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海神神社の一の宮として古くから竜宮伝説の残る和多都美神社。潮の干満によって鳥居の見え方が異なる |
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韓国から49.5キロ─。長崎・対馬は日本本土よりも韓国に近い“国境の島”だ。晴れた日には、島の高台から韓国・釜山の街並みが見えるほどの近さとあって、韓国人観光客の姿が目立つ。いにしえより、対外交流の要衝として栄えた同島の魅力を求めて、対馬を訪ねた。
“国境の島”
上空から望む浅茅湾の絶景
対馬空港に着陸寸前、飛行機の窓から見える同島浅茅(あそう)湾の景観に圧倒される。大小幾つもの入り江や島々が複雑に入り組んだ姿は上空から眺めるのが一番いい。全島の約90%が山林という対馬は、ツシマヤマネコなど動植物の宝庫だ。北方系や大陸系、南方系などの動植物が入り交じった、日本でも珍しい生態系は、“生物分布のクロスロード”として注目される。
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万松院の墓所に至る石段。幽玄な雰囲気が漂う |
宗氏の墓所/海の鳥居 “出色”の万松院
対馬の歴史スポットの中でも出色なのが、鎌倉時代中期から幕末まで約600年間にわたって同島を統治した宗氏のぼだい寺「万松院」だ。同院は宗氏第20代宗義成がその父義智のめい福を祈って1615年に建立した寺で、徳川歴代将軍の位牌(いはい)や朝鮮関係の資料なども所蔵。石段を上りつめると、うっそうとした林の中、歴代藩主や夫人、側室の墓がびっしりと並ぶ墓所に出る。同院は、加賀の前田家(石川)、萩の毛利家(山口)と並んで日本三大墓所のひとつに数えられている。
長渡稔治さん |
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ボランティアでガイドを務める長渡稔治さん(71)は解説する。「宗氏は、豊臣秀吉や徳川家康など時の権力者に対外交流の手腕を認められ、長きにわたって所領を堵(あんど)されてきました。ここにあるお墓は、大きなものや小さく品のあるものなど、藩主の個性によってそれぞれが違います。歴史をひもといて人物を知ってからみると、感慨もひとしおです」。長渡さんは種子島(鹿児島)生まれだが、対馬の魅力に引かれ、住みついてしまったという。
「和多都美」の美
宗氏や同島の歴史を手っ取り早く知るには「対馬歴史民俗資料館」がおすすめだ。同館では、江戸時代の日朝交流の様子が分かる「朝鮮通信使行列絵巻」(長崎県指定文化財)など多数の貴重な資料を見ることができる。
このほか、海中にそびえる鳥居が美しい平安時代の名社「和多都美(わたづみ)神社」など、歴史遺産には事欠かない。
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若田硯を制作する原嶋千照さん |
島に硯の匠
“墨のり”が良く、かの紫式部が愛用したと伝えられる「若田硯(すずり)」は、知る人ぞ知る対馬の特産品だ。島で採取された原石を素材に石の模様をそのまま生かして作られた硯の名品で、東京や関西など全国の書家が購入に訪れるという。
「若田石硯 夢工房」の原嶋千照さん(65)は、島でも数少ない硯作り職人のひとり。福岡出身の元自衛隊員という“変わり種”だ。趣味が高じてこの世界に入り、今では年間500~700個も仕上げるほどに。「採石から仕上げまですべて手作りです。石にも個性があるので、素材選びが肝心。いい石を見つけてきちんと磨けば立派な硯になるんです」と、原嶋さんはこだわりを見せる。
郷土のめん「ろくべえ」
対馬は、近海が良質な漁場とあって、イカやアワビ、サザエなど食材も豊富。それら新鮮な魚介を熱した石の上で焼いて食べる、豪快な漁師料理「石焼」もお薦めだが、素朴な郷土料理「ろくべえ」も試したい。
「ろくべえ」とは、サツマイモのでんぷんからできたダンゴ状の乾燥保存食をお湯で戻して、めんにした家庭料理だ。褐色の短いめんを旬の魚からだしを取ったつゆとともに頂く。うどんやそばとも異なる、プルッとした不思議な食感が魅力。人気料理漫画「美味しんぼ」にも取り上げられた“対馬の味”だ。
対馬歴史民俗資料館
TEL:0920-52-3687 |
若田石硯 夢工房 TEL:0920-54-4228 |
観光全般に関する問い合わせ
対馬市観光交流課/TEL:0920-53-6111 |
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