンプで逢いましょう」―。大手製作会社に負けない傑作映画を次々と世に送り出し、米国映画界の「B級映画の帝王」にちなみ、「日本のロジャー・コーマン」と呼ばれている映画プロデューサー新田博邦さん(69)。10日からは、大正~昭和に活躍した不世出の作曲家・中山晋平(1887~1952)の生涯を描く新作映画「シンペイ 歌こそすべて」が上映される。「映画とは100年先に残すもの。いつもそのつもりでつくっています。今回は音楽をめぐり、等身大の人物たちが苦悩しながら近現代を生き抜く“音楽映画”。自分も思い入れのある音楽にこだわった、これまでの集大成です」と新田さんは意気込みを語る。

 「シャボン玉」「ゴンドラの唄」「東京音頭」など、流行歌から今も残る童謡・唱歌まで、約2000曲の楽曲を残した作曲家・中山晋平を描く同作品。映像は明治から戦後までの時代・風俗を緻密に描きながら、ドラスティックに移り変わる日本の近現代を、映画全編を彩る中山晋平の歌曲を交え、たんたんとつづっていく―。

 かつて演劇青年だったころ、ある舞台を観劇し中山晋平に感銘を受けたという新田さん。「以来約40年、やっと作品化することができました。ただし、ベタな伝記ものでなく音楽映画として。中山晋平自体は等身大の人間としてたんたんと描きましたが、彼の生まれ故郷・長野県で行われた先行上映では泣く人が多数現れ、中山晋平の音楽の素晴らしさをあらためて感じました」

 新田さんは1955年、東京都生まれ。「大好きな音楽で嫌な思いをするなら、2番目に好きな演劇を仕事にしよう」。そう考えた新田さんは大学時代に「文学座」の門をたたくが、高名な先輩役者らがくたびれたジャージ姿で稽古する姿などを見て不安に。「役者で食っていくのは大変。彼らを生かすマネジメントの方が性に合っているかも…」

 新田さんはつてを頼り、「劇団青俳」の映画放送部に仕事を見つける。「いわゆる俳優のマネジャーですね」。しかし、同劇団が半年後に倒産。なんとか同劇団所属だった下條アトムのパーソナル・マネジャーに収まり、後に縁あって津川雅彦、朝丘雪路のマネジメントを務めることとなる。「新劇と“ザ・芸能界”の2つの世界を見られたことは、自分の大きな糧になりました」

「自分でやるしか…」
 1988年、33歳で独立しプロダクションを立ち上げる。「大鶴義丹との出会いが大きいです。彼のための個人事務所のようなものでした」。その眼力は当たっていた。大鶴はまたたくまに“売れっ子”となり1年足らずで1億円を稼ぎ出す。「当時は弱小のプロダクションでも“月9ドラマ”の主役を取れました。いい時代でしたね」

 その大鶴が漫画「湾岸ミッドナイト」(講談社)の映像化を提案してきた。首都高速で若者たちがレースを繰り広げる同作に新田さんも感銘を受け、大鶴主演で映画会社に企画を持ち込む。普通ならお願いして終わるところだが、なんと新田さんは映画製作も請け負った。「大鶴義丹は名うての車好き。彼の感性を生かすには、他人に任せず自分でやるしかないと思ったのです」

 「湾岸ミッドナイト」(91年)は、オリジナルビデオ映画として製作されたにもかかわらず大ヒット。初めての映画プロデュースだったが、不安はなかったという。「前に音楽の現場でいきなりプロデュース業を振られたことがあって、その経験が生きましたね」

 映画製作の面白さを知った新田さんは、以後も後藤久美子主演のデートムービー「キャンプで逢いましょう」(95年)や、虚偽報道の問題に踏み込んだ「破線のマリス」(99年)など、硬軟さまざまな作品をプロデュース。業界に独自のポジションを築いていく。

 そもそも映画のプロデュース業とは何かを新田さんに尋ねると、「僕らみたいな独立系のプロデューサーは、自分のつくりたい映画をつくるためにあらゆるアプローチをし、監督含め一から人集め、資金集めをするのです」と解説。ただし、日本では映画製作の功績は監督のものとされがちだと嘆く。「米国ではプロデューサーこそ映画づくりの第一人者。日本でももっと評価してほしいですね」

 また、現場に全てを任せ、口を一切出さないプロデューサーがいる一方、新田さんは可能な限り現場に出る。「自分には監督業やスタッフ業はできません。一緒に働く彼らには最大限リスペクトを払います。でも、自分がこだわりを感じている部分はとことん口を出します。それが、自分が始めた映画づくりへの誠意と思うからです」

 最近は、認知症を扱った「ばあばは、だいじょうぶ」(18年)など、社会派的な映画製作が目立つが、「全てエンターテインメントとしてつくっているつもりです。何か特定の思想を訴えるつもりはありません」と新田さん。

若き映画人にエール
 現在の日本映画界の状況についても持論を語る。「映画館離れ」が危惧されて久しいが、特に実写映画に大ヒットが少なくなっている傾向に新田さんは危機感を募らせており、若いプロデューサーや監督らにエールを送る。「『ゴジラ』映画に続くような、世界中の観客に求められる映画をつくってほしい。自分も体力が続く限りは、どんな形でも映画に関わっていきたいですね」


©「シンペイ」製作委員会2024
「シンペイ 歌こそすべて」
  監督:神山征二郎、企画・プロデュース:新田博邦、脚本:加藤正人、神山征二郎、音楽:久米大作、出演:中村橋之助、志田未来、渡辺大、三浦貴大、中越典子、吉本実憂、真由子、土屋貴子、辰巳琢郎、川﨑麻世、林与一、緒形直人ほか、ナレーション:岸本加世子。127分。日本映画。

 10日(金)からTOHOシネマズ日比谷(Tel.050・6868・5068)ほかで全国公開。

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