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長崎から伝わった鯛の唐むし (大友楼) |
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昔の領国でいう能登と加賀の2国から成る石川県には、年中行事や祝いなどの「ハレの日」の食事には思いきり贅 (ぜい) をこらして日常生活の節目にしてきた伝統がある。今に息づく石川の食文化がこれから冬にかけて“旬”を迎える。
格式と伝統の加賀料理 欠かせない「いしる」
東京・羽田から飛行機に乗って約60分、能登半島の北部にある能登空港に到着する。空港の開港は約4年前。能登を訪ねるのはこれでずいぶん便利に。能登や加賀はかつて江戸から明治にかけて大阪と北海道を結んだ北前 (きたまえ) 船の寄港地として栄えた。
今年3月25日に起こった能登半島地震で大きな被害を被ったが、地元の努力でかなりの部分が復旧している。復興のバイタリティーを感じさせるのが、輪島の朝市 (輪島市朝市組合TEL0768・22・7653)。毎朝8時ごろから水揚げされたばかりの魚介類や野菜、民芸品などを並べた約200軒もの露店が軒を連ねる。「輪島の女性は昔から働き者で、亭主の1人や2人養えないようでは女の風上にもおけないといわれたものです」と話すのは、石川県観光スペシャルガイドほっと石川観光マイスターの藤平朝雄さん (68)。朝市では、おばあちゃんの巧みなセールストークにサイフのひももつい緩みがちに。これから寒ブリやズワイガニ、海藻類が並び、ますます活気を帯びる。
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その日に捕れた魚介類を店頭に並べる (輪島朝市) |
石川の料理を知るうえで欠かせないのが「いしる」。イカの内臓やイワシなどを発酵させて作る魚しょうである。ベトナムなど東南アジアの料理に使うニョクマムの日本版ともいえる、いしるは秋田の「しょっつる」、香川の「いかなご醤油 (しょうゆ)」と並んで日本の三大魚しょうのひとつ。
いしるをベースにしたオリジナルソースでホタテやエビ、野菜をホタテの貝殻に乗せ小さなコンロで焼いて食べさせる店が「SHO-TATSU」(TEL0768・82・0310)。オーナーシェフの西川幸彦さん (43) は「黒の屋根瓦と下見板張りといった奥能登の伝統的な建築様式を生かし、ちょっとした異空間のある店づくりを目指している」と言う。
いしるをベースにしたオリジナルソースを手にする「SHO-TATSU」の西川さん |
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ぜいを尽くす「ハレの日」の食事
昔のレシピ通り "治部煮"
同じ石川県といっても地味で素朴な能登に比べて加賀百万石の格式を感じさせるのが加賀藩の城下町・金沢。市内にある料亭大友楼 (TEL076・221・0305) は1830 (天保元) 年創業を誇る。前田家3代、利常の時代に料理方としてお城に上がってから現在で14代目の大友佐俊 (さとし) さん (60) は大友楼開業から7代目に当たる。
「伝統ある郷土料理や儀式料理(武家料理)がなくなる中で、現代の食文化としてしっかり次世代に受け継がれるようにしたい」と話し、伝統と格式を伝える加賀料理を出す。
中でも、昔のレシピ通りに作られているのが治部 (じぶ) と呼ばれる煮物。専用の底の浅い器 (金沢漆器) の中には、四季折々の根菜などが入り、小麦粉を付けた肉を煮込んだどろっとした汁で食べる。冬はカモ肉、シイタケ、すだれ麩 (ふ) 、加賀野菜の金時草 (きんじそう) などを入れる。
また、蘭学修行の藩士によって伝えられたのが鯛 (たい) の唐むし。鯛の腹に詰めた味付けされたおからと蒸しただけの鯛の味がマッチしている。
一方、金沢の和菓子作りを体験できるのが兼六園そばの「石川県観光物産館」。280年の歴史を持ち、200近くの店が日本海産の魚介類や加賀野菜類を販売している近江町市場商店街を散策すると、“庶民の台所"を肌で感じることができる。
輪島市朝市組合
TEL:0768-22-7653
SHO-TATSU
TEL:0768-82-0310 |
料亭大友楼
TEL:076-221-0305
石川県観光物産館
TEL:076-222-7788 |
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