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白浜温泉。温泉街の中心には白良浜のビーチが広がる |
夕日の絶景ポイントで知られる円月島 |
青くまぶしく光る海を前にした和歌山県南部は温暖で風光明媚(めいび)な土地。一方で多雨な地域ゆえの水害も多く、昨年の台風では甚大な被害を受けた。その困難にくじけず、あるがままの風土に根ざして生きる—。そういう生命力の強さもこの地方の特徴だろう。和歌山の美しい風景や“生命力”に触れてみようと、同地を旅した。
白い砂、海、夕日
有馬(兵庫)、道後(愛媛)に並んで日本三大古湯に数えられる白浜温泉。療養のため657年にこの地を訪れた有間皇子は「風景を見ただけで病が治りました」と語ったとの言い伝えが残る。千年以上経た今も、その言葉に共感したくなるような海の風景が広がる。
温泉街の中心に広がる白良浜もその一つ。名の通りこの浜の砂は驚くほど白くサラサラしている。その浜に打ち寄せる波はなめらかなブルー、その上を雪のような波頭が消えてはまたあらわれる。
そうかと思えば円月島あたりの海は冴(さ)えた深いブルーで、「これぞ紺青」という色になる。夕刻には海と空が赤く溶けあい、夕日が海に吸いこまれる瞬間に手を合わせる人の姿もあり、その場を去りがたい厳かな気持ちに包まれた。 |
パンダ8頭、長沢芦雪の襖絵
好物の笹を食べるパンダ(名前は愛浜)。好き嫌いのない食いしん坊の女の子 |
芦雪の襖絵について解説してくれた無量寺住職の八田尚彦さん |
白浜温泉を見下ろす高台の「アドベンチャーワールド」にはパンダファミリーが暮らしている。園内での繁殖に成功して現在は8頭の大家族。パンダの繁殖は難しく、受精のチャンスは年に数えるほどしかない。成功の理由を聞くと「相性ですね。こちらが無理強いしてもどうにもなりませんから」とスタッフ。しかし、本当に相性だけだろうか? 海と山、明るい陽光、潮風…そんな大らかな自然環境が生命力を高めているのではないか—。そんな気がする。
江戸時代の絵師・長沢芦雪(ろせつ)もこの南紀で新たな生命力を得た一人だろう。本州最南に位置する串本町の無量寺には芦雪の描いた襖(ふすま)絵が公開されている。18世紀後半にこの寺の住職が画家の円山応挙に襖絵の制作を依頼したが多忙だった応挙(実は旅が嫌いだったという説もある)は代役に弟子の芦雪を派遣する。
はるばる京都から出向き、本州南端の地で手掛けた芦雪の襖絵には実に心に迫る勢いがあった。虎と龍のたくましい目力、大胆な構図、スピード感あふれる筆のタッチ…この絵をみた岡本太郎は「“うまい”域を越えて“すごい”傑作だ」と絶賛したという。
「師匠の指導に忠実な芦雪にしては珍しく異色の作風。恐らく京都から遠いこの串本までは師匠も来るまいと思ったのでしょう。それだけにこの作品こそが芦雪の本性であると捉える研究家は多い」と住職の八田尚彦さん(46)。
台風被害、復旧進む
最後は熊野三山の一つ、熊野那智大社を訪ねた。昨年9月の台風で甚大な被害に見舞われた一帯ではあるが、既に主要道路は通行可、店舗や宿も通常通り営業しているなど復旧は進んで、観光への支障はほとんどない。
当時の状況について熊野那智大社・宮司の朝日芳英さん(78)はこう語る。「当日の午前3時、濁流が流れとると聞いて外に出てみたら、本堂は半分まで水に漬かっとります。携帯も通じないので私は腰まで水に漬かりながら役場まで10㌔の道を歩いて行きました。若いからできることですかね、私は78歳です(笑)」
翌日は断水となり、水の存在の貴重さに気付かされたという。「自然災害には想定外のことがよく起こります。人の知恵で物事を図っていくには限界がありますから。でも、水は命の母。災害にくじけてはならず、日ごろから水の恵みに感謝をする、すなわち神の恵みに感謝をすることになろうかと思います」 |
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【観光の問い合わせ】
●白浜観光協会 TEL.0739・43・5511
●串本町観光協会 TEL.0735・62・3171
●那智勝浦町観光協会 TEL.0735・52・5311 |
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