収穫したヒエを束ねて乾燥させる伝統的な方法「ヒエ島」。茎に残っていた養分が実に吸い上げられ、甘みの強いヒエができるという
岩手・二戸、実りの秋へ…
ヒエ、アワ、タカキビ、アマランサスなど岩手県は国内随一の雑穀生産量を誇る「雑穀王国」だ(2008年:766トン)。中でも県北・二戸地域(二戸市、軽米町、一戸町、九戸村)は古くから冷涼な山間地を利用した雑穀の一大産地。
9月には同地で雑穀の魅力と可能性を探るサミットが開催される。周辺には「座敷わらし」伝説のある金田一温泉や景勝地の馬仙峡など見どころも。実りの秋、“滋味”あふれる二戸地方へ出かけてみては─。
冷涼な気候がはぐくむ 体に優しい“滋味”
雑穀とはアワやヒエなどイネ科の穀物の総称。日本では縄文時代から栽培が始まったとされ、今でも「五穀豊穣(ほうじょう)」という言葉が残るほど。
冷害の多い北東北では凶作時の備えとする習慣もあるなど日本人の食生活に欠かせない作物だった。戦後、米食の広がりで消費量が激減したが近年、消費者の健康志向や食の安心・安全問題を背景に緩やかな増産傾向にある。
「まずい」「貧しい」といった負のイメージとは対照的に、注目すべきはその栄養成分。現代人の食生活に不足しがちなミネラルや食物繊維が豊富で、白米の数倍にも(上表参照)。
「へっちょこだんご」
コレステロールを洗い流して血液をサラサラにしたり、整腸作用による美容・美肌効果があったりと、雑穀の栄養的価値はますます注目されている。
高い栄養的価値 先人の知恵生かす
滋味滋養に富んだ雑穀は生命力が強く、寒冷地での栽培にも適する。平地の少ない地形条件と夏の冷風「やませ」など、二戸地方の雑穀栽培はそんな稲作に不向きな環境を逆手にとったものだった。
特徴は先人の知恵に基づいた無農薬栽培。抗生物質を使用しない発酵鶏糞での栽培や、「ヒエ島」と呼ばれる伝統的な自然乾燥方法による乾燥と熟成、生産履歴から流通経路までの情報をたどれるトレーサビリティーの徹底など…。
尾田川勝雄さん
軽米町で「安心・安全」な雑穀作りにこだわる尾田川農園代表の尾田川勝雄さん(55)は「先人の苦労に思いをはせて、現代の食や健康の危機の中で、雑穀の価値を再発見して発信したい」と話す。
雑穀を使った食べ方もいろいろだが、ポピュラーなのはヒエやアワなどを白米と混ぜて炊く雑穀ご飯。見た目の色合いに加え、弾力やプチプチとした食感も味わえる。
またタカキビ粉をこねてコイン型にした団子をあずき汁に入れた「へっちょこだんご」はツルリとした食感の伝統食。人の「へそ」に似た形が名前の由来で1年間の農作業の「へっちょ(苦労)」をねぎらって食べられるとか。
“麺通(めんつう)”の人や土産には、雑穀を練りこんだ五穀ラーメンや五穀冷麺、もじゃっぺ餃子などがおすすめ。二戸市内の飲食店で味わえるほか、物産・産直店などで購入もできる。
観光スポット
二戸地域には、豊臣秀吉の天下統一最後の戦いが行われた九戸城跡、国指定の名勝・男神岩と女神岩などを抱える馬仙峡がある。かつては南部藩の指定湯治場だった金田一温泉郷は、皮膚病や胃腸病にいいとされる単純泉。
出会えると幸運があるという伝説の「座敷わらし」の宿は有名だ。その伝説は芥川賞作家・三浦哲郎の長編童話「ユタとふしぎな仲間たち」のモチーフにもなっている。
「座敷わらし」の宿で有名な金田一温泉郷
馬淵川の清流を挟んでそびえ立つ馬仙峡。紅葉は例年10月中旬〜下旬ごろ
9月に雑穀サミット「全国雑穀サミット in かるまい」
9月12日(土)と13日(日)の両日、軽米町民体育館(二戸駅からシャトルバス約40分)などで。全国の雑穀生産、流通加工、販売に携わる関係者と消費者が一堂に会し、雑穀の未来や素晴らしさを考え、全国に発信する。記念講演は、難病を雑穀で克服したという女優で雑穀アドバイザーの奈美悦子さん(58)。また、雑穀料理教室や雑穀ほ場見学ツアー(一部、有料)など生産者の“顔”が見える交流企画も行われる。
観光、サミットの問い合わせ
二戸地方振興局TEL0195-23-9201
サミットの申し込み
いわて銀河鉄道(株)TEL019-643-1489