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キリシタンの歴史をしのばせる渕ノ元カトリック墓碑群 |
手つかずの自然、“明日の世界遺産”の教会群
東シナ海を染める夕日、世界遺産候補の教会群…。五島列島は、まばゆい光降り注ぐ自然と人々の祈りを宿す長崎西端の離島。新鮮な海の幸や五島うどんといった食の魅力にも恵まれる。今年春からは島内に電気自動車(EV)が導入され、観光レンタカーとして活躍し始めた。EVで五島の見どころを巡る“エコな旅”はいかが—。
“祈りの島”の夕日
北東から南西へ大小140もの島が連なる五島列島。九州本土の長崎港から100キロほど離れていることもあり、南西部の下五島(五島市)、北東部の上五島(新上五島町)とも、“手つかずの自然”を残す。エメラルドグリーンの海と白い砂浜、波が白く砕けるリアス式海岸…。十字の墓標を照らし東シナ海に沈む渕ノ元カトリック墓碑群(下五島)の夕日は、キリシタン受難の記憶を残す“祈りの島”を象徴する美しさだ。
点在する50の教会の多くは入り江のそばに建つ。1873(明治6)年、キリシタン禁制の高札が撤去されるまで300年近くに及んだ幕府、新政府のキリスト教弾圧…。信仰を守る人々が、陸上交通が不便で役人の目が届きにくい地を祈りの場とし、舟で行き来した歴史が背景にある。
五島特産のツバキなどをあしらった壁の装飾や教会ごとに異なるステンドグラスの意匠…。西洋の技法と和の伝統が融合した造形美は、祈りの喜びの“結晶”だ。五島初の洋風建築・堂崎教会(下五島)、石造りの頭ヶ島教会(上五島)など6教会は、世界遺産暫定リストに記載された“明日の世界遺産”。ただ、道路網が整備された今もバスなどの便は悪く、どの教会も観光地化とは縁の薄い静寂の中にたたずむ。NPO法人長崎巡礼センター新上五島ステーションの下峰五月さん(33)はほほ笑む。「教会は、わたしたち信者にとって心のよりどころ。連綿と続く祈りの深さに思いを致していただければ…」
“明日の世界遺産”の一つ、青砂ヶ浦教会と電気自動車。五島の教会の多くは、高度道路交通システムの「おすすめルート」に組み込まれている |
“ご当地ナビ”搭載
五島には今年春、EV100台が導入され、主にレンタカーとして利用されている。EVと高度道路交通システム(ITS)を組み合わせた未来型ドライブ観光を目指す長崎県の事業で、7月には「エコな島・五島」をアピールする100台パレードが、世界初としてギネス認定された。
導入の推進役としてパレードの先頭を運転した今村晃さん(46)=五島市職員=は「路線バスの本数が少ない上、離島でガソリン代が高いということもあり期待は大きい」と声を弾ませる。
では乗り心地は—。試乗した記者の印象では、加速度や車内の居住性はガソリン車とほぼ同じ。エンジン音は静かで、走行中も野鳥のさえずりが聞こえてくる。ITSに登録された10の「おすすめルート」を使えば、五島の見どころを効率良く回ることができる。
充電後の走行距離は80〜160キロで、1日中ドライブを楽しむには少し心もとないが、観光・休憩施設やレストランには計15基の急速充電器が整備されている。30分ほどの充電時間を上手に観光プランに組み込みたい。
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五島うどんの「かけば(掛巻)作業」。生地を手と竹管を使って延ばす |
五島うどん手延べ体験も
一説によると、日本のうどん発祥の地—。かつて遣唐使船の寄港地になった五島は、海外貿易の中継地として栄えたこともあり、古くから大陸の食文化がもたらされた。
漁の留守を預かる女性たちが作ってきた五島うどんは、コシのある細めの手延べめん。船崎うどん伝承館(上五島)では、生地の手延べ作業を体験できる(要予約)。伝統を受け継ぐ人たちの中でも、「太さやうどん粉の調合が少しずつ違う」と代表の平岩勝行さん(61)。「食べ比べて一番好きな五島うどんを発見して」と話す。
四方を美しい海に囲まれているだけに、自然海塩の生産も盛んだ。サカキの塩本舗(上五島)の白石治光さん(58)は4日間かけて、海水を薪(まき)でたく。「ほのかな甘味が感じられる塩。手間をかけることで、塩の結晶が大きくできる」。五島の海の幸や五島牛のうま味を引き立てる“名脇役”だ。 |
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