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さんご資料館で五島サンゴの魅力を語る出口さん |
“日本の宝石”
命を的に荒波と闘い一獲千金を狙うサンゴ漁師たちの生きざまを描いた新田次郎の小説「珊瑚」。この物語の舞台となったのがサンゴ景気に沸いた明治末期の五島列島(長崎県)だ。乱獲によりかつての熱気は遠いものとなったが、五島はいまだサンゴの一大産地。コバルトブルーの海、豊かな漁獲、エキゾチックな風土—これら五島の魅力にさらに花を添える、五島サンゴの歴史を追った。
サンゴはイソギンチャクと同種の生物・サンゴ虫の群体で、石灰質の骨格に覆われている。サンゴ礁を形成する造礁サンゴと別に、宝石サンゴと呼ばれる種は樹枝状に成長し、磨くと艶やかに光るため宝飾品として昔から珍重されてきた。
現在の主産地は地中海、南方(台湾近海、南シナ海)のほかはもっぱら日本近海(五島列島、高知沖など)に限られ、国際取引でも真珠と同様“匁(もんめ)”が基本単位になるなど日本産の宝石として認識されている。
華麗で緻密な五島彫り |
五島沖でサンゴが発見されたのは明治の半ば。一獲千金を夢見る者が続々と手こぎの小型船で出漁。だが五島沖は台風の通り道であり難破が相次いだ。命懸けで採られたサンゴは世界中の宝飾店の棚を飾り、母港である五島列島福江島の富江はサンゴ景気に沸いた。乱獲で昭和初めには景気も下火になったが、サンゴに細工を施す華麗な“五島彫り”の工芸技術は同地に根付いた。
富江でサンゴの買い付け・加工・販売まで営む「出口さんご」取締役の出口修一郎さん(62)は日本近海産サンゴの特性について、「地中海産より透明度が高く南方産より赤味が濃い。見事な原木なら100匁(約375グラム)1000万円以上の値が付く」と解説。最近は中国の富裕層からの需要により10年前の3倍以上に値が高騰中とのこと。
しかし、この再びのサンゴ景気にただ「万歳!」とはいかない。五島には中国からの密漁船が出没。またサンゴのあまりの高騰で国内の加工業者の手に渡らず、五島彫りの技術継承も懸念されている。
「中国国内のサンゴ密漁は重罪。だから密漁者らは日本で密漁、モンゴルで加工し市場に出す」と出口さん。日中の軋轢(あつれき)はここ五島でも火花を散らす。
出口さんごではサンゴ製品を市価よりも安く販売。またさんご資料館を併設し歴史資料や華麗な五島彫りの工芸品を展示。営業時間は午前9時〜午後5時半。無休。入館料は200円。福江港よりバスで40分、宮下バス停下車。TEL.0959・86・1135 |
お椀の大きさは横のお茶碗と比較を。海の幸のほかにも五島産の野菜や焼き物も |
海の幸、おなかいっぱい!
お膳には人の頭大のお椀(わん)が—。中には五島の海の幸がぎっしり。その名も「びっくり弁当」。五島市福江町のいけすかっぽう料理店「心誠」社長・佐野誠さん(49)は、「インパクト重視のサービスランチ。島内はおろか県外のお客さんにも好評」とはにかむ。
青く澄んだ五島の海は日本屈指の好漁場。マグロのほか四季を通じ新鮮な魚が水揚げされる。また、黒潮の流れに乗って回遊するイシダイやクロダイを狙う釣り人にとっても憧れの聖地だ。
心誠名物びっくり弁当(要予約、1500円)のオーダーは午前11時〜午後2時のみ受け付け。不定休。TEL.0959・74・3552 |
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【五島列島の観光スポット】
大瀬崎灯台:五島列島の南西端。日本の夕陽100選に選ばれた絶景(五島市)
鯨賓館:クジラ漁全盛のころの五島漁師の活躍を伝える(新上五島町)
五島の教会群:かつて隠れキリシタンもいた“祈りの島”には約50の教会群がある |
【アクセス】
福岡市および長崎市、佐世保市から空路・海路で。
【観光の問い合わせ】
長崎県観光連盟 TEL.095・826・9407
五島市観光協会 TEL.0959・72・2963 |
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