|
シベリア抑留中の心情などをつづった「白樺日誌」。シラカバの皮をはいでノートにし、ペンは空き缶の先をとがらせて作り、インクは煙突の煤(すす)を水に溶いて代用したという。舞鶴引揚記念館所蔵 |
「引き揚げ」資料が記憶遺産候補に
京都府北部に位置し、日本海に面した舞鶴市は、“海の京都”として発展してきた港湾都市だ。舞鶴の「海の歴史」の中でも注目されるのは、戦後の引き揚げ事業。同市の引き揚げ関連資料はことし6月、「ユネスコ世界記憶遺産」国内候補に選ばれた。引き揚げの海、軍港として栄えた戦略の海、魚介類が豊富な味覚の海…。さまざまな海を感じようと舞鶴を訪ねた。
舞鶴は、戦後全国に18港設けられた引き揚げ港のうち最後まで稼働した港として知られる。大勢のシベリア抑留者を含む約66万人もの引き揚げ者を迎えた歴史を持つ。この港に降り立ち、それぞれの故郷に帰って行った人々。また、帰らぬ肉親を待ち続けた「岸壁の母」たちの悲哀…。この港は悲喜こもごものドラマに彩られている。
「舞鶴引揚記念館」は、そんな引き揚げにまつわるさまざまな資料を収集・展示。引き揚げ者から寄贈された衣服や手紙類、シベリア抑留者が使用していた食器など、貴重な実物を見ることができる。
桟橋で引き揚げ者を出迎える人々。舞鶴引揚記念館所蔵 |
同館所有の膨大な資料のうち一部がことし、「ユネスコ世界記憶遺産」国内候補に決定した。選ばれたのは、シベリア抑留者がシラカバの皮に日々の様子をつづった「白樺日誌」や、抑留者が日本の家族に宛てた「俘虜用郵便葉書」、抑留の風景を描いたスケッチブックなど記録資料570点に上る。
同館の濵田真義さん(49)は「引き揚げ者を最後まで迎えたのは、ここ舞鶴です。舞鶴は、たくさんの人が戦後の人生をスタートさせた“再生のまち”でもあったのです。来年は終戦70周年。ここに残された記録に接することで、あらためて平和に思いをはせていただけたら…」と話す。
舞鶴引揚記念館(Tel.0773・68・0836、入館料一般300円)は、12月1日(月)からリニューアル工事を行う。工事期間中は、「舞鶴赤れんがパーク」で代替営業する。
舞鶴赤れんがパーク |
海軍と「赤れんが」
若狭湾から入り込んだ内海にある舞鶴港は、穏やかな良港だ。深い入り江で軍事的な拠点としても優れていたため、明治期、旧海軍の鎮守府が置かれた。後の日露戦争でロシア・バルチック艦隊を破った東郷平八郎は、初代司令長官として約2年間舞鶴で過ごした。東郷ゆかりの官舎が今も残っている。
舞鶴には旧海軍の倉庫などとして、明治から昭和にかけて造られた赤れんが建造物が多く現存している。一つの地域にまとまって12棟もの赤れんが建造物が残っているのは全国的にも珍しく、そのうち8棟は国の重要文化財に指定されている。
「舞鶴赤れんがパーク」は、建物を整備し直し2年前にリニューアルオープンした。現存する日本最古級の鉄骨れんが建造物「赤れんが1号棟」は赤れんが博物館として舞鶴の歴史を紹介。このほか、工房(4号棟)やイベントホール(5号棟)など、さまざまな用途に活用され文化拠点となっている。
同パークのノスタルジックな風景は、映画「男たちの大和/YAMATO」(2005年)など、映画やテレビのロケ地としてもよく登場する。「日本の近代遺産50選」にも選ばれた名所だ。
舞鶴かに |
豊富な日本海の恵み
本海の好漁場に近い舞鶴は海の幸の宝庫。京都府内の実に7割の水産物を取り扱う“味覚のまち”でもある。秋はニギスやハタハタ、ササガレイなど、冬はヒラメやブリ、カキなどが港をにぎわす。特に丹後半島沖でとれる上質のズワイガニのオスは、同地が誇るブランドガニ「舞鶴かに」として人気だ。
「舞鶴港とれとれセンター」(Tel.0773・75・6125)では、新鮮な魚介類がリーズナブルな価格で買えるほか、その場でオリジナルな海鮮丼にして食べることも。おいしい食べ方を“魚のプロ”が伝授してくれるので、お土産にもいい。 |
|
【観光全般の問い合わせ】
まいづる観光ステーション (舞鶴観光協会) Tel.0773・75・8600
【アクセス】
東京から東海道新幹線で「京都」下車(約2時間半)、山陰本線(舞鶴線)に乗り換え、特急まいづるで「東舞鶴」まで約1時間40分。 |
|
| |
|