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今月の旅情報 平成23年6月下旬号
妻沼聖天山~よみがえった極彩色の彫刻
埼玉/熊谷
妻沼聖天山の聖天堂。彫刻表面に残ったわずかな顔料を分析し、建設当時の彩色を忠実に再現している
埼玉県熊谷市・妻沼(めぬま)聖天山境内にある聖天堂(国指定重要文化財)が「平成の大改修」を終え、250年前の豪華絢爛(けんらん)な彫刻がよみがえった。聖天堂は奥殿から始まって中殿、拝殿という順に25年かけて建築されたため、彫刻の彩色は建築直後からあせ始め、すべてを真新しい状態で見られた人は当時もいなかったという。今月から一般公開が始まり、極彩色に彩られた名工の技を史上初めて見ることができる。妻沼聖天山を中心に熊谷を歩いた。
江戸建築美の粋
妻沼聖天山は、平家物語にも登場する斎藤別当実盛が1179年に創建。地元で「聖天(しょうでん)様」と親しまれている縁結びの神様を祭っている。境内に数々の美しい建築物があり、「埼玉の小日光」とも呼ばれる。中でも本殿に当たる聖天堂は、桃山時代から江戸時代にかけ発展してきた装飾建築物の到達点といわれる。聖天堂が完成して17年後には寛政の改革が始まり、金箔(きんぱく)が使えなくなるなど華やかな建築物が造られなくなった。
250年もの間、熊谷の酷暑・酷寒にさらされ続け元の彩色がほとんど分からないほど色あせていたが、7年の歳月と13億5000万円の費用をかけこのほど見事、復元。多くの彫刻に飾られた聖天堂は、日光東照宮を連想させ小日光と呼ぶのにふさわしい建築物としてよみがえった。
「阿うんの会」
阿部修治さん
一流の彫師、絵師
しかし、江戸建築美の粋を集めたような聖天堂がなぜ、妻沼に建てられたのか—。
聖天堂を建築したのは林正清。幕府作事方の大棟梁(りょう)・平内家の次男に生まれ、妻沼の林家に養子に入ったと伝えられる。めぬまガイドボランティア「阿うんの会」専任講師で妻沼の郷土史研究家の阿部修治さん(65)は、「幕府作事方大棟梁を世襲できずに養子として片田舎に来たことで、父や兄に負けないものを造ろうという意地があったのでは」と推測する。
正清が聖天堂を造ろうと思い立ったのが46歳の時。当時は享保の改革を行った8代将軍徳川吉宗の時代。緊縮財政のため幕府直営の建築工事が減少する一方、幕府は寺社などが自ら資金を集めて建築や修復することを奨励したといわれる。そこで、正清も聖天堂建築のため江戸から信州まで資金集めに歩いたが、資金が集まるまでに15年かかった。61歳になってようやく着工できた正清は、上州(群馬県)などから優秀な彫師を数多く集めた。
聖天堂には、釈迦(しゃか)や孔子、老子などが描かれ、囲碁に興じる七福神やカメと遊ぶ唐子(中国人の子ども)は人形のように豊かな表情を見せる。また竜が70頭、サルが12匹のほか、サイやネコなど数多くの動物が描かれているが、表情や動作などで同じものは1つもないという。「拝殿天井には狩野派の絵師、狩野秀信が描いた絵もあり、超一流の人々を集められた正清にはそれだけの力があった」と阿部さんは話す。
建設途中の大洪水で工事が中断、その間に79歳で死去した正清は完成した聖天堂を見ることができず、子の正信が引き継いで完成させたのは7年後だった。
それだけに今回の復元には手間をかけている。建設当時の彩色を調べるため表面に含まれていた顔料の微粒子を分析。その後、膠(にかわ)を何度も塗ってから1センチ角に切った和紙を貼り付け、その上から建設当時塗られていた彩色を色漆で忠実に再現した。「一番傷みがひどかった部分は30数回繰り返したといいます」と阿部さん。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
妻沼聖天山へはJR熊谷駅北口・朝日バス6番乗り場から約25分、バス停「聖天前」下車徒歩1分。入場料700円。腹ごしらえは、古くから参拝客に人気だったいなりずしで。油揚げを煮込む独特のたれと細長い形が特徴だ。
ガイド(無料)の申し込みは、阿うんの会 TEL.048・588・1644
おすすめ情報
妻沼聖天山以外にも見どころが豊富な熊谷。他の観光スポットを紹介。
【能護寺のアジサイ】
今、見ごろなのは能護寺のアジサイ=写真。50種800本のアジサイが7月上旬ごろまで見られる。参観料300円。
熊谷市商業観光課 TEL.048・524・1111
【道の駅めぬま】
地元産の新鮮な野菜や農産加工品を販売。食事どころではヤマトイモを使った「麦とろ御膳」や地粉のみを使った「熊谷うどん」も食べられる。おすすめはネギやヤマトイモを使ったジェラート。
TEL.048・567・1212
【SL】
SLに乗って旅情を楽しみたい人には秩父鉄道熊谷駅始発の「パレオエクスプレス」で。土、日を中心に熊谷〜三峰口間を1往復運行。片道約60キロを約2時間40分で結ぶ。
秩父鉄道営業推進課 TEL.048・523・3317
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