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  東京版 令和2年10月下旬号  
映画作りに「緊張と喜び」  映画監督・黒沢清さん

「最大の気分転換は海外に行くことだったんですが…」と残念そうに話す黒沢さん。今度の受賞で一番の心残りは、新型コロナウイルス感染症の影響でベネチア(イタリア)の映画祭会場に行けなかったことだという。「海外の映画祭に招かれた際には、足を延ばして近くの観光地を妻と一緒に回るのが常なんです」。今年は「1月以降、海外に出ていません」とつらそうな口ぶりで話す
「スパイの妻」でベネチア国際映画祭銀獅子賞
 映画「クリーピー 偽りの隣人」、「岸辺の旅」などで独自の映像世界を描き、国際的にも評価が高い映画監督の黒沢清さん(65)が9月、第77回ベネチア国際映画祭で日本人として17年ぶりに銀獅子賞(監督賞)を受賞した。受賞作「スパイの妻」は緊迫度を増していく戦時下の日本で自らが信じる正義を貫こうとする夫と、夫と共に生きようとする妻を描いた歴史サスペンスドラマだ。今作で初の「時代もの」に挑んだ黒沢さんは、「映画作りの緊張と喜びを、これほど素直に感じることができたのは長いキャリアの中でも久しくありませんでした」と語る。

 物語の始まりは1940年の日本。中国との戦争が泥沼化する中、米国を中心とした連合国との太平洋戦争開戦(41年12月8日)が迫ろうとしていた。神戸で貿易商を営む優作は満州(中国・東北地区)で偶然、恐ろしい国家機密を知る。そのことを世に知らせようとしたため、憲兵隊から反逆者と疑われる。そんな夫を信じ、ただ愛する夫と共に生きることを心に誓う妻の聡子。しかし、夫婦の運命は次第に時勢に飲み込まれていく…。

 今作の時代背景について黒沢さんは、「国家が常軌を逸し、国民も次々とその狂気に感染して狂乱状態へと突き進んでいった。それが当時の日本です」と話す。

 「そして、そんな時代の空気の中で、何としても正気を保っていこうとする人間の姿を、優作と聡子という夫婦を通して描こうと思いました」

 これまで主に、現代社会を生きるさまざまな人間模様を描く「現代劇」を撮ってきたが、今作は80年も昔の「時代劇」。「40年代前半の日本をどうやって映像で再現するかで、相当な苦労がありました」。特に苦心したのがロケーション撮影の場所選び。国内に戦前の建物はもう、ほとんど残されておらず、近くの街角でカメラを回すことはできない。それでも、神戸市内の旧グッゲンハイム邸を夫婦が住む西洋館として利用するなど、「奇跡的に残っていた」と言う神戸市内の各所を重要なシーンで使用できた。撮影現場でもメインの俳優やエキストラの髪形、衣装、さらに、俳優の背景に映る一本の旗にまで気を配るなど、同時代の再現に苦心した。「フィクションとして抜かりない完成度が求められる」という思いから、一瞬も気の抜けない撮影の日々だったという。

小学生で「ホラー」
 黒沢さんは1955(昭和30)年、神戸市に生まれた。映画好きな両親に連れられて幼いころから劇場でよく映画を見ていたという。最初は同世代の子どもと同様にゴジラやモスラの活躍する怪獣映画が好きだったが、小学校4年生ころになると一人でバスに乗って3本立てのホラー映画(当時は怪奇映画と呼ばれていた)をたびたび見に行っていた。「今から思うとかなり特殊な子どもでしたね」。怪獣映画の話に興じる友人らを見て、内心「俺はもうそんなレベルじゃないよ」と優越感に浸っていたという。

 中学、高校といわゆる進学校に通ったものの次第に受験勉強が嫌になり、反比例するかのように受験に関係のない映画の世界にのめり込んでいく。大学(立教大学社会学部)に進学してからは8ミリ映画製作クラブのSPP(セント・ポールズ・プロダクション)に所属し、8ミリ映画を撮り始める。大学在学中、長谷川和彦監督の映画「太陽を盗んだ男」(79年)に製作助手で参加、その後、角川映画の代表作、相米慎二監督の「セーラー服と機関銃」(81年)に助監督として携わるなど、映画製作の経験を重ねていった。

 28歳で商業映画の監督としてピンクコメディー「神田川淫乱戦争」(83年)でデビュー。国際的に注目された映画「CURE キュア」(97年)から現在まで、第56回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作「アカルイミライ」(03年)、第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門監督賞受賞作「岸辺の旅」(15年)、第66回ベルリン国際映画祭正式出品作「クリーピー 偽りの隣人」(16年)など、国内外で高い評価を得た作品をコンスタントに発表し続けている。

「幾つかの要素」
 そして、ベネチア国際映画祭コンペティション部門に初めて選出された今作で、北野武監督の「座頭市」(03年)以来17年ぶりに銀獅子賞に輝く。「(世界三大国際映画祭の一つであるベネチアの)コンペに選ばれるだけでも光栄なのに…。賞をいただくのは、幾つかの要素が偶然働いたからなんだろうなと、思っています」

 黒沢さんは、初の時代ものに挑戦した今作に手応えを感じている。「戦争という重たいものを背景としながら、サスペンスやメロドラマを十分成立させることができました」。黒沢作品の特徴といわれる“ワンカットの長回し撮影”や光と影、風という映像要素も映画のあちこちに散りばめられている。

 今作で描かれた戦争に翻弄(ほんろう)された40年代前半の日本。当時と比べ、現代は自由と平和が保証されているように見える。しかし、黒沢さんは「(現代日本は)狂気の沙汰へと転落していく危機と隣り合わせ」と感じている。「あの時代の閉塞(へいそく)感は現代にも通じる普遍性があるように思います」


©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
「スパイの妻」〈劇場版〉 日本映画
 監督:黒沢清、脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清、音楽:長岡亮介、出演:蒼井優、高橋一生ほか。115分。

 新宿ピカデリー(Tel.050・6861・3011)ほかで全国公開中。

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