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太宰 治
(龍飛崎の文学碑より) |
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来年生誕100年
《本州の袋小路 はじめての心の平和を体験》
昭和を代表する作家、太宰治(1909~48)を生んだ青森県。太宰は35歳の時、小説「津軽」執筆のため、約3週間をかけ故郷・青森を旅して回った。金木、外ケ浜、小泊…。その旅の模様を著した“太宰流ふるさと風土記”ともいえる同小説は、ユーモアや郷土愛にあふれ、数ある作品群の中でも異彩を放つ。太宰自身にとっても思い出深い旅だったようで《私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであった》(「津軽」序編)と記したほど。折しも来年は太宰生誕100年を迎える。芸術の秋、太宰の足跡を求めて“津軽文学散歩”に出てみよう。
創作の原点「斜陽館」
太宰を知る上で見逃せないのが五所川原市金木町にある太宰治記念館「斜陽館」だ。同館は、1907(明治40)年に太宰の父・津島源右衛門が建てた津島家の大邸宅。太宰はここで生まれ幼少期を過ごした。当時の長者番付上位に名を連ねるなど県内を代表する富豪だった津島家らしく、国指定重要文化財の建物は和洋折衷の豪華な造りだ。
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当時の建築の粋を集めた斜陽館。太宰ファンはもちろん、歴史的建造物ファンにもおすすめだ。 |
土間や板間、太宰が誕生した洋間などが当時のまま修繕・復元され、蔵を改造した展示室には太宰愛用のマントや帽子、著作など貴重な資料も展示。太宰の人格や作品に大きな影響を与えた当時の生活ぶりを垣間見ることができる。
「太宰の原点ともいえる生家をぜひ見てほしいですね。ここに来れば、作品が生まれる過程がよく分かります」と同館支配人の今幸樹さん(36)は話す。
このほか金木町には太宰ゆかりの史跡が豊富だ。終戦直前に妻子と疎開してきた太宰が1年4カ月間暮らした居宅「太宰の暮らした疎開の家」や、小説にも登場する津軽鉄道の駅舎、雲祥寺、文学碑のある芦野公園…。
太宰が友人らと酒を酌み交わして文学談義をした観瀾山公園 |
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道中、酒あり友あり
小説「津軽」では、太宰は蟹田(現・外ケ浜町)から出発し、三廐(みんまや)、龍飛へと北上する。道中、太宰は実によく酒を飲む。友人N君(中村貞次郎)と再会しては酒を飲み、蟹田の港を一望する観瀾山公園で花見をし、さらに行く先々で酒を飲む。途中で切らしてはいけないからと水筒に酒を入れて持ち歩く始末。《ここは、本州の袋小路だ》(「津軽」)と太宰がいう龍飛の宿「奥谷旅館」では、N君とともについに持参の酒も飲みほしてしまう…。
宿帳に太宰の名前が残っている奥谷旅館は、ほぼ当時の姿のまま現存している。現在は観光案内所として活用され、内部の見学も可能。奥谷旅館や観瀾山公園を訪ねたら、持参の酒で“一杯”やるのも一興だ。
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太宰(右)とタケの像。
再会直後、小学校の運動会を見ている場面。太宰はタケに甘えるように足を投げ出している |
クライマックスの地
「津軽」のクライマックスは小泊村(現・中泊町)で迎える。太宰が“わたしの母”と慕う、幼少期の子守・越野タケと約30年ぶりに再会する感動的な場面だ。太宰がこの旅で最も楽しみにしていたというだけあって、再会時の心情を手放しで吐露する。
《平和とは、こんな気持の事を言うのであろうか。もし、そうなら、私はこの時、生まれてはじめて心の平和を体験したと言ってもよい》(同)
「小説『津軽』の像記念館」は、太宰とタケの再会場所の程近くにある。同館には、太宰とタケの像や2人の関連資料、在りし日のタケを撮ったインタビュー映像なども。「小泊の歴史を語る会」会長の柳沢良知さん(69)は「『津軽』の旅は、波乱に満ちた太宰の人生の中でも一番幸せな時期だったのではないでしょうか」としみじみ語る。
斜陽館
入館料:一般500円
TEL:0173-53-2020
太宰の暮らした疎開の家
TEL:0173-52-3063 |
小説『津軽』の像記念館
入館料:一般200円/TEL:0173-64-3588 |
★青森県が観光モデルルート設定
青森県は「小説『津軽』の旅」と題した2泊3日の観光モデルルートを設定している。同ルートの詳細や観光全般についての問い合わせは、TEL017-734-384(同県新幹線交流推進課) |
★ゆかりの太宰らうめん
金木観光物産館「マディニー」(「斜陽館」向かい)内にある郷土料理「はな」では、太宰の好物ネマガリダケやワカメが入った特製ラーメン「太宰らうめん」(730円)を提供。また、地元産の若生(わかおい)昆布でごはんを包んだ郷土食「若生のおにぎり」(2個入り350円)も。TEL0173-54-1155 |
★その他の見どころ
◎立佞武多の館
五所川原の夏の風物詩「立佞武多(たちねぷた)」。高さ約22メートル、重さ約17メートルの巨大ねぷたが街を練り歩く姿は圧巻だ。「立佞武多の館」では、常時3台を展示。4階から1階へ続くらせん状のスロープを下りながら間近にねぷたを見学できる。入館料一般:600円/TEL:0173-38-3232
◎津軽金川焼
五所川原市金山にたい積する良質の粘土から作られる津軽金山焼。釉薬(ゆうやく)を一切使わず、約1300度の高温でじっくり焼き上げる「焼き締め」の手法が特徴だ。使えば使うほどしっくりと手になじむ金山焼は全国にファンも多い。工房見学や制作体験も。
TEL0173-29-3350(津軽金山焼窯業協同組合) |
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