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  東京版 令和3年7月上旬号  
「人生ネバギバや‼」  俳優・赤井英和さん

映画は、大阪を舞台とした勝新太郎と田宮二郎による痛快任侠(にんきょう)アクション、往年の「悪名」シリーズをほうふつとさせつつも、児童虐待や悪徳新興宗教など、現代社会の闇を描写。物語では、赤井さん演じる勝吉がボクサー時代の恩師の娘と対峙(たいじ)し、「あなたと父の因果が私に生きることを恥じるような思いをさせた。ボクシングなんてしょせん暴力。拳で誰かを救えるつもり!?」と、なじられる場面がある。赤井さん個人としてはこの問いにこう答える。「確かに暴力で人を救うことはできません。でも、自分はボクシングという競技を通し、人々に勇気や感動を与えることはできたのではないかと思います」
主演映画「ねばぎば 新世界」が10日公開
 「人生ネバギバ(ネバーギブアップ)や!」。コロナ禍をはじめ、ままならぬ今の世を生きる人々にエールをおくるのは、俳優の赤井英和さん(61)。かつて“浪速のロッキー”の異名をはせ、プロボクサーとして愛する地元・大阪を沸かせたのは今も語り草。試合で命にかかわる重傷を負ったが、そこから役者として不死鳥のようによみがえった不屈の“ごんたくれ(大阪弁で悪童)”だ。そんな赤井さんが出演する映画「ねばぎば 新世界」が10日から公開される。「ボクサー人生が絶たれたときは絶望しましたが、後から振り返るとそれが役者になるチャンスとなりました。今が最悪でも、そこから好転する何かがあるかもしれません。人生ネバギバです」

 映画「ねばぎば 新世界」は、通天閣のお膝元、大阪・新世界を舞台に浪速の人情を織り交ぜ、巨悪に立ち向かう男たちを描く痛快アクションドラマ。赤井さんが演じるのは、元プロボクサーの村上勝太郎(通称・勝吉)。若いころに全国のやくざ組織をつぶして回ったという“ごんたくれ”だが、困っている人を放っておけないという好人物。監督の上西雄大演じる舎弟の“コオロギ”と共に、街の人々の笑顔を守っている。

 今回の映画で演じた役柄について赤井さんはこう話す。「上西監督は僕のことをいろいろと理解した上で台本を書いてくれたのでしょう。勝吉という男の考えはとても理解できました。せりふ覚えが苦手なタイプなのですが、この役は全て自分のアドリブのような気持ちで生き生きと演じることができました」

 赤井さん本人をほうふつとさせるのは役柄だけではない。ロケ地も赤井さんの実家や近所ばかり。「僕の実家は飛田新地の一角、西成・釜ケ崎のど真ん中にあった漬物店。そして新世界など僕の生まれ故郷が映画に凝縮されています。そんな街並みもご覧いただければうれしいですね」

拳闘も役者も天職
 若いころはやんちゃ盛りだったという赤井さん。中学・高校時代、けんかに明け暮れたと書かれることもあるが、赤井さんいわく、「両手で数えるほどです」。しかし、派手に暴れたのは確かだと苦笑する。「決闘の舞台は全校生徒が注目せざるを得ない授業中の学校の校庭や、多くの人目がある通学電車の中でした」。目撃者たちが自分をどう見るかを計算した上で暴れたのだとか。後に挑戦するボクシングはもちろん、役者も天職だったといえるかもしれない。

 ボクシングと出合ったのは高校時代。怖い先輩に有無を言わさず入部させられた。雑用や厳しいトレーニングには閉口したが、「自分の力を出し切ることができる試合は大好きでした。つらいこともありましたが“練習”はうそをつきません」。

 1年生で国体の大阪代表になるなどすぐにその才能を開花させるが、授業には身が入らず留年。「“ダブり”はかっこ悪い」と高校に退学届を出す寸前に部の顧問である担任の教師に諭され通学を継続するなど、後の波乱を予感させる山あり谷ありのボクシング道だった。「社会のレールをはみ出したかもと思うと、今も先生に頭が上がりません」

  その後、息の合ったコーチと巡り合い“必殺の左”を伝授されると、アマチュアのリングで無双。大学ではモスクワ五輪の代表候補に。そして突然のボイコットに涙するも、「プロの世界で頂点をとったる」とプロデビュー。タクシー運転手をしながら練習を見てくれたコーチがジムを構えてくれた。実はアマチュア時代は対戦相手と距離を保ち“打たれずに打つ”テクニカルなアウトボクサーだった赤井さん。小さなジムからスターにのし上がるため、プロの舞台ではリスキーながらも肉薄して攻撃するKO狙いのインファイターに転向。デビュー以来12戦連続KO勝ちの快挙を成し遂げる。「コーチのためという思いが強かった。人間、人のために頑張ればすごい力が出せるんやね」

 しかしそのファイトスタイルがたたり、ある試合で頭蓋硬膜下血腫、脳挫傷の重傷。一命はとりとめたものの25歳でボクシング人生に終止符が打たれた。

 その後、不完全燃焼の未練が身を焦がし、酒に溺れた。そんなとき、最後の試合を見ていたという映画監督の阪本順治が現れる。「君の映画を本人役で撮りたい!」。その熱意にほだされ不摂生を脱し、本物志向の監督の指示によりリング上でほぼリアルファイトを熱演。それが功を奏したのか、映画「どついたるねん」(89年)はヒット。29歳にして役者として第二の人生の幕が切って落とされた。

「芝居は気持ちで」
 次作「王手」(91年)で共演した若山富三郎からの、「芝居はなにより気持ちが大切」との助言に精進。「119」(94年)では日本アカデミー賞優秀主演男優賞に輝き、役者として確固とした足場を築いた。その後も、「セカンド・チャンス」(95年)、「最高の食卓」(97年)などのテレビドラマのほか、バラエティー番組やCMなどに出演。今もお茶の間の人気者として活躍中だ。

  現在は、役者の仕事を楽しみながら、自分と同じボクサーの道を選んだ長男の背中を見守っているという。しかし、現役ボクサー時代の生と死のはざまで生きた気持ちは今も忘れない。「人間、いつか必ず死にます。だからこそ今を大事に生きるんです。ネバギバや!」


© YUDAI UENISHI
「ねばぎば 新世界」 日本映画
 監督・脚本:上西雄大、出演:赤井英和、上西雄大、金子昇、田中要次、菅田俊、有森也実、小沢仁志、西岡德馬ほか。
118分。

 10日(土)からK's cinema(Tel.03・3352・2471)ほかで全国順次公開。

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