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  埼玉版 令和7年5月号  
辺境体験を「丸ごと読者に」  ノンフィクション作家 高野秀行さん

高野さんは早稲田大学第一文学部フランス文学専修を卒業しているが、「僕のフランス語は、取材で覚えた“アフリカ仕様”。フランス人との会話には苦労します」と苦笑する。パリの「ドゥマゴ賞」にちなむ「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」の受賞は、「僕に『ぴったり』と言われたけれど、そうなのかな?(笑)」。とはいえ、権威主義を遠ざけ「先進性と独創性」を重視する賞とあって、「僕の著書の本質を見抜いてくださった(選考委員の)桐野さんに感謝しています」
著書「イラク水滸伝」でBunkamuraドゥマゴ文学賞
 メソポタミア文明発祥の地至近にあるイラクの巨大湿地帯—。世界の辺境を旅するノンフィクション作家・高野秀行さん(58)の著書「イラク水滸伝」は、迷路のように水路が入り組むその地の全貌に迫った大作だ。食、交通、住まい、信仰、歴史、動植物の生態…。「われながら驚くほど、厚みと広がりのある旅の報告になった」と、高野さんは話す。同書は「掛け値なしに面白い」と絶賛され、「第34回Bunkamuraドゥマゴ文学賞」受賞作に。「謎の探求が生きがい」と言う高野さんは笑みを見せる。「自分が体験した世界を丸ごと読者に伝えたい。昔も今も変わらない思いをこの本にも込めています」

 チグリス川、ユーフラテス川の合流点付近。「アフワール」といわれる巨大湿地帯に道はなく、高さ数メートルものアシに挟まれた水路は、水量の増減によって目まぐるしく形を変える。そこは古来、差別・迫害された人々が身を潜め、反権力者や犯罪者の逃げ場所に…。統治権力は及びにくく、近年はフセイン政権の支配にあらがう場ともなった。高野さんは、腐敗と悪政がはびこった中国・宋時代、湿地帯に集結した豪傑たちを描いた「水滸伝」の世界を重ね合わせる。

 「アフワールは『水滸伝』の『梁山泊』さながら。いや、その歴史の長さを考えると『元祖・水滸伝』と言っていいかもしれません」

“幻獣”でデビュー
 八王子市に生まれ育った高野さんは早稲田大学在学中、探検部に所属。アフリカ・コンゴ探検を記録した1989年のデビュー作は、現在も「幻獣ムベンベを追え」(集英社文庫)のタイトルで発行されている。卒業後も「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」のポリシーの下、取材・執筆を重ねてきた。アヘン栽培地潜入、インドの怪魚探し、アジアとアフリカの納豆探索…。作中ではバラエティー番組の「探検隊」のような軽さを装い、立て続けに起こるハプニングを織り込んでいく。「(ノンフィクションの)邪道といわれることもある」と苦笑するが、「その方が、僕の体験を(読者は)より実感を持って共有していただける」。2013年には、アフリカ・ソマリアに取材した「謎の独立国家ソマリランド」(同)で第35回講談社ノンフィクション賞などに輝いた。これまで学んだ言語は25カ国語以上。「現地の人と打ち解けるためには、片言でもいいからしゃべれないと…」。「イラク水滸伝」取材でも現地入り前の1年間、東京に住む2人のイラク人から「アラビア語のイラク方言」を習っている。「地域によって違う治安や食事、人々の気質…。言語だけでなく、これらの“生きた情報”も渡航前に得ています」


「イラク水滸伝」
 高野秀行著
((株)文藝春秋 ・2420円)
 だが、日本の四国ほどの広さがあった湿地帯は、「予想をはるかに超えた迷宮」。80年代〜90年代、当時のフセイン政権は堤防建設などにより湿地帯を干上がらせたが、今は堤防が壊されるなどして、半分ほどは元に戻ったといわれている。移動手段の一つは「タラーデ(族長舟)」と呼ばれる伝統的な舟。「世界の川を全て旅する」をライフワークに掲げる冒険家・山田高司の同行がかない、「舟大工を探してタラーデを造ってもらい、湿地帯を巡る」という目標を立てた。18年と19年の2回、あらゆるつてをたどって現地の有力者の協力を取り付け、水牛の乳製品「ゲーマル」に代表される食文化、謎の古代宗教「マンダ教」、“真正湿地民”といわれる「マアダン」の実像などに迫っている。曲折を経てタラーデは出来上がり、その半年後に「舟旅をもくろんでいた」。ところが、コロナ禍のため3度目のイラク行きは延期に。取材再開の見通しが立たない中、日本でイラクの歴史や地理を徹底的に調べ、自身の取材記録と照合した。文明と隔絶されているかのような湿地帯と、世界最古の文明の一つメソポタミア文明…。至近距離にある双方は初め、高野さんの中でも結び付かなかったが、「次第にそのつながりが見えてきて…、今は都市と湿地、文明と非文明は相互依存の関係だったように思えます」。

 イラクでもその価値が顧みられていない刺しゅう布「アザール」を知ったのもコロナ禍の日本。花や家、動物など、イスラムの気配が皆無の自由奔放さに「目を奪われた」と振り返る。3年ぶりに入国ビザが下りた22年、湿地帯の内外でアザールを探し求め「この布の謎をある程度は解き明かした」と明言する。「アザールを通して湿地帯の真の姿が浮かび上がってきました」

 「舟旅」の結末までを記した同書は単行本で470ページ以上。しかし、「第34回Bunkamuraドゥマゴ文学賞」で“たった一人の選考委員”を務めた作家・桐野夏生は、選評に「絶対に退屈しないことは私が保証する」と記している。昨秋の贈呈式・記念対談では、こう語った。「ルポルタージュとしても文明論としても優れている。素晴らしい文学と思います」

“内向き”に警鐘
 高野さんは今年に入って、エチオピアを舞台とした新著「酒を主食とする人々」(本の雑誌社)も出版。30年を優に超す“探検歴”を持ちながらも、「今もあちこちで驚かされている」と快活だ。ただ、近年は「日本人の内向き志向が気に掛かる」とも。「偏ったインターネットの情報で分かったつもりになっている人が少なくない」と指摘する。「世界の辺境へ旅し、そこにどっぷり漬からないと分からないものもある」。その好例は「イラク水滸伝」の登場人物の明るさ、たくましさ、温かさだ。彼らを「仲間」と呼ぶ高野さんは、こう続けた。「これからも世界中の『仲間』の真の姿を伝えていきたい」

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