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杉さんの福祉活動は母親譲りのところがある。「僕が芸能界で一人前になって神戸の実家に帰ったら、母が『話がある』と呼ぶんです」。ベッドに寝た切りになっていた母のところに行くと、「お前、やりすぎじゃないか」と小言が…。杉さんの寄付の話題をテレビで見て、母は心配していたのだ。「でも、実は僕より母の方が“やりすぎ”の人でした。困った家ですね」とニヤリ |
3月7日、アニメ映画「親鸞 人生の目的」公開
人気絶頂期の39歳でテレビの連続ドラマ出演を“休業”し、60歳で舞台の座長公演を“引退”した歌手・俳優の杉良太郎さん(80)。それ以来、社会福祉を中心に活動し、テレビや舞台などの出演依頼があっても「ほとんど断ってきた」と言う。そんな杉さんが、千葉市では3月7日から公開されるアニメーション映画「親鸞 人生の目的」で声優として老年期の親鸞を演じた。「人はなぜ、生きているのか」と問うた親鸞。「その人の声を演じることに魅力を感じました。自分がこれまで生きてきた人生をどうせりふに込められるか、と思いながら務めました」
芸能歴60年で初めて声優を務めたという杉さん。「声優のオファーが来たのも初めてでした。ちょうど自分が80歳になったころに、80代の親鸞聖人を声で演じることに不思議な縁を感じました」と話す。ただ、「親鸞聖人は人間でありながら、仏様に近い存在。私がその声を演じていいものか、とも考えました」。実際に声優として演じてみると、親鸞が「人はどんな目的があって生きているのか」と苦しんで生きた姿は、自分の生い立ちと重なって見える部分があったという。
親鸞が生きた時代は、平安時代末期から鎌倉時代。大火や竜巻、地震、飢饉(ききん)が起こり、源平合戦などで世の中が乱れていた激動の時代に京都に生まれた。映画で親鸞は、4歳で父を亡くし、8歳で母を亡くす。
そんな境遇から、「やがて死ぬのになぜ生きるのか」と、人生の目的の答えを仏教に求め、9歳で天台宗・比叡山への出家を決意、修行に励むことに…。19歳になった親鸞は、関白・九条兼実の娘、玉日姫と出会う。その後、修行中も彼女が忘れられない親鸞は、「煩悩にまみれた私は救われない」と絶望し、山を下りる。そして、人生の師・法然に出会うのだった。
実は、杉さんも子どものころから、「なぜ生きるのか」「人生の目的とは何か」ということをよく考えていたという。1944(昭和19)年に神戸市で生まれた杉さん。「父は掛け小屋(臨時に建てられた興業物のための小屋)をやっていたんで旅回りの役者なんかが、私の小さいころから家に出入りしていました」。一方、母は信心深く、「朝から晩までお経をあげているような人でした」。その影響を受けて杉さんも毎日、小学校に通う前と帰宅時には必ずお経を唱えていたが、「お経をあげたら本当に幸せになれるのかな」と疑問を感じていたという。
まず俳優で脚光
子どものころから経済的に苦労する母親の姿を見て育ち、「母を楽にさせてあげたい」との思いから、好きだった歌の道を志す。63(昭和38)年に歌手を目指して上京し、3食付き無給でカレー店に勤める。そこで働いた2年間は歌のレッスンに週2回、片道約2時間を歩いて通うなど、率先して下積みの苦労を経験した。
21歳のとき念願かなって、歌手デビューしたがまったく売れず、翌年、テレビドラマ「燃えよ剣」で俳優デビューする。オーディションで獲得したNHKドラマ「文五捕物絵図」の主役を務めて評判となり、その後も「右門捕物帖」、「大江戸捜査網」など時代劇ドラマに主演。歌手よりも俳優として先に脚光を浴びることになった。「デビューしてから39歳までに1400本、最も多いときには3日で2本撮っていました」。「遠山の金さん」、初代助さん役の「水戸黄門」など数多くの時代劇ドラマに出演し、「杉さま」と呼ばれていた人気絶頂期にテレビの連続ドラマ出演から“休業”を宣言。「時代劇ドラマは十分にやった」という理由からだった。その後は舞台の世界に活動拠点を移す。
一方、歌手デビューから10年後にヒット曲「なやみ」が出ると、翌年には「すきま風」(杉さん主演のテレビドラマ「遠山の金さん」主題歌)が売り上げ100万枚を超えるミリオンヒットに—。以来、数々のヒット曲を出す。その後、「清水次郎長」など舞台の座長公演で活躍していた杉さんだったが、「体が思うように動かなくなるから」と60歳で座長公演からも“引退”した。
福祉活動は15歳から
芸能活動で多忙な中でも、福祉活動に取り組んできた杉さん。その活動は、15歳のときに通っていた歌謡学院の先生に誘われ、刑務所や養老院を慰問したときから始まる。その後も刑務所などへの慰問を続けるほか、ベトナムや中国などでの学校建設や音楽祭開催など海外にも活動の範囲は広がっていった。
「芸能界では悩まなかったけれど、福祉ではもう何度も『死んでやろう』と思うぐらい悩みました」。あるとき杉さんは、「この体を担保にお金を貸してください」と大手銀行の会長に直談判。自宅などの資産は、寄付のために銀行の抵当に入っていたので当時、抵当に入れるものがなかった。しかし、「銀行は、体を担保にお金は貸しません」と会長からきっぱり断られたという。こういうときに杉さんは自分の無力を感じた。「国のお世話になりたくないから、全て自費で福祉活動をやってきました。だけど個人の財力には限りがあるので、わずかな人を助けることしかできないんですよ」
現在、法務省特別矯正監(永久委嘱)などの活動で全国の刑務所や所轄警察を回っては「なぜ、生きているんだ」と質問を投げ掛けているという杉さん。「これまで、自分が汗水たらして稼いだお金や時間を困っている人たちに使ってきた。だから、(映画で描かれている)親鸞聖人の生き方は理解しているつもりです」と話し、「福祉に定年はありません」と今後も福祉活動を続けていく考えだ。 |

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「親鸞 人生の目的」 日本映画
監督:青山弘、脚本:塩味鷹虎、青山弘、音楽:篠田大介、アニメーション制作:オーロックス、声の出演:杉良太郎(老年期の親鸞)、櫻井孝宏(青年期の親鸞)、中博史(法然)、平川大輔、小山剛志ほか。原作:高森顕徹「人生の目的」(1万年堂出版)、同「歎異抄をひらく」(1万年堂出版)。
3月7日(金)から、ユナイテッド・シネマ浦和(Tel.0570・783・856)で公開。
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