|
遺産分割と遺留分減殺 江戸川区/65歳男性 |
|
|
半年程前に亡くなった父の遺言書があります。それによると、自宅兼店舗と貸しアパートは私に、預貯金は母と弟に2分の1ずつ相続させると書いてありました。相続人は、母と弟と私の3人です。弟は、大学を出させてもらって大企業のサラリーマンになり、一戸建て住宅を持っています。私は高卒で、卒業と同時に家業である父の酒店を手伝い、ここ20年くらいは私が中心となって商売をしています。弟からは遺言とは関係なく、アパートを分けるよう要求があります。私は金銭で解決したいと思っていますが、弟の要求に応じなければならないでしょうか。
ご質問には、二つの問題が含まれていると思います。その一つは遺産分割協議の申し入れに、遺留分減殺請求権の行使が含まれるかという点。もう一つは、遺留分減殺請求権者に、相続財産に対して選択権が認められるかという点です。
最初の問題ですが、一般的には、遺産分割と遺留分減殺とは、要件や効果が異なるので、遺産分割協議の申し入れに遺留分減殺請求の意思表示は含まれないとされています。しかし、被相続人の全財産が一部の者に遺贈された場合、遺贈を受けなかった相続人が遺産の分配を求めるには、遺留分減殺による以外に方法はありません。ですから遺産分割協議の申し入れには遺留分減殺の意思表示が含まれているというのが判例です。
あなたの場合、全部の遺贈ではないですが、弟さんが預貯金の半分では少ないので、不動産の一つであるアパートを分けてほしいと具体的な申し入れをしているので、(判例の趣旨からみて)遺留分減殺の意思が含まれていると解してよいと思います。仮に否定しても、請求権の時効は1年ですから、行使は可能です。
次に二つ目の、遺留分権利者に相続財産のうちの特定の財産を選択する権利が認められるか否かの問題です。かつては選択権を認める判例もありましたが、現在では選択を認めない否定説が多く、学説上も否定説が通説とされています。その理由は、まず、選択を認める法文上の根拠がないこと、これを認めると請求者の恣意(しい)を認めることになって受遺者側の事情が無視されること。また、その後予想される共有物分割などについて、その内容を減殺請求者が一方的に先取りすることになって不合理であるなどの理由です。
あなたの場合、弟さんの遺留分は8分の1ですから、預貯金などの債権を含めた全相続財産を評価して、その8分の1を弟さんに代償金として支払うことで法的な解決は可能であると考えます。
弁護士 山下英幸
TEL:03-3508-0581 |
| |
|