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  東京版 令和6年12月下旬号  
父の老衰・看取りを小説にう  作家・谷川直子さん

3人姉妹の次女として、神戸に生まれ育った谷川さん。小説「その朝は、あっさりと」の「次女・素子」は、「私と妹の複合体みたいなもの」と言う。小説は「長女・次女・長男」の3人きょうだいという設定。作中の「長男」は介護に手を貸すことはないが、訪問介護の男性スタッフは愛情と敬意をもって世話に当たり、介護離職をした男性は友人である素子に苦労話を聞かせる。谷川さんは「家族の介護をする多くは女性だけれど、実際に仕事を替えたという男性の友人もいて、その話も作品に取り込みました」
実体験もとに「その朝は、あっさりと」を執筆
 最期までの20日間をつづった老衰介護看取り(みとり)小説—。作家・谷川直子さん(64)の新著「その朝は、あっさりと」は、実父を亡くした自身の実体験をもとにした創作だ。在宅死を選んだ家族の葛藤、認知症を患い「旅立ち」へ向かう父の心のうち…。看取る側、看取られる側双方の視点を織り込んだ作品は「老い」や「死」を詠んだ小林一茶の俳句と相まって、「見捨てない温かさに満ちている」と静かな反響を広げている。「認知症になって一番つらいのは本人のはず」と言う谷川さんは、こう続ける。「去りゆく人の心に寄り添うのは、看取る側の“死に稽古”にもなるのではないでしょうか」

  《いざさらば死(しに)げいこせん花の陰》

 小説「その朝は、あっさりと」では、「父・沢田恭輔」の独白の中、随所に一茶の句が散りばめられる。谷川さんの実父は長く中学校の教壇に立ち短大教授にもなったが、2年ほど前、神戸市の自宅で96年の生涯を閉じた。アルツハイマー型認知症の発症から10年、骨折して一時期「要介護4」になってから4年…。看取りの半年後、創作を始めた谷川さんは「やがて『何かが足りない』と…、筆が止まりました」と苦笑する。「父の声が入っていない」。俳句が趣味だった父を思い構想を練り直す中、一茶の句集を読み返し、老いや死にまつわる句の数々に目を見張った。

 《ちる花や已(すで)におのれも下り坂》

 《死支度(しにじたく)致せ致せと桜哉》

 父の心中を推し量り、それらの句と併せて物語に取り込むことで、「単なる『介護体験談』を超えた作品になると確信しました」。

52歳で文藝賞受賞
 谷川さんは筑波大学卒業後、雑誌編集者などを経てエッセイストに。1999年に初の小説を著したが、「長い間、仕事の軸はエッセーでした」と振り返る。ただ、「フィクションの形を取った方が“本当のこと”に迫れるときもある」と感じ、文学賞への応募を重ねてきた。52歳のとき、お金と新興宗教をテーマにした小説「おしかくさま」(2012年)で第49回文藝賞を受賞。「父がすごく喜んでくれて…、認知症になったのは、そのすぐ後でした」とかみ締める。それからは恋愛や結婚・離婚、うつ病、介護など、自身の体験に基づいた小説を次々発表。このうち「私が誰かわかりますか」(18年)は、再婚して長崎県五島市に移り住んでから、「嫁」の立場で認知症の義父の介護に当たった経験が生かされている。「ただ、義父のときは日々の対応で精いっぱい。小説で義父の心のうちを言葉にする発想は湧きませんでした」

「かんたき」の支え
 12年ほど前、義父を看取ったのもつかの間、「今度は実の父の心配」。遺品となった日記には「きょう一日、何があったか全然思い出せないけれど、穏やかな日だったのだろう」といった記述が残されている。転倒による骨折の後、家族で福祉施設入所も考えたが、父の気持ちを知る母が最期までの在宅介護を決断した。阪神・淡路大震災で自宅を失った両親は貯金をはたいて家を建て直したため、「お金にそう余裕があるわけでもありませんでした」。そこで助けになったのは、「看護小規模多機能型居宅介護(通称・かんたき)」だ。看護と介護を一体的に提供するサービスで、谷川さんは「実家に近い『かんたき』(の事業所)が親身になって寄り添ってくれました」と感謝する。

 今年8月出版の新著「その朝は、あっさりと」では、「三度目の危篤」や「トイレ地獄」などの全10章を通し、父に振り回されながらも頑張る家族、「かんたき」スタッフの献身的な支えが、虚実入り交じる父の独白とともに描かれる。実体験、創作ともに「延命治療はしない」。自身を、遠距離介護のため千葉と神戸を行き来する作中の「次女・素子」のモデルの一人とした谷川さんは、「でも、点滴だけはしました」と明かす。「母が『点滴は水分補給だから』と言って…。母も本当はすごく揺れ動いていました」。口から食べられなくなった父への点滴をやめる決断をした際は、「涙が止まりませんでした」と回想する。自らつづった小説にも、ほぼ同様の描写…。「作品の根幹は実体験。そこに創作を“盛った”という感じです」。点滴取りやめから亡くなるまでの10日間、作中の「父」には不安も焦りもなく、その意識は「生と死のあわい」をたゆたうように行き来する。

 《百年近く生きれば、このからだも寿命が尽きており、心臓が打つのをやめるのもしかたあるまい》

 そして、看取りを終えた家族は長く続いた緊張感から解放され、「どこか晴れ晴れした気持ち」に包まれる。

 「読後感が爽やか」「何かほほえましい印象も」といった感想が寄せられる中、谷川さんは「この小説が介護に疲れた人の『小さな癒やし』になり続ければうれしい」と笑みを見せる。「私にとって介護、そしてそれを題材にした創作は、父の来た道をたどり、自分の生き方と照らし合わせたりする得難い作業になりました」。その上で、還暦を過ぎた今の心境を語る。「いずれは訪れる『死』を念頭に、かつては“新人類”などと呼ばれた自分たちの世代にしか書けないものを、背伸びをせずに書いていきたい。『さらっと読めて、それでいて(心に)残る』。そんな小説をこれからも追求し続けます」

「その朝は、あっさりと」 谷川直子著
 「みんな先に死んでいく」「死ぬのにもってこいの日」「その朝は、あっさりと」などの10章構成。
(朝日新聞出版・1870円)

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