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常時開放された展望台からは海岸線をぐるり360度見渡せる |
日本人はどこから来たのか—。そのキーとなる地の一つがここ対馬(長崎県)だ。便利さや快適さと引き換えに、いまや本土では失われた古代からの信仰や風習がいまだ残る島内は、ゆっくりと昔と変わらない時間が過ぎているかのようだ。日本の源流を求め、対馬に旅立った。
浅茅湾の景観一望
“対(つい)の島”と書かれる対馬だが実は一つの島。細い陸の回廊でつながった南北の島の間は海峡とならず、大きく口を開けたような浅茅(あそう)湾が広がる。リアス式の複雑な海岸線を成す湾内には積み木をばらまいたように小さな島々が浮かび、同湾北岸の烏帽子(えぼし)岳展望台からは、この神秘的な景観が楽しめる。
また烏帽子岳の麓、浅茅湾の入り江奥深くにある和多都美神社は海幸山幸伝説で有名な海神の娘・豊玉姫を祭る由緒ある古社。本殿正面の5つの鳥居のうち2つが海中にそびえ、満潮の時は社殿近くまで海水が満ち、竜宮を連想させるそのさまは古代のロマンをかき立てる。 |
古代に大陸から伝来した後、ほぼ品種改良されていない赤米は背が高く台風が来たらすぐ倒れる。育成には細心の注意が必要 |
古代の神事伝える
対馬南端に日本の源流を探るタイムカプセルのような集落がある。対馬の中でもとりわけ古い集落である豆酘(つつ)には「赤米神事」や「亀卜(きぼく)神事」など古代からの習俗が今に残る。神域として古代から手の入っていない原始林なども散策でき、朝日新聞「にほんの里100選」にも選ばれている。
戸数400戸の集落に約10もある神社のうち最大の多久頭魂(たくづだま)神社では、日本建国神話の源流を受け継ぐ信仰の形が残されているといわれ、同集落が全国の民俗学者から注目された時代もあった。
原始林を神域とする多久頭魂神社 |
「赤米神事」は千年以上前から受け継がれ、収穫した赤米自体をご神体として祭る。多久頭魂神社近くにある約6反の田んぼのうちの約2反に、神域を表す縄で四方を囲み赤米を栽培。その小さな田んぼを地元の人は“寺田(てらだ)様”もしくは“神様田(かみさまだ)”と呼ぶ。 近隣に住む桟敷原初枝さん(73)は、「“寺田様”は女人禁制。男性が植え、男性が育て刈り取る。男がどうしてもいない場合は女性が囲いの外から作業する」と教えてくれた。赤米は今年、秋の新嘗(にいなめ)祭のための宮中献穀として皇室に献上された。対馬からの献上は76年ぶり。 |
つなぎなしの対州そば(ざる) |
原種に近い対州そば
そばは縄文後期に対馬を経由し大陸から伝わったとされ、以来品種改良を重ねながら全国に広まった。だが対馬のそば(対州そば)は小粒で風味が強い、原種に近い形を濃く残したまま現在まで栽培が続けられ、希少種として珍重されている。
対州そばはつなぎを使用しない。ただし島内に高い製麺技術がなく、箸でつまむとボロボロとちぎれるため、ざるそばとしては食べられず、麺を汁と一緒に飲み込めるかけそばとして長い間食されてきた。だが対馬南西岸の小茂田浜に近い「体験であい塾 匠」では技術的課題を克服し伝統を壊すことなくつなぎなしのざるそばを提供している。
営業時間は午前10時半〜午後3時。火曜定休。かけそば450円、ざるそば550円〜。全国配送も行っており、麺・スープ1人前セット440円(送料別・冷凍保存のため麺につなぎ使用)。そば打ち体験も可能(要予約、1〜4人まで3780円)。Tel.0920・56・0118 |
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お得な「しまとく通貨」
長崎県内の対馬、五島、壱岐、小値賀、宇久の各島約1000店舗で使用できる「しまとく通貨」は、1000円券6枚を5000円で販売する、20%のプレミアム付き商品券(使用期限は購入日から6カ月間)。長崎県内外の窓口で販売中。しまとく通貨コールセンター(ナビダイヤル)Tel.0570・039・402 |
【観光の問い合わせ】
対馬観光物産協会 Tel.0920・52・1566 |
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