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  東京版 平成29年8月下旬号  
伝統の楽器に新たな息吹  「元宝塚」の琵琶奏者・上原まりさん

平家物語に新しい曲を付けてほしいと言われた当時、作曲の経験などなく尻込みしていたという上原さん。「『平家物語の原文はきれいだよ。現代語訳もいいけれど、原文も入れたらどうかい』と提案してくださった司馬遼太郎先生のほか、さまざまな人に支えられここまで走ってこれました」
 〽 祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声 諸行無常の響あり—。800年余りにわたり「平曲」として琵琶奏者たちに弾き継がれてきた「平家物語」。これを現代に合わせアレンジして作曲、全国を巡り弾き語りを行っているのが、元タカラジェンヌにして筑前琵琶奏者「柴田旭艶」の名前を持つ上原まりさん(70)だ。10月には銀座博品館劇場でコンサートを予定している。「伝統を踏まえた上で今の息吹を与えることにより、新しいものができてくると思っています。琵琶の音色を聞いていただいた方には、物語を貫く “もののあはれ”のほか、現代にも通ずる平家一族の家族の絆や優しさも感じてほしいですね」

“現代の平家物語”自ら作曲
 今回のコンサートを、「原点に返れるよい機会」と語る上原さん。宝塚を卒業し琵琶演奏一本の活動を始めてから36年、平家物語をライフワークとしてきたが、いまや「源氏物語」のほか「雨月物語」「耳なし芳一」など、さまざまな古典文学に琵琶演奏を付け弾き語りをしている。さらにはオーケストラとの共演や海外公演など、伝統楽器の琵琶に新風を吹かせるべく、さまざまな挑戦を繰り広げてきたが、「原点に戻ることで以前とは違う“気付き”を得ることができます。それを基にさらに新しいことに挑戦していきたいです」とほほ笑む。

琵琶と声楽で育つ
 上原さんの生家は神戸。琵琶の師範の娘として1947年に誕生し、物心つく前から琵琶の練習を始めた。高校では新聞社主催のコンクールで入賞するなど非凡な才能を見せるが、卒業後に選んだ進路は“宝塚”だった。

 実は上原さん、小学校で声楽の才能を見いだされ、毎日琵琶の練習を続けながらも声楽のレッスンを受けていた。また高校では、放送部とともに所属した演劇部で演じることの楽しさに目覚め、憧れの宝塚歌劇団を受験したくなったのだという。「受験勉強が嫌だったというのもありますけどね(笑)」

 琵琶の師匠であり、女手一つで育ててくれた母親を何とか説得し、宝塚音楽学校を受験。見事合格し、66年に同校に入学する。68年の宝塚歌劇団入団後は娘役として活躍。そして75年の「ベルサイユのばら」で、安奈淳、榛名由梨らと同じ舞台に立ち全国的な大ブームを巻き起こす。

 上原さんはフランス王妃マリー・アントワネットを熱演。その演技は、テレビの舞台中継を見た五木寛之のエッセーでも高く評価されたほど。「自分も含めそれぞれが一番華のあるいい時期に、大ヒット作に巡り合えたことはラッキーでした」

 81年、15年在籍した宝塚を退団するが、「宝塚を経験したことで逆に伝統芸能の素晴らしさに気付きました」と、琵琶の道に進むことを決心。琵琶演奏普及を見据え、東京を拠点として平家物語を中心に演奏活動を始めるとそれからほどなく、NHKから源平合戦にちなんだ教養番組への出演依頼が来た。「番組内で、『祇園精舎の鐘の声〜』の冒頭部分だけを新しく作曲し弾き語りしてほしい、との要請がありました」。これが上原さんの転機となる。

 一言一言、時間をたっぷりかけて聴かせる独特の節回しによる従来の「平曲」の一部を、今の人も聞きやすいアップテンポなものに変えたのだが、これに刺激を受けた上原さん、平家物語全12巻を全て新たに作曲するという挑戦を思い立つ。

 それに伴い最初に行ったのが、原典をいま一度勉強し直すことだった。「“祇園精舎”が何なのかも知りませんでしたからね」と照れ笑い。だがその過程で繁栄を極めてからわずか20年で滅亡した平家一族の悲運や苦悩、そして家族の絆や優しさを身近に感じ、平家物語をライフワークにしようと思い定める。

 それから上原さんは驚異的な集中力で作曲を続け、番組に出演した82年から約5年で、平家物語の代表的な場面の大半に何とか新曲を付けることができたという。「物語に登場した多くの人の浮き沈みや死…。これらに一人で曲を付けていきましたが、まさに平家物語という怪物との格闘でした。あの勢いがなかったらできなかったと思います」と振り返る。その後も琵琶演奏普及のため、さまざまな挑戦を続ける傍ら、現在も平家物語全12巻の作曲完成に向け全精力を傾けている。

大病からの生還
 2011年2月、上原さんは急激な胸と背中の痛みに襲われた。心筋梗塞だった。重症と診断されたが幸いにも名医に巡り合い、手術後半年で平家ゆかりの山口県下関・赤間神宮で奉納演奏を行えるほどに回復できた。「原因はストレスだと先生に言われました。休みの日でも、いつも仕事のことばかり考えていたからでしょう」

 生死の境をさまよったことで、肩の力が抜けるとともに周りへの感謝の念が湧き、世界が広がったと上原さん。だが今後も琵琶と平家物語への情熱は冷めることがないだろうと笑う。「琵琶は、人間の心の深いところを表現できる楽器です。時を超え昔の人々の思いを現代人の胸に届けられるよう、さらに曲を練り上げ、平家物語をもっと新しく、もっと分かりやすく皆さまにお聞かせできるようにしていきたいですね」

♪筑前琵琶 上原まり 平家物語を語る
 10月27日(金)、銀座博品館劇場(JR新橋駅徒歩3分)で。昼の部午後2時開演、夜の部同6時半開演の1日2回公演。

 【予定曲】昼の部:「平家物語」より「祇園精舎」「敦盛最期」「壇浦合戦」ほか、夜の部:「平家物語」より「祇園精舎」、小泉八雲「怪談」より「耳なし芳一」「雪女」ほか。

 全席指定3800円。昼夜通し券7000円。
 チケット予約・問い合わせはインターナショナル・カルチャー Tel.03・3402・2171

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