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  東京版 令和6年3月下旬号  
夫婦で“人生”を踊る  アルゼンチン・タンゴのダンスペア「高志&めぐみ」

華麗なドレスで「メディア・ルナ(半月)」のポーズをとる高志さんとめぐみさん。アルゼンチン・タンゴの魅力について、「きれいな部分も汚い部分も含めてより人間くさく、人間的な原初の波動をドラマチックに表現できる音楽であり踊りだと思っています」と高志さん。めぐみさんも続ける。「踊っているときにうそをつかなくていい、そのときそのままの気持ちを表現できるんです。だからこそ同じ舞台は2度とないし、観客の皆さんと一緒に一期一会の舞台をつくっていきたいですね」
6月の公演に出演
 哀愁と情熱、そして人生の悲喜こもごもを音にのせるアルゼンチン・タンゴの醍醐味(だいごみ)の1つが“即興”だ。演奏者たちのアドリブの連鎖はステージを盛り上げ、それはダンサーにも波及する。「相乗効果で私たち踊り手の気持ちも上がってきますし、男女ペアの間でも時には“アドリブ合戦”を繰り広げ、踊りで男女間の当意即妙の会話を楽しむのです」とは、昨年に日本タンゴ大賞「タンゴ舞台賞」を受賞したダンスペア「高志&めぐみ」(隅田川ダンサーズ)の小口高志さん(43)とめぐみさん(40)の夫婦だ。6月には大手町での公演を控える。「タンゴ・ダンスは“人生”を踊ります。私たちの人生も踊りが中心。そのためにはお互いが支えあい夫婦円満でなければ満足に踊ることもできません(笑)」

 タンゴ・ダンスは大別して2系統ある。1つは、柔らかで華麗なオーケストラの音楽に合わせ社交ダンスで踊られるコンチネンタル・タンゴ(ヨーロピアン・タンゴ)。対してもう1つは、音楽と踊りもテンポよく、ドラマチックなノリで即興を多用するアルゼンチン・タンゴだ。さらにアルゼンチン・タンゴ・ダンスは、ショーアップされた「ステージタンゴ」と、パーティー形式で踊る「サロンタンゴ」に分かれる。高志さんは、「タンゴ・ダンスと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、男女がくっついたり離れたりとアクロバティックに動く『ステージタンゴ』でしょう」と話した上で、こう続ける。

 「でも、決して体を離すことなく密着して抱き合い、静かに基本のステップを踊る『サロンタンゴ』こそ、アルゼンチン・タンゴ・ダンスの原点です。敷居が高いと思われがちですが、基本を学べば誰でも踊れます」

シニア夫婦の趣味に
 それに年を重ねたペアでも続けられるという。めぐみさんが説明する。「私たちは日本橋人形町で教室を主宰していますが、シニアのご夫婦(ペア)も多いです。皆さん、ジムに1人で通うよりも、2人でやるから長続きするとおっしゃってくれます」

 また、アルゼンチン・タンゴ・ダンスは、男性が即興でリードし、女性がそれに応えるのが大きな特徴。「『夫唱婦随』を連想させますが、踊りはあくまで男女対等。お互いがフラットに信頼しあっているからこそ、夫婦で長く続けられるのだと思います」と高志さん。

家庭でも支えあい
 それは、ダンスを離れた普段の生活にも影響を与えるという。高志さんは続ける。「信頼しあえないと踊れないので、普段の生活でも言葉を尽くして向き合います。夫婦のすれ違いといったものは私たちにはありませんね」。めぐみさんもうなずく。「ダンス中心の生活ですから、2人の体が空かないと踊れません。家事も夫婦バランスよくこなさないと練習する時間もつくれません」

 そんな2人に夫婦円満のこつを聞くと、「『ごめんなさい』と『ありがとう』は大事です。謝罪や感謝の気持ちをはっきり言葉にすることですね」と高志さん。対してめぐみさんは、「いきなり人のミスを責めないことですかね(笑)」。

 2人は大学生のころに知り合い、それぞれ就職後に結婚。だが、高志さんの職場はいわゆる“ブラック”な環境で、心身とも損耗。「自分はこのままぼろぼろになって人生を終えるのか?」。そう考えたとき、幼少時に写真か映像かで見て記憶に鮮烈に刻まれたアルゼンチン・タンゴ・ダンスへの憧れが頭をもたげた。実はめぐみさんも音楽系の高校でダンスを学び、大学在学時や就職後も続けていたのだが、仕事が多忙となり夢を断念。結婚後は家庭に入り、パートタイムで家計を支えたが、ずっと心にぽっかり穴が開いた状態だったという。それが、高志さんから「タンゴ・ダンスを本格的にやりたい。ペアを組んでほしい」との告白で、「再び夢に灯がともりました」。

内弟子からスタート
 2005年、アルゼンチン・タンゴ・ダンスを日本に持ち込んだ第一人者である小林太平に夫婦で師事し、内弟子からスタートした。「小林さんは面倒見の良い人でしたが、ダンスの指導は厳しく基本をたたき込まれました」と高志さん。

 アルゼンチン・タンゴ・ダンスで重要なのが、「アブラッソ(抱擁)」と「カミナンド(歩き)」。高志さんは解説する。「アクロバティックに見えるダンスも解剖すれば、単純な動きの組み合わせ。基本を押さえれば、誰でも華麗に踊れるのです」

 2人は小林太平の最後の弟子として薫陶を受け、才能を開花。アジア大会などで実績を積み、世界大会でもファイナルに進出。12年に師が亡くなった後独立し、プロのダンサーとしてさまざまな舞台を踏んできた。

 20年にはほかの2組のペアとともに「隅田川ダンサーズ」を結成。「メンバー全員が偶然隅田川沿いの下町住まいだったのです(笑)」と高志さん。さらに昨年は、タンゴ・ダンスにレビューショーの雰囲気を取り入れた演出で、一般社団法人日本アルゼンチンタンゴ連盟より日本タンゴ大賞「タンゴ舞台賞」の表彰を受けた。高志さんはほほ笑む。「これからも健康に気を付け、夫婦円満でダンスのステージを一つ一つ積み重ね、日本に少しでもアルゼンチン・タンゴ・ダンスの魅力を広めていきたいですね」

♪アルゼンチン・タンゴ・コンサート〜 世界のタンゴ‐ダンス&ダンス&ダンス‐♪
 6月26日(水)午後2時、よみうり大手町ホール(読売新聞本社ビル内、地下鉄大手町駅直結)で。

 「隅田川ダンサーズ」の日本タンゴ大賞2023「タンゴ舞台賞」受賞記念公演。

 予定曲:「エル・チョクロ」「パリのカナロ」「ジェラシー」「ラ・クンパルシータ」ほか。

 演奏:「トルカ・タンゴ・オルケスタ」=宮沢由美(ピアノ)、永野亜希(バイオリン)、専光秀紀(同)、柴田奈穂(同)、池田達則(バンドネオン)、田中伸司(コントラバス)、ダンス:「隅田川ダンサーズ」=高志&めぐみ(構成・演出)、ズーハン&京子、すみれ&玉井、歌:夏樹陽子。

 全席指定5500円。問い合わせはインターナショナル・カルチャーTel.03・3402・2171

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