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中央線と総武線の線路に沿って続く淡路坂 |
御茶ノ水駅近くの聖橋(ひじりばし)から昌平橋方面へ、緩やかに下る淡路坂。神田川沿いに続くこの坂の先には、そば、あんこう料理、鳥すきやきなどの老舗が立ち並ぶ一角がある。太平洋戦争の戦火を奇跡的に逃れ、今も残る歴史的な建物。そんな風情ある店を巡り、伝統の味を楽しんでみたい。
JR御茶ノ水駅・聖橋口の改札を出て、本郷通りを渡るとすぐ、緩い傾斜の坂に行き当たる。
近くに立つ「淡路坂」の標識の説明によると、その名前は江戸時代、坂上に鈴木淡路守の屋敷があったことに由来する。
標識のすぐ横には、しめ縄が掛けられた大木がそびえている。この辺りにはかつて、太田姫稲荷という神社があったが、鉄道の線路拡幅のため、別の場所に移されたという。神社は、太田道灌が娘の病気の治癒を祈願して、山城国(現在の京都府)一口(いもあらい)の里の稲荷を勧請(かんじょう)して建立した。人々から「一口稲荷」と呼ばれていたため、淡路坂には「一口坂」の別名もある。 |
「かんだやぶそば」のある一角は、違う時代にタイムスリップしたような雰囲気 |
料亭風のそば店
坂と並行して走る列車を眺めながら、昌平橋まで下っていくと、神田郵便局のビルが見えてくる。そのビルの先の細い路地を曲がった所が、古い歴史的な建物が残る一角だ。
「この地区はかつて武家屋敷でしたが、明治時代以降、さまざまな人が移り住んで、繁華街となったようです」と千代田区立日比谷図書文化館文化財事務室学芸員の高木知己さん(47)は説明する。
ここには長い歴史を持つ老舗が点在しているが、中でも有名なのが、「かんだやぶそば」(TEL.03・3251・0287)。板塀に囲まれた敷地の中に入ると、小さな庭があり、料亭風のしつらえ。幕末の名店「団子坂蔦(つた)屋」の淡路町店を、蔵前でそば店を営んでいた堀田七兵衛が譲り受け、1880(明治13)年に営業を始めたのが店の起源だ。
堀田康彦さん |
「大正6年の飲食店の番付では、当店がそば部門の最上位に選ばれています」と4代目主人の堀田康彦さん(67)が言うように、古くから絶大な人気を誇り、今も「藪蕎麦(やぶそば)御三家の筆頭」と称される。
そば粉は長野産や青森産などの最上級粉。昆布、かつお節でだしを取ったそばつゆは辛口でこくのある味わいが特徴だ。メニューの中でも、「せいろうそば」や芝エビのかき揚げの「天たね」の人気が高く、特におすすめ。 |
180年以上の歴史を持つあんこう料理の「いせ源」 |
都の歴史的建造物
そのかんだやぶそばから、路地を進んで一つ先の通りに、木造の入母屋造りの建物が立つ。そこは1830(天保元)年に創業し、180年以上の歴史を持つあんこう料理の「いせ源」(TEL.03・3251・1229)だ。
あんこう鍋を中心として、きも刺しや白身の空揚げ、煮こごりなど、あんこうのさまざまな部位の味を楽しむことができる。10〜6月(ランチは11〜3月)のあんこうの時季以外には、どじょう料理やうなぎ料理など、各種の和食も提供している。かんだやぶそばなどと共に、都選定の歴史的建造物に指定された店の雰囲気も味わいながら、料理を堪能したい。
鳥すきやきの「ぼたん」の看板。明かりがともると風情が増す |
その同じ通りには、明治創業の「ぼたん」(TEL.03・3251・0577)という鳥すきやきの店も。食事の後には、作家の池波正太郎も愛したという甘味の「竹むら」や、ステンドグラスの装飾が特徴的な喫茶店「ショパン」で、コーヒーやデザートを楽しむのもいい。
いせ源の女将(おかみ)・立川康子さん(57)は、「古き良き時代の雰囲気を残した地域を、守っていくのが私たちの使命」と話す。その言葉通り、風情ある町並みが、今後も変わらずに伝えられていくことを願いたい。 |
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