|
首都圏から新幹線とバスを乗り継ぎ2時間強、地元の人が“本物の温泉”と誇るのが福島県は福島市郊外、吾妻山中腹に位置する秘湯「高湯温泉」だ。湯街のあちこちから硫黄の匂いが漂い、乳白色の湯が旅の疲れを癒やす。温泉通たちに愛される高湯にあるのは9つの温泉宿を含む宿泊施設のほかは1つの共同浴場のみ。高湯には「一切の鳴り物を禁ず」という習わしが伝えられており、ほかの温泉地に見られる歓楽施設は一切ない。純粋に温泉を楽しむ、昔ながらの湯治場の姿がここにある。
加水加温なし、源泉かけ流し
高湯温泉は毎分約3000リットルが自然湧出する湯量豊かな硫黄泉。温泉に溶け込んでいるガス成分(硫化水素ガス、二酸化炭素ガスほか)が末梢(まっしょう)の毛細血管を拡張するとともに代謝を促進、お湯を出た後も体はぽかぽかだ。効能としては高血圧や動脈硬化症、糖尿病などの生活習慣病や神経痛、リウマチ、皮膚の病に効果があるとされる。
このほか高湯の湯は強い抗酸化作用があるため、体内の活性酸素を減少させ、アンチエージング効果をもたらすとともに美人の湯としても有名だ。
高湯には湧出温度42度〜51度の9つの源泉があり、それらから加水加温なし、塩素消毒なしのありのままの温泉が、木製の樋(とい)を通し吾妻山の高低差を利用した自然流下で各温泉宿や共同浴場の計51個の浴槽へ供給される。さらに全ての浴槽では、あふれ出た湯は循環させず排出する100%源泉かけ流しが自慢だ。
「これは400年前の開湯以来、習わしを守り昔ながらの湯治場の姿を各宿主が団結し保ってきた成果」と胸を張るのは高湯温泉観光協会事務局長の永山博昭さん(60)。戦後の温泉ブームで日本中の温泉地が歓楽街としてにぎわったのをうらやんだこともあったというが、過熱した温泉ブームが一段落した今、「あの厳しい習わしこそが高湯の湯量や湯の質を守ったのではと思っています」と話す。そのおかげか同温泉はいちずにお湯を楽しむ温泉通たちに変わらず支えられてきた。
2011年の東日本大震災で一時客足が減少したが、あれから5年、往時の80%まで回復してきており、土日にはどの旅館も宿泊客でにぎわう。 |
「あったか湯」の貸し切り露天風呂。首都圏からの日帰り入浴客も多く、バリアフリーもばっちり |
共同浴場「あったか湯」営業再開
高湯の名湯をいつでも気軽に楽しめるのが、施設点検・修繕の休業を経て、この6月1日に営業再開した温泉街の共同浴場「あったか湯」(営業:午前9時〜午後9時。木曜定休)だ。男湯、女湯、家族用貸し切り湯の3つの浴場は全て半露天風呂。入湯料は250円(ただし貸し切り湯の利用は人数分の入湯料とは別途に1000円必要)。
「あったか湯」の源泉は施設のすぐ脇にあり4月〜11月の期間中、「源泉見学会」も実施。高湯温泉の特徴と効能を分かりやすく解説してくれる。要予約。1人〜最大15人まで。 |
斎藤茂吉自筆の歌が書かれた扇子
(吾妻屋所蔵) |
斎藤茂吉が「歌」残す
四季折々の自然が美しい高湯温泉は文人にも愛された。中でも明治から昭和にかけ活躍したアララギ派の歌人・斎藤茂吉は、自身の故郷(山形県金瓶村、現・上山市)から望める吾妻山(吾妻連峰)に望郷の念を重ね多くの歌を詠んだほか、友人の療養に付き添い高湯に滞在した折、湯街の情景も歌に残した。
「山の峡わきいづる湯に人通ふ 山とことはにたぎち霊し湯」(山の谷間から湧き出る温泉に地元の人々が集う 霊験あらたかな湯にはおクニ言葉が飛び交う) |
|
【高湯温泉の問い合わせ】
高湯温泉観光協会 Tel.024・591・1125
【アクセス】
福島駅からの路線バスの1日の本数が平日5本、休日3本と 少ないので注意。一部温泉宿からは送迎バス運行も |
|