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最上の羅臼昆布を手作業で削る扇子商店の扇子忠之さん。「手作りは味、粘りとも、機械で作る加工品より数段上」 |
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北前船がはぐくんだ「伝統の健康食」
富山湾と立山連峰の自然に恵まれた富山は、北前船(きたまえぶね)の歴史がはぐくんだ昆布の食文化を持つ。昆布の世帯当たり購入額は“全国一”。東京でも珍しい昆布専門店が県内各地に店を構える。昆布締めなど、昆布のうま味を生かした料理は、驚くほど多様。ミネラル類をたっぷり含む上、低カロリーとあって、地元では「女優食」とも呼ばれている。昆布料理の滋味を求め富山を歩いた。
生活に身近な専門店
江戸〜明治時代、日本海を行き来した北前船。北前船を通して北海道からもたらされた昆布は、“天然のいけす”と呼ばれる富山湾の海の幸などと出合い、富山に独自の食文化を発展させた。
総務省統計局の家計調査(2006〜08年、2人以上世帯)によると、富山市の昆布購入額は、大阪市や那覇市を上回り全国一。昆布だしを利かせた富山の料理は、「素材本来の持ち味を大切にした味付け」という。
昆布締めや昆布巻きかまぼこ、昆布入りもちなど、昆布を食べる料理も数多い。黒とろろ、白とろろ、おぼろ昆布…。県内の専門店には昆布を削った加工品も並ぶ。高岡市で扇子商店(TEL.0766・23・0808)を営む扇子忠之さん(52)は、「白とろろ、おぼろ昆布は、お湯を注ぐだけで最高の汁物になる」と笑みを見せる。首都圏ではなじみが薄い黒とろろは、「昆布を削った表面の部分」。のりのように「おにぎり」に使うと、「東京でほとんど売ってないのが不思議なほどのおいしさ」と話す。扱う商品は最上の羅臼(らうす)昆布を中心に30種類を超す。
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氷見牛の昆布締めは火を通さずにいただく。牛肉と昆布が互いのうま味を引き立てる
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牛肉の昆布締め
昆布締めには、魚介類だけでなく山菜や豆腐、牛肉なども使われる。扇子商店から昆布を仕入れる氷見市の「氷見牛専門店たなか」(TEL.0766・73・1995)は、自社牧場で育てた氷見牛のもも肉の昆布締めを直営レストランで出す(要予約)。「4時間ほどで昆布のうま味が程よく肉に染みる」と同社代表の田中賢治さん(61)。「生肉より味が深いと言われます」と語る。
カルシウムやカリウムなどのミネラル、食物繊維に富んだ昆布は、伝統的な健康食ともいわれる。女子栄養大の松本仲子名誉教授は「だしをきちんと取る家庭が減った今、“日本人の味”ともいえる昆布は、栄養的にも優れた食材。食事全体のバランスに気を配りながら食生活に取り入れたい」と指摘している。
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富山市岩瀬地区の町並み。富山駅からは、富山ライトレール(愛称・ポートラム)の利用が便利 |
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町並みに残す交易の“記憶”
北前船の歴史をしのぶ場所としておすすめなのが、寄港地として栄えた富山市の岩瀬地区。明治に建てられた回船問屋の家並みと石畳の道は、往時の面影を色濃く残す。
中でも国重文「森家」(TEL.076・437・8960)は、当時の回船問屋型町屋の代表的建築。屋久杉や能登産黒松を用いた重厚な構造が、昆布やニシン、米、酒、衣類などの交易による隆盛を物語る。 |
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落ち着いた雰囲気の瑞龍寺 |
加賀藩ゆかりの名刹も
決して派手ではないが、富山には歴史の“ひだの深さ”を感じさせる見どころも少なくない。高岡市の瑞龍寺は、加賀藩2代藩主、前田利長の菩提(ぼだい)を弔うため江戸初期に建立された曹洞宗の名刹(めいさつ)。国宝の山門、仏殿、法堂が荘重なたたずまいを見せる。副住職の四津谷道宏さん(41)は、「徳川家にはばかったためか一見地味だが、当時の空間美学の粋を結集した建築」と語る。
高岡では千本格子のある町家と石畳が続く「金屋町」、土蔵造りの町並みの「山町筋」も散策におすすめだ。 |
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【富山の観光・物産に関する問い合わせ】
富山県アンテナショップ「いきいき富山館」
TEL.03・3231・5032 |
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