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文人・大町桂月にも愛された蔦沼。後ろに見えるのは赤倉岳。近くには桂月の墓もある |
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美しい観光地・十和田湖や奥入瀬(おいらせ)渓流を有する青森県・南八甲田(十和田市)。観光客でにぎわう十和田湖からちょっと北に足を延ばすと、自然に囲まれた、ひなびた一軒宿の温泉が点在する。十和田八幡平国立公園内にある蔦(つた)温泉、谷地温泉、猿倉温泉…。静かな環境からか、あまり観光客で混み合っておらず、ゆっくり自然と温泉を楽しむには格好の“穴場”だ。新緑のまぶしい季節。おいしい空気と名湯を求めて同地を歩いた。
ブナ林、野鳥...蔦温泉
十和田湖からバスで約1時間(JR八戸駅からは車で約1時間20分)。八甲田連峰・赤倉岳の山ろくに位置する蔦温泉。同温泉一帯は、うっそうとしたブナ林が広がり、“野鳥の宝庫”だ。旅館を出るとすぐに国設「蔦野鳥の森」として散策路が整備されており、山好きにはたまらない。
地元で多彩なアウトドアツアーを展開する(株)ノースビレッジ(TEL:0176・70・5977)のチーフガイド、丹羽裕之さん(29)と「蔦野鳥の森」を歩いた。約3キロ、所要時間1〜2時間のコースだ。若い人はもちろん高齢者でも気軽に歩ける距離だが、見どころは実に多い。わずか3キロの散策路沿いに次々現れる表情豊かな6つの沼。葉の淡い色合いや立ち姿から女性的と形容される、美しいブナの木々。そしてアカショウビンなど数十種類も生息するという野鳥…。特に背後に赤倉岳がそびえる蔦沼の景観は「素晴らしい」の一言に尽きる。
「ここの自然が気に入って北海道から移り住んだ」という丹羽さんは同所の魅力を話す。「豊富なブナ林や野鳥などが気軽に見られる日本有数の場所です。しかもアクセスがいいのに混んでいない。歩いた後はすぐ温泉があるので疲れを癒やせます」
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蔦温泉「久安の湯」 |
山歩きの後はやはり温泉がいい。850年以上もの歴史を誇る蔦温泉は、浴槽のすぐ下に源泉がある。底板のすき間から時折ぶくぶくっと泡が上がり、温泉がわき出していることを実感できる。じっと漬かっていると、疲れも吹き飛びビールが恋しくなってくる。
同温泉はまた、明治の文人・大町桂月が晩年を過ごした地としても知られる。桂月は同温泉や周辺の風景をこよなく愛し、本籍も同温泉に移したほど気に入っていたという。
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昔ながらの湯治場の風情が残る谷地温泉。冬には野生の「テン」が出没することも |
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泉質が自慢でリピーターも多い猿倉温泉 |
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谷地と猿倉、山奥の秘湯
蔦温泉から国道沿いをさらに北上すると、タイプの異なる2つの温泉「谷地温泉」と「猿倉温泉」がある。
日本三秘湯の一つに数えられる谷地温泉は、開湯以来400年、湯治場として栄えた。「ぬるめで無色透明」「高温で白濁」という2つの泉質のお湯が楽しめる。ぬるめの「下の湯」に漬かってから、熱めの「上の湯」に入るのが正しい入浴法だとか。同温泉は瀬戸内寂聴がベストセラー「源氏物語」執筆の際、約1カ月滞在したことでも有名だ。
標高850メートルに位置する猿倉温泉は、南八甲田登山口にあり、山登りの拠点だ。同温泉は、硫化水素硫黄泉。空気に触れると、少し青味がかった白濁色になるお湯は温泉らしい独特の臭気を感じさせる。とにかく湯量が豊富で、近くの十和田湖温泉郷の元湯にもなっている。
同温泉には、和室や洋室のほか、専用の露天風呂が付いたコテージタイプの離れも。また、食事はリピーターに多いシニア層に配慮。厳選した地場食材はもちろん、“多過ぎず少な過ぎず”の適量を供してくれるのがうれしい。「ここに来たら『何もしないぜいたく』を存分に味わって」と同温泉の小笠原良一代表取締役(59)。
それぞれ趣の異なる蔦温泉、谷地温泉、猿倉温泉は歩いても回れる距離(直線距離で約5キロ)にあるので、自然散策がてら湯巡りするのも一興だ。 |
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【問い合わせ】
■蔦温泉旅館 TEL:0176・74・2311
■谷地温泉 TEL:0176・74・1181
■元湯 猿倉温泉 TEL:0176・23・2030
■交通アクセスなど観光全般は青森県東京観光案内所 TEL:03・5276・1788 |
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