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「走っては立ち止まり、来た道を振り返って確認した上で先へ進む。それが僕の生き方」と奥田さん。学生時代に代議士秘書として政治にのめり込むなど、俳優になるという志を忘れかけたときもそうやって軌道修正してきたという |
仕事に対して「職人でありたい」と考える俳優、映画監督の奥田瑛二さん(68)。安易な妥協をせず、常に完璧さを追求する職人気質(かたぎ)で演技や映画作りに取り組む。そんな彼が主演した映画「洗骨(せんこつ)」は、沖縄・粟国島(あぐにじま)を舞台に、「死者の骨を洗って再度埋葬することで成仏できる」という同地に残る神秘的な儀式—洗骨を経て家族が一つになるという物語。同作では妻亡き後、酒浸りの日々を送る新城信綱役で、これまで演じてこなかった情けない男の役に挑戦、“職人”の意地を見せた。
映画「洗骨」で“ダメおやじ”役を好演
信綱は、妻に先立たれてもそれが認められず、家族にやめると約束をしていた酒を飲むことで悲しみを忘れようとする“ダメおやじ”。奥田さんがこれまで演じたことがほとんどないタイプの弱々しい男だ。それもあって撮影前にはいつにも増して入念な準備を心掛けたという。妻・恵美子役で出演する筒井真理子の写真を取り寄せて脳裏に焼き付け、台本はそしゃくするように読み込んだ。その上で臨んだロケ地、粟国島では滞在した1カ月間、「島の風に触れ、においを吸収し、ただただ信綱でいることを心掛けていました」と話す。
沖縄県の離島、粟国島の新城家。恵美子が亡くなって家に一人残された信綱は、島を出ていた息子や娘とともに恵美子の葬儀を終える。そして家族は4年後、恵美子の骨を洗い清める洗骨の儀式を行うため再会するが…。土葬や風葬の後、骨だけになったころに骨を洗い清めることで死者が成仏するという風習「洗骨」。沖縄などに今も残るといわれる儀式を通して、家族の絆(きずな)と親から子へと引き継ぐ命のリレーをユーモア交えて描く人間味あふれるドラマだ。
「洗骨」の監督は、沖縄出身でお笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリこと、照屋年之。奥田さんは出演依頼が来たとき、照屋監督に確かめたかったのが信綱役に自分を選んだ理由。渋谷の喫茶店で会った照屋監督から「奥田瑛二の目です。目の奥にある悲しさなんですよ」と言われた奥田さんは驚いた。「よく僕の目は怖いとか、突き刺さるような目をしているといわれます。監督の言う『目の奥にある悲しさ』とは何なのか、と考えてみたんです」
「切なさ」を大事に
すると思い起こされたのが俳優を志していた若いころのこと。四畳半の部屋で役者として売れない思いをぶつけた女性のことなどが次々と頭に浮かび、それにつれて切なさが募ってきた。「この切ない思いを大事にこの映画に取り組めばいいんだ」と決心したという。
撮影終了後、気掛かりだったのは映画の信綱を見て「地元の人がどう思うか」ということ。沖縄で催された試写会で地元の人から「沖縄にはこういうおやじがいる」とか「(信綱は)島の人やったね」と言われ、「ほっとしました」と笑みを見せる。
奥田さんは小学5年生のときに大友柳太朗の「丹下左膳」を見て「映画俳優」を志す。しかし、その存在が知られるには10年の歳月が必要だった。俳優の付き人や港湾労働者、ウエーターなどいろんな仕事を転々とし、ついには代々木公園でホームレスまでも経験した。星が瞬く代々木公園で寝転びながら「土いじりが好きだから山梨県あたりで果樹栽培でもやろう」と考えていた矢先、友人から誘われたパーティーで後に妻となるエッセイストの安藤和津と出会い、その後、良い作品に出演する機会が舞い込むことに—。
監督作品も高評価
29歳で主演した映画「もっとしなやかに もっとしたたかに」(1979年)が評判となり、NHK大河ドラマやトレンディードラマなどにも出演、ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した熊井啓監督の「海と毒薬」(86年)でも主役をつかんだ。その後、「千利休 本覺坊遺文」(89年)などの熊井作品に相次いで主演するなど、これまで出演した映画は50本以上。善良な役柄からアウトロー(無法者)まで演じる役者として存在感を示している。一方、51歳で映画監督としてデビューし、これまで6作品がある。中でも「長い散歩」(06年)はモントリオール世界映画祭グランプリ受賞など国際的にも高評価を得ている。
50代になってから俳優、監督として「職人でありたい」と思うようになったと奥田さん。「真の職人は死ぬまで自分の仕事に満足しないもの。俳優や監督も職人ではないかと考えたらがぜん、“心のエネルギー”が湧いてきました」と語る。次の仕事として、監督7作目となる映画製作に照準を定めている。 |
©『洗骨』製作委員会 |
「洗骨」 日本映画
監督・脚本:照屋年之、出演:奥田瑛二、筒井道隆、水崎綾女ほか。111分。
丸の内TOEI(Tel.03・3535・4741)ほかで上映中。
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