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散居村が広がる砺波平野を一望 |
富山県西部内陸に位置する砺波(となみ)平野には、あぜ道や水路によって碁盤の目のように区切られた田園に人家が点在する“散居村(さんきょそん)”が広がる。それは昔の農村にありふれた、そして失われた古里の風景だ。郷愁を誘うのは景観にとどまらない。昔からの絆を重んじる人々は、祭りや食の伝承にも熱い情熱を注ぐ。伝統が色濃く息づく砺波市を旅してみた。
先人の知恵 屋敷林活用
砺波平野は飛騨(ひだ)山地から注ぐ庄川・小矢部川に挟まれた、約220平方キロメートルの広さを持つ豊かな水と緑あふれる扇状地。そこに約8000戸の農家が点在し散居村の景観を形作っている。
同散居村の特徴は、それぞれの農家が自家の周りの農地を耕作し効率的に稲作を行ってきたこと、そしてそれぞれの家の周りに“カイニョ”と呼ばれる屋敷林を巡らせ、風雪から家を守るとともに落ち葉や枝木などを燃料として利用してきたことだ。散居村という集落形態は先人たちが自然に働きかけ、自然との共生を図ってきた知恵の結晶といえる。
アズマダチの代表的建築「入道家住宅」 |
入道家住宅
今に残る農家には昔ながらの外観を変えない邸宅も現存。その一つ、「入道家住宅」は家が東を向いたアズマダチと呼ばれる瓦ぶき切り妻屋根の大邸宅。
ガイドをしてくれた砺波土蔵の会の理事長・尾田武雄さん(64)は、「砺波人は衣食より住居につぎ込む。真宗王国のこの地は自宅に大きな仏壇を擁し、お坊さんと大勢の観衆を招きお講を開くことがステータス」と“住道楽”の風土を解説。
ミュージアムも
北陸自動車道砺波IC近くにある、となみ散居村ミュージアムは古民家を再現した「伝統館」「情報館」「交流館」「民具館」の4拠点で伝統文化の情報発信を行う体験型施設。さらに同ミュージアムでは実際の古民家を利用した宿泊体験も実施、利用者の募集を受け付けている(使用料は1泊1人1000円、布団代別)。
入館料無料。開館時間は午前9時~午後9時(民具館のみ入館料100円、閉館午後6時)。毎週水曜および第3木曜休館。宿泊体験の詳細ほか問い合わせは TEL.0763・34・7180
出町子供歌舞伎曳山会館 |
子ども歌舞伎伝承
砺波駅前の繁華街・出町地区で毎年4月に行われる春の祭礼では、子ども役者が町中を練り回る曳山(ひきやま)の舞台で歌舞伎を上演、県の内外から訪れた観客を魅了する。この日に備え役者である子どもたちや鳴り物を担当する若者らが練習に励み、さらに祭りを管理・執行する大人たち、そして子ども役者に支援を惜しまないお年寄りが世代ごとに役割を分担、普段の日から町が一体となり祭りを支える。
「出町子供歌舞伎曳山会館」には祭りのシンボルである3台の巨大な曳山をはじめ関連資料が並び、1年を通じて祭りの熱気を楽しむことができる。また、芝居小屋風のホールも備えており、子ども歌舞伎の稽古場としても使われている。
案内してくれた同館職員の上野正雄さん(52)は、「先人たちが祭りの形を借りて地域愛を育てるシステムを作ってくれた。若い人が出てゆかず砺波が活気を失わない理由もここにあるのでは」と解説してくれた。
入館料200円。開館時間は午前9時~午後5時。毎週水曜および第3木曜休館。問い合わせは TEL.0763・32・7075
大門そうめん |
強いコシ、大門そうめん
砺波特産の大門(おおかど)そうめんは、江戸時代後期に加賀前田藩御用達の製法を継承した、全国的にも珍しい丸まげ(江戸・明治期の既婚女性の髪形)の形に結われた手延べそうめん。
大門地区の冬、厳しい寒さの中、いく筋ものそうめんが白いカーテン状にたなびく天日干しの風景が風物詩となっている。同地では、雪が降ってきてもすぐ取り込めるよう半乾きの状態で丸まげに結ってしまう。そのため、通常2日間で終わる乾燥に10日を費やす。この長時間の乾燥によって原料の小麦に含まれるグルテンの結びつきが強まり、ほかのそうめんにない強いコシが生まれる。
砺波の郷土料理を研究している卯月の会の境嘉代子さん(60)は、「簡単には切れないそうめん。炒めて食べることもできる」と話す。コシが強くのびにくく、夏以外でも1年中味わえる食材だ。 |
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おすすめ観光情報
砺波には球根出荷量日本一を誇るチューリップを1年中観賞できる「チューリップ四季彩館」や、豊かな清流とともに初夏~秋にはアユ、冬にユズが楽しめる庄川温泉郷など多くの見どころがある。
問い合わせは砺波市観光協会 TEL.0763・33・7666 |
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