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牧水の生家。2005年に一度解体し、もともとあった柱や材料を使って復元されたもの。往時の空気まで伝わってくるようだ |
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生家やゆかりの焼酎
日向灘に面した宮崎県日向市は、荒波に磨き上げられた「馬ケ背」や、江戸時代に商業港として栄えた白壁土蔵の「美々津町並保存地区」、そして日本唯一のはまぐり碁石の産地として知られる。大らかな黒潮文化が薫る一方で、山の顔も持ち合わせるこの地はまた、歌人・若山牧水の生まれ故郷でもある。旅と酒をこよなく愛した牧水の面影を求めて同市東郷町を訪ねた。
尾鈴山を幾重にも抱く山並み、坪谷川の清流…。のどかな山里風景が広がる東郷町坪谷に「若山牧水生家」はある。医師であった祖父・健海が江戸時代後期の1845年に建てたもので、住居と医院を兼ねた瓦ぶき2階建ての木造家屋は、牧水が誕生した1885年当時の状態で保存されている。
《幾山河越えさり行かば寂しさの終てなむ国ぞ今日も旅ゆく》。代表作として知られるこの歌は23歳のとき中国地方への旅の途中に詠んだ作品だが、その心は故郷に飛んでいたに違いない。早稲田大学卒業後、文学を志し、故郷を離れた牧水は家庭を持っても旅することが生きる証しであるかのように各地を歩き続けた。
生家裏山には《ふるさとの尾鈴のやまのかなしさよ秋もかすみのたなびきてをり》の歌碑が立つ。牧水は1928年、43歳で他界。命日の9月17日前後には、ここで「牧水献酒会」が行われるという。「何しろ朝2合、昼2合、夕方には6合飲んでいたそうですよ」と地元の焼酎蔵元の人が教えてくれた。牧水は大の酒好きで、そのために命を縮めたといわれるが、酒が生み出した秀歌も数多い。
生家の向かい側の小高い丘陵地には「牧水公園」があり、「若山牧水記念文学館」 (TEL0982・68・9511) をはじめ、河川プール、キャンプ場、コテージなどの施設で、自然と文学を満喫できる。
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「故郷への思いを『あくがれ』に託しました」と、黒木繁人さん |
牧水の思い醸す
牧水にちなんだ芋焼酎「日向あくがれ」の蔵元、富乃露酒造 (TEL0982・68・3550) を訪ねた。社長の黒木繁人さん(49)は、若いころからさまざまな地域活動に参加するうちに、故郷の文化を発信する仕事もしたいと思うようになったという。あるとき、歌人・伊藤一彦氏の講演を聞き、酒好きの牧水と南九州の食文化である焼酎がごく自然に結びついた。そして苦労の末、新しい蔵を立ち上げ、04年12月に初蔵出し。
《けふもまたこころの鉦をうち鳴らしうち鳴らしつつあくがれていく》。焼酎の名はこの歌からとった。本来、「あくがれ」とは「在所離れ」の意味で、心が何かに誘われて今あるところを離れ去っていくことをいう。この「あくがれ」こそ、牧水の文学と生き方を貫いていたものだ。
焼酎「あくがれ」は宮崎産の甘藷(かんしょ)コガネセンガンに、ヒノヒカリとコシヒカリ、米白麹(こうじ)、蔵の裏手を流れる耳川の伏流水を仕込んでできる。「目指したのは料理の味を邪魔しない食中酒。多くの人に受け入れられる味です」と、黒木さん。芋の香りが優しく、すっきりした飲み口だ。
蔵を任されている杜氏(とうじ)の高妻淑三さん(36)は、このほかにも、東郷町で育てた芋ダイチノユメを使った「東郷 大地の夢」、地元産の雑穀を用いた「吉兆五穀」(黒麹・黄麹)など、「地消地産」「身土不二」をテーマにした焼酎づくりにもチャレンジ。
『若山牧水記念文学館』
TEL:0982-68-9511
『日向あくがれ』
富乃露酒造:TEL0982-68-3550
『新宿みやざき館KONNE』
購入できます!
TEL/03-5333-7764
問い合わせ : 日向市役所 / TEL0982-52-2111 |
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