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  東京版 令和6年8月下旬号  
安部公房原作「箱男」、執念で映画化  映画監督・石井岳龍さん

「私は映画世代」と映画で使われた段ボール箱に手を置いて話す石井監督。「子どものころは童話や推理小説はよく読んでいましたが、純文学は苦手で、ほとんど読んでいませんでした」。そんな中で例外だったのが安部公房で、その作品世界にひかれていたという。「安部さんの小説のSF的な、奇想天外な発想で現実を鋭く突くようなところが好きです」
製作中止の悲劇から27年
 世界的な人気作家・安部公房の代表作「箱男」。その小説の映像化に執念を燃やし続けた石井岳龍監督(67)の映画「箱男」が23日から全国公開される。幻惑的で難解な内容のため困難と思われていた同小説の映画化には、これまで日本や欧米の監督が挑んだが、さまざまな理由で企画が立ち上がっては消えてきた。安部から映画化を許されたものの27年前、撮影開始前日に製作中止となった経験を持つ石井監督。その後もチャンスをうかがい続け、安部の生誕100年の今年、ようやく完成にこぎつけた。「映画化に際し安部さんから託されたのは娯楽性でした。物語を楽しむと同時に『箱男』を体感してほしい」と話す。

 小説「箱男」は、その著作が世界20数カ国で翻訳出版されている安部公房が1973年に発表した代表作の一つ。主な登場人物は箱男と偽医者、看護師、軍医の4人。段ボール箱をかぶり自分という存在を隠すことで、優越感と自由を獲得したかのように見える「箱男」。だが彼の前に、その箱や彼の命を狙う人々が現れて「箱の所有権を明け渡せ」「われこそは本当の『箱男』である」と主張し始める…。発表当時は、特異な設定と思われた小説の世界観だが、石井監督はこう解釈する。「われわれは社会のさまざまなしがらみに折り合いをつけて生きている。その息苦しさから抜け出す方法として、安部さんは段ボールをかぶせることで実践してみせたと思う」

 石井監督は若い頃に「箱男」を読み、登場人物のキャラクターに魅力を感じたと話す。

 「家を捨て、職を捨て、段ボールの箱をかぶる—、普通なら落後者と思われかねない立場なのに、『俺はお前たちのことを監視してやる』と逆に、自分の方が上だと思っている。そこがものすごく面白かった。これは映画になる、映画にしたいと思いました」。その後、石井監督(当時は石井聰亙)が「箱男」映画化のため、直接、安部公房を訪ねたのは32年前のこと。自分の映画「逆噴射家族」などが安部に気に入られ、「箱男」の映画化を託されたが、それから3カ月後に安部が死去。映画化に向け動き出したのは安部の死後約4年後の97年のことだった。日独合作映画として製作することになりロケ地、ドイツ・ハンブルクに巨大なセットを組み、永瀬正敏、佐藤浩市をメインキャストに「明日からいよいよ撮影」というときに映画の製作が中止に。「日本側の製作資金が集まり切れていませんでした」。さらに、追い打ちを掛けるように原作権を管理していた安部の娘、ねりが、「箱男」の映画化権を米ハリウッドに7年間の限定で売却。石井さんは映画化権が戻るまで待つしかなかった。その後、ハリウッドの著名監督や俳優によるパイロット版が製作されたが、それを見たねりが気に入らなかったため、「箱男」の映画化は再び頓挫する。

物語の世界“体験”
 子どものころから映画を見るのが好きだったという石井監督は、福岡県福岡市生まれ。「映画を見て(物語世界を)“体験”できるのが楽しかった」と言う。「子どものころに住んでいた町には映画館が2館あり、たくさんの映画館が並ぶ繁華街の中洲にも歩いて行ける距離でした」。そんな環境もあって、中学生から高校生のころは映画を毎日のように見ていたという。「土曜日にはオールナイトで5本立てとか見ていました。映画は僕の最大の娯楽でしたね」。高校卒業後、上京した石井監督は日本大学藝術学部映画学科に進学し、在学中から映画監督を目指し、映画を作り始めた。23歳で製作した「狂い咲きサンダーロード」(80年)が劇場公開され、一躍、インディーズ映画の旗手として注目を浴びる。初の商業映画「逆噴射家族」(84年)はドイツやイタリアでも高い評価を受け、その後も、「エンジェル・ダスト」(94年)や「五条霊戦記」(2000年)などの話題作を発表し続けている。

再度のオファーで
 そうした中、未完の企画となっていた映画「箱男」製作の機をうかがっていた石井監督は、再度、安部側に映画化をオファーして許可を得、今回の映画化へとつなげることができた。「だから、僕は箱男の映画化権を2回払っているんですよ」。そして、新たに脚本家のいながききよたかと脚本を書き始めたのが約10年前。その執筆中に最も頭を悩ましたのが看護師の若い女性「葉子」という存在だった。「50年以上前の原作では、彼女は男性に都合のいい描き方がなされている。けれど、現在ではそれは通用しない。葉子の立場を原作に肉付けして描くのが今回の映画化で一番苦労した点です」

 27年前に映画「箱男」が製作中止となった後、「それから2年間は廃人同然だった」と言う石井監督。同じように大きなショックを受けた出演者の永瀬と佐藤が今回の映画化で、そろって出演できたのも「良かった」。

 執念を燃やし続けて製作した映画「箱男」の公開を前に、石井監督はこう話す。「『箱男』は何としてもやり遂げなくてはいけない映画でした。それが完成した今は宿題を果たしたというか、肩の荷が軽くなったという感じです」。現在、新たな映画製作に向けて構想を膨らませているという。


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「箱男」 日本映画
 監督:石井岳龍、原作:安部公房「箱男」(新潮文庫)、脚本:いながききよたか、石井岳龍、出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太ほか。120分。

 23日(金)から、新宿ピカデリー(Tel.050・6861・3011)ほかで全国公開。

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