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有福温泉「湯の町神楽殿」で行われる石見神楽の定期公演。演芸的要素が濃く、明快なストーリーで老若男女が楽しめる |
60年ぶりとなる出雲大社の「平成の大遷宮」などで注目される島根県。古来、神楽の盛んな地であり、県内の神楽は「出雲」「石見(いわみ)」「隠岐」に大別される。中でも県西部の石見地方に伝わる石見神楽は、豪華な衣装と派手なパフォーマンスが特徴だ。同地では秋の奉納神楽に加え、有福(ありふく)温泉、温泉津(ゆのつ)温泉など各所で神楽の定期公演も行っている。名湯と神楽—。先人と神々の鼓動が息づく“神楽王国・石見”を旅した。
有福温泉「神楽殿」など定期公演も
古事記、日本書紀などを題材とし、神話の世界を今に再現する石見神楽。秋に五穀豊穣(ほうじょう)を感謝する神事として神職が執り行っていたものが、明治初期に土地の人々へ伝承され民俗芸能として進化してきた。
軽快で激しい囃子(はやし)と勇壮華麗な舞—。八調子という速い囃子のリズムから地元では「どんちっち」の名で親しまれ、石見地方では130以上の神楽団体(社中、神楽団、保存会など)が活動するほど。「子どもたちは神楽囃子を聞きながら育ち、神楽ごっこに夢中になる。神楽クラブや郷土芸能部がある学校も多い」と江津市の大都神楽団副団長、惠木勇也さん(27)。秋には夜を徹して踊る奉納神楽。大阪万博以降は海外公演も盛んになり、今では週末ごとに石見各地で定期公演も。
今回はレトロな雰囲気が漂う有福温泉(江津市)に宿泊し、夜神楽を鑑賞することに。1360年の歴史を持つ同温泉郷は、無色無臭透明のアルカリ泉で「美肌の湯」とも。情緒ある石畳と石段…。レンガ造りの公衆浴場「御前湯」など3つの外湯巡りや、おしゃれな「有福cafe」でゆったりとした時間を味わえる。 温泉街の中心、「湯の町神楽殿」では毎週土曜の夜から地元神楽団による石見神楽の上演(観覧料500円)が行われる。「大蛇(おろち)」「恵比須」など演目は30以上。神楽面や衣装、大蛇の胴体などには石見の伝統工芸品で、軽くて強靭(きょうじん)な石州和紙(ユネスコの無形文化遺産)が使われる。衣装の早替わりや激しい太刀舞、煙幕の使用…。大蛇の目が光ったり、口から火を噴いたりと、衣装や演出に各神楽団のこだわりや工夫が見られるのも魅力の一つだ。
柿田面工房(浜田市)の柿田勝郎さん(71) |
伝統支える面職人
勇壮でテンポの速い石見神楽には、軽くて丈夫な和紙の面が不可欠。柿田面工房(浜田市)の柿田勝郎さん(71)は、40年以上のキャリアを持つ面職人だ。「面は神楽団体にとっての“顔”。人間の顔と同じで、いいパーツだけを集めてもいい面にはならない。足りないところがあっても、それが味になる。舞って命が吹き込まれた時にどう見えるか。面を生かすのも殺すのも舞手次第です」
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温泉津温泉の「薬師湯」 |
「世界遺産」の温泉津
07年に世界文化遺産に登録された石見銀山。徳川幕府の財政を支え、最盛期には世界の産出銀の3分の1を占めたという。そんな銀山都市の外港として栄えたのが温泉津(大田市)。重要伝統的建造物群保存地区に選定された唯一の温泉町であり、今も風情ある町並みと老舗の温泉宿が残る。
源泉は2つ。中でも湯治客に人気の公共温泉「薬師湯」は、日本温泉協会の天然温泉の審査で「オール5」の評価を受けたほど。効能は神経痛や慢性消化器病など。鉄分を含んだ薄い茶褐色の湯は熱すぎず、保温性抜群。「湯の良さと、簡単な運動やヘルシーな食事で心身のバランスを整える現代型湯治を目指す」。薬師湯代表で温泉療法に詳しい内藤陽子さん(68)は話す。「温泉津は温泉、港町の歴史に加え、赤瓦の景観など土地を生かした町づくりの原型が見て取れる“生きた博物館”です」
薬師湯旧館は大正8年建築の木造洋館。レトロな雰囲気のカフェ、ギャラリーで散策の拠点におすすめ。北前船の守り神として信仰を集めた龍御前神社でも、石見神楽の定期公演が行われている。 |
“えびす丼”。JR浜田駅すぐのホテル松尾では「海賊丼」(1400円)として、ウチワエビやイカなど旬の魚介が味わえる |
【神楽めし】
石見の新グルメ「神楽めし」。石見の魚がどっさりのった「えびす丼」、肉がてんこ盛りの「オロチ丼」の2種類の丼があり、約40店舗で個性的なメニューを提供している。
【しまね海洋館アクアス】
約400種1万点の海の生物を展示する中四国地方最大級の水族館。テレビCMでも有名なシロイルカによる「幸せのバブルリング」などのパフォーマンスは必見だ。入館料大人1500円。 |
【問い合わせ】
石見観光振興協議会 TEL.0855・29・5647 http://www.all-iwami.com/ |
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