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  東京版 令和6年5月上旬号  
若い頃の夢に再挑戦…「再春」で笑顔に  俳優・長塚京三さん

「今でも西部劇が大好きで、テレビなどで放送されると見ています」と話す長塚京三さん。子どものころから父に連れられてよく映画館に行っていたが、途中から父と映画の好みが分かれることに。父が見ようとする映画に「それじゃない」と抵抗したこともあったという
映画「お終活 再春! 人生ラプソディ」に出演
 「僕でお役に立てるなら、という気持ちで俳優の仕事を続けてきました」と話す長塚京三さん(78)。今年で映画デビュー50年の節目を迎えた彼が出演するコメディー映画「お終活 再春! 人生ラプソディ」が31日から公開される。「ある程度の年齢になったら、『苦しいことも楽しくやりたい』という、この映画の明るいスタンスが好きです」と話す長塚さん。“終活世代”が若いころ抱いた夢に再びチャレンジする「再春」を提案し、シニアに笑顔と勇気を与える同作。「家族でも話題にしにくい終活ですが、映画を見ることで理解しやすくなるのでは」と話す。

 「お終活 再春! 人生ラプソディ」は、前作「お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方」(2021年)に続くシリーズ第2作。親子の葛藤や介護などが熟年夫婦を取り巻く中でも「人生」を諦めない“お終活ファミリー”が、痛快な笑いと感動を呼び起こす。同作で高畑淳子や橋爪功、松下由樹、石橋蓮司、大村崑らベテラン俳優陣と共演した長塚さん。「これまで何度もご一緒させていただいた橋爪さんなど、出演者の半分以上が古い付き合いのある人ばかり。リラックスして演じることができました」。年を重ねるにつれて出演者の中で自分が最年長者になるケースが最近、増える中、「先輩」と呼べる俳優らとの共演は楽しいものがあったという。

 物語の中心となっている大原家では、大原千賀子と真一の一人娘、亜矢が結婚を控えていた。そんな中、真一の認知症“疑惑”が生じてくる…。

 一方、妻の千賀子は若いころ習っていたシャンソンの恩師の娘・丸山英恵と出会い、再び歌のレッスンを始めるのだが…。長塚さんはフランスで長年、画家として活躍し、40年ぶりに帰国した五島英樹役で出演。かつて、絵描きの夢を追いかけるため妻子を捨て海外へ旅立った男を演じている。今は、海が見えるシニア向け分譲マンションに入居している五島は、そのマンションで管理栄養士を務める大原家の一人娘、亜矢と言葉を交わすうち親しくなり、自らが描いた絵をプレゼントする。ある日、たまたま、その絵を見た千賀子のシャンソンの先生・英恵は言葉を失う…。

 フランスで画家として活躍した「五島」ではないが、長塚さんも若いころ大学(早稲田大学文学部演劇科)を中退して渡仏、パリ大学に入学したという経緯がある。「早稲田大学では学生劇団『木霊(こだま)』に入り、それから自分たちで新劇団を結成しました。そんな時期が2、3年ありましたね」。しかし、大学では学園紛争が激化し、校内はロックアウト。劇団の稽古場も校内にあったため入れなくなり、「身の処し方がなくて、フランスに行こうという気持ちになった」と言う。

いきなり仏映画主演
 しかし、この渡仏が「俳優への道」が開けるきっかけになる。あるとき、パリ大学の先生の知り合いから紹介された映画監督に会ってみると、「映画に出てくれ」ということになった。それがジャン・ヤンヌ監督の映画「パリの中国人」(1974年)だった。いきなり同映画の主演に起用された長塚さんは、予想もしなかった映画デビューを果たす。「(主演という)大きな役だったので普通はそんな簡単に決まらないんですが、紹介してくれた人が映画界に力のある人だったんです。ラッキーでしたね」

帰国後も「抜てき」
 映画出演後も、「俳優になろうとはまったく思っていなかった」が、帰国した長塚さんに今度はTBSテレビのプロデューサーから話があり、当時のトップスター、田宮二郎と浅丘ルリ子が出演するドラマ「樹氷」(74年)で共演することに—。そのプロデューサーは「パリの中国人」の主演に抜てきされた長塚さんのニュースを新聞で知り、連絡してきたという。「やはり運命なんでしょうね。『樹氷』の役は新人俳優の重要な役どころで、僕以外にも当たりを付けていた人たちもいた。そういう人たちにとっては理不尽な話ですよね」

 その後、長塚さんは映画「ザ・中学教師」(92年)で第47回毎日映画コンクール男優主演賞、同「瀬戸内ムーンライト・セレナーデ」(97年)で第21回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞するなど、輝かしい活躍を見せる。また、テレビでは「眩〜北斎の娘〜」(17年)で葛飾北斎を好演。舞台では第2回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した「オレアナ」(94年)に出演した。

 最近では、世界34カ国の劇場で公開している日仏合作映画「UMAMI(うまみ)」(22年)でフランスの俳優、ジェラール・ドパルデューと共演した。日本では昨年、横浜国際映画祭のオープニング作品として上映されたが、劇場公開は未定だ。「日本においてシニア向け映画が劇場公開されるのは難しい部分があります。そんな意味でも、『お終活』シリーズのようなシニア向け映画がもっと多く作られるといいですね」。俳優デビューが29歳と遅かった長塚さんだが、今後も「自分が必要とされているうちは、お役に立ちたい」という気持ちで仕事に臨んでいく。


©2024年「お終活 再春!」 製作委員会
「お終活 再春! 人生ラプソディ」
 監督・脚本:香月秀之、出演:高畑淳子、剛力彩芽、松下由樹、水野勝、西村まさ彦、石橋蓮司、藤吉久美子、増子倭文江、LiLiCo、窪塚俊介、勝俣州和、橋本マナミ、藤原紀香、大村崑、凰稀かなめ、長塚京三、橋爪功ほか。日本映画。118分。

 31日(金)から、イオンシネマ シアタス調布(Tel.042・490・0039)ほかで全国順次公開。

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