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日本的な情念 フラメンコで表現 歌手・作曲家の宇崎竜童さん |
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最も影響を受けたエルビス・プレスリーへの畏敬の念は今も変わらない。デビュー時には、自分が「エルビスと同じ土俵の上に乗ることになる」と恐れたほど。今もインスタグラムでエルビスの写真を熱心にフォローしている |
妻の阿木燿子と「Ay曽根崎心中」を創造
大ヒット曲「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」で一世を風靡(ふうび)した歌手・作曲家の宇崎竜童さん(72)。ロック歌手として活躍する傍ら、妻で作詞家の阿木燿子とのコンビで山口百恵らのヒット曲を数多く生んでいる。そんな宇崎さんが阿木と17年前から取り組んでいるのが近松門左衛門「曽根崎心中」のフラメンコ版だ。12月12日から新国立劇場で催される「Ay(アイ)曽根崎心中」では演劇的手法を大胆に取り入れ、日本的な情念の世界をフラメンコで表現する。同公演を前に「生みの苦しみは上演直前まで続きそうです」と話す。
「Ay曽根崎心中」で音楽監督を務める宇崎さんは「和楽器と洋楽器をうまくコラボレーションさせるためにはどんな楽器編成にしたらいいのかと、ここ十数年、毎回悩み続けています」と話す。今回は、土佐琵琶を津軽三味線にかえて和太鼓やしの笛、ピアノ、ベース、フラメンコギターなどとともにアンサンブルを構成。演出面ではプロデューサーの阿木の意向を基に、フラメンコで登場人物の心情を巧みに表現させるという上演スタイルに改めた。
それにしてもなぜ、男っぽい印象の強い宇崎さんが心中物の「曽根崎心中」なのか。
「特別な作品、未来に継承」
その理由は、1978年に公開された映画「曽根崎心中」で主演を務めたことにあった。
宇崎さんは映画「曽根崎心中」で梶芽衣子演じるお初と心中する徳兵衛を演じた。それが映画初出演で「増村保造監督から『映画に出てくれ』と言われ演技のことなど何も分からずに引き受けた」と言う。トレードマークのサングラスを取って素顔をさらしかつらをかぶって、監督に言われるまま演じたが、完成した映画を見てすぐに「こりゃだめだ」と思った。「素晴らしい映画だけど、徳兵衛役の芝居がなっていない」と自分に大きな“バッテン”を付けざるを得なかった。評論家からも酷評され、「この失敗をどうやったら取り戻せるのか」とまさに臍(ほぞ)を噛(か)む思いだったという。
その雪辱の意味も込めて舞踊劇「曽根崎心中」が始まった。当初は阿木・宇崎コンビが作詞作曲したロックの楽曲に乗せ、文楽の桐竹紋寿と吉田文吾が人形を操って上演。この「ROCK曽根崎心中」を経て、フラメンコダンサーの鍵田真由美と佐藤浩希が参加する上演スタイルが定着し人気に。
「1日1曲」課す
地方都市も含め毎年のように「曽根崎心中」の公演を続ける一方、ソロやバンドなどでの演奏活動やほかのアーティストへの楽曲提供など多忙な宇崎さんだが、作曲家として日々怠らないことがある。それは「1日1曲作ること」。明治大学2年のときにギターを購入した翌日から作曲を始め、それから現在まで「1日1曲」を自分に課しているという。「1日で曲を完成させることはできませんが、五線紙を置いて鍵盤の前に座り、メロディーを作っています。毎日曲を作り続けていないと何かがさび付いてしまいそうで…」。そうやって作り続けた曲は器楽曲も含め5000曲近くを数える。「私は曲を書くために生まれてきたと思っています」と言い切る。
宇崎さんが音楽に目覚めたきっかけは、小学3年生のときにラジオのFEN(極東放送網、現・米軍放送網)で流れていたエルビス・プレスリーを聞いてから。中学、高校でブラスバンド部、明治大学で軽音楽クラブに入って音楽を勉強したという。
大学卒業後はバンドのマネジャーとして裏方の仕事をしていたが、あるとき思い立ってダウン・タウン・ブギウギ・バンドを結成。デビュー1年後に発表した「スモーキン,ブギ」のヒットで注目され、続く「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」がミリオンセラーを記録、曲中のセリフ「あんたあの娘のなんなのさ」は流行語にもなった。映画「曽根崎心中」に出演したのは、内藤やす子の「想い出ぼろぼろ」で日本レコード大賞作曲賞を受賞するなど順調な歩みを続けていた時期だった。
今では、宇崎さんの胸中からこのときのリベンジの気持ちは消えているが、一方で「曽根崎心中」という作品への思いは深くなっている。「『曽根崎心中』は歌舞伎や人形浄瑠璃で300年以上にわたって上演され続けている作品です。私たちの『曽根崎心中』も今後、どう継承していくかが課題です」。今回、将来への布石としてお初、徳兵衛の踊り手を初めてダブルキャストにした。宇崎さんは「今回の公演で『曽根崎心中』を終えることはできません。これからも300年は続けないといけないかな」と笑う。 |
「Ay曽根崎心中」
12月12日(水)〜20日(木)、新国立劇場(京王新線初台駅徒歩1分)中劇場で。全12公演。
原作:近松門左衛門、プロデュース・作詞:阿木燿子、音楽監督・作曲:宇崎竜童、演出・振付:佐藤浩希、出演:鍵田真由美、佐藤浩希、工藤朋子、三四郎(ダブルキャスト)ほか。全席指定。S席1万円、A席7000円、25歳以下5000円。
問い合わせはキョードー東京 Tel.0570・550・799 |
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