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「鱒寿し」の店の多くは昔ながらの手作りを続ける。笹の葉の香りも鱒寿しの風味を引き立てる=川上鱒寿し店 |
「鱒寿し」の駅弁100年
伝統と創意が織り成す「押し寿(ず)し」の滋味。駅弁で有名な「鱒(ます)寿し」をはじめ、富山には多様な押し寿しの文化が息づいている。代表格の鱒寿しは、お店を巡りながらの食べ比べがお勧め。桜の花を連想させる淡紅色の身と真白い酢飯の取り合わせが、旅情と食欲をかき立てる。「かぶら寿し」や「みょうが寿し」も富山の風土が育んだ、味わい深い郷土食だ。
源の「ますのすし一重」 |
全国の駅弁の中でもトップクラスの人気を誇る富山の「鱒寿し」。富山市内を流れる神通川の鱒は、古くから押し寿しの材料として愛されてきた。富山駅の駅弁として売り出されたのは、ちょうど100年前の1912(明治45)年春。淡泊で上品な食味は「飽きがこないおいしさ」といわれる。
駅弁誕生からの伝統を受け継ぐ「(株)源(みなもと)」(富山市、フリーダイヤル0120・29・3104)の年間製造数は現在、約150万個。一時期“幻”といわれた神通川の鱒は、漁獲量が限られるため、同社営業本部「ますのすしミュージアム」営業部長の藤田秀和さん(59)は「世界中を探して上質の鱒を仕入れている」と話す。製造の様子が見学できる「ますのすしミュージアム」では、直営レストランで出来たてが味わえる。
店巡り食べ比べ
富山市中心部を流れる松川は、明治の改修で流路を変えた神通川の名残。川沿い近くでは約10軒が自家製の鱒寿しを販売する。鱒の身の特徴や塩加減、酢飯の粘りなどは店ごとに違う。「自分のお気に入りの鱒寿しを探して」と呼び掛けているのは、(株)川上鱒寿し店(TEL.076・432・5129)専務の川上弥(わたる)さん(39)だ。同店は鱒の切り身をあえて酢飯の下に敷く。「鱒が入っていないと早合点されることがある」と苦笑するが、「鱒を下にすると(酢飯の水分で)鱒の身がしっとりとして味わいが増す」と特長を語る。
桜の花の名所でもある松川では、遊覧船が運航されている。川上さんは言葉を継ぐ。「四季折々の風情ある“鱒ずしの町”を川面から眺め、町歩きも楽しんで」 |
夏向けの季節商品として近年、人気を呼んでいる三和食品の「ぶり大根寿し」 |
冬の「かぶら」、夏の「大根」
世界遺産に登録された五箇山(ごかやま)の合掌造り集落で知られる県南西部。雪深いこの地ならではの押し寿しが「かぶら寿し」だ。
三和食品(株)(南砺市、TEL.0763・52・0284)は繊維質が軟らかい「白かぶら」をこうじと甘酒に漬け込み、低温でじっくり発酵・熟成させている。カブに挟み込む魚は、うま味の多いブリやサバ。カブの甘みと程よく調和した、優しい舌触りの郷土食だ。
かぶら寿しの販売は、原料のカブが旬の早春までに限られるため、同社は5年ほど前に“夏向け”の「大根寿し」を開発した。大根のしゃきっとした歯応えが楽しめる新たな名産。代表取締役社長の山村一幸さん(61)は、「発酵の状態が最適となるよう研究を重ねた自信作。『かぶら』との違いを楽しんで」と話す。
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味彩おおやまの「みょうが寿し」 |
爽やかな食感の「みょうが寿し」
さっぱりした野菜の押し寿しはいかが—。富山の山間部では、ミョウガを使った「みょうが寿し」が、祝いの席を飾ってきた。
富山市大山地区の「味彩(あじさい)おおやま」(TEL.076・483・1417)は、農家の女性たちでつくる農事組合法人。甘酢や赤シソで漬け込んだ特産の「小佐波ミョウガ」を地元産のコシヒカリに混ぜ込んでいる。酢飯の上にミョウガの薄切りと鱒を乗せ、笹(ささ)の葉でくるんだ見た目も美しいおもてなし料理。ミョウガの香りとしゃきしゃきした歯応えが「爽やかな食感でおいしい」と評判だ。代表理事の金山加代子さん(64)は「(県内の)スーパーや道の駅では看板商品になっています」と笑顔を見せる。製造数や鮮度の関係から首都圏では店頭販売していないが、通信販売の注文を受け付けている。 |
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都内のアンテナショップ「いきいき富山館」(東京交通会館地下1階、JR有楽町駅徒歩1分)では、押し寿しを含む富山の名産を販売。
鱒寿しは“お店日替わり”。数に限りがあり昼ごろ完売の日も。
観光の問い合わせも受け付け。
同館 TEL.03・3231・5032 |
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