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  東京版 平成28年7月上旬号  
被害体験を相対化する  映画監督・是枝裕和さん

是枝さんは「碑」を見て、「作り手に畏敬の念を抱いた」と明言する。ただ、「リメークする以上、オリジナル(『碑』)にはない見せ方を考えた」。「碑」にあった原爆投下の映像や効果音を排し、笑顔で遊ぶ生前の少年たちの映像を使った。「かけがえのない日常が奪われた残酷さに思いを致していただければ…」
原爆のドキュメンタリーをリメーク
 原爆の熱線に焼かれ命を絶たれた旧制・広島二中の321人—。遺族の手記を朗読したテレビドキュメンタリーの名作が、ほぼ半世紀ぶりにリメークされた。16日から上映される映画「いしぶみ」。監督は「そして父になる」などの劇映画で国際的な評価も高い是枝(これえだ)裕和さん(54)だ。「生き残ってしまった」と言う人たちの肉声も組み入れたリメーク版。是枝さんは直接、戦争を経験していない世代が作る意味を語る。「悲惨さを叫ぶだけでなく、被害体験を相対化する。多面的な視点から戦争の問題を見つめたい」

 《昭和20年8月6日の日の出は、午前5時24分、朝から暑い夏の日でした》

 旧制・広島二中の1年生は、学徒勤労動員による建物解体作業のため、本川の土手に集まっていた。元気だった最後の瞬間、上空に爆発前の原爆を見た少年も。爆心地からわずか500メートル。321人の3分の1は即死。残る子どもたちも大やけど・重傷を負い、数日のうちに息絶えた。出掛けるまでのわが子の様子、変わり果てた姿、最期の言葉…。父母らが寄せた手記と証言は1969(昭和44)年、広島テレビ制作のドキュメンタリーとして全国放映された。タイトルは全員の名が刻まれた慰霊碑にちなみ、「碑(いしぶみ)」。遺影が掲げられたスタジオで、名優・杉村春子が独り静かに語る番組だった。是枝さんはこう話す。「視聴者の想像力への信頼にあふれている。今のテレビに欠けているものです」

 練馬区出身の是枝さんは早稲田大第一文学部卒業後、テレビ番組制作会社のテレビマンユニオンに入社。水俣病や子どもの成長、記憶障害などをテーマに、ドキュメンタリー番組を制作した。「ドキュメンタリーもドラマも『人間とどう向き合うか』との問題意識は変わらない」

 95年には劇映画の初監督作品「幻の光」を発表。4作目の「誰も知らない」(04年)は、柳楽優弥が史上最年少(当時14歳)でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞に輝いたこともあり、注目を浴びた。自身の亡き母への思いを反映させた「歩いても 歩いても」(08年)でブルーリボン賞監督賞を受賞。新生児の取り違え事件に着想を得た「そして父になる」(13年)ではカンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞の栄誉に浴した。日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞の「海街diary」(15年)や最新作「海よりもまだ深く」(16年)も、市井の人々の心を掘り下げた秀作として、世代や国境を超え支持されている 。

「罪意識」と対話
 ただ、是枝さんは「売れようが売れまいが、僕は“したいことだけをやる”という人間」と笑みを見せる。シベリア抑留を経験した父親の話を聞いていたが、「個人史は被害体験に偏りがち」と感じてきた。「日本人が被害だけを語っても、世界の共感は得られないのでは…」。戦後世代の人間が「碑」をリメークする意味を自らに問い掛けた。「(原爆を)落とされた側の視点にとどまらず被害を相対化できれば、『ヒロシマ・ナガサキ』は今以上に“世界の記憶”になる」。全滅といわれていた1年生のうち、栄養失調などのため作業を休み、難を逃れた人たちの存在を知った。現在、80代の“同窓生”は秘めてきた思いを明かす。

 《なんで生き残ったんだろうと…》

 是枝さんは「残された人の罪意識、複雑な心境を組み入れることで、原爆を多面的に捉えた作品になった」と話す。「いしぶみ」には、直前に転校していたにもかかわらず、いったん慰霊碑に名前を刻まれた人、本川の中で生徒と共に「海行かば」を歌った後、絶命した教師の娘らも登場する。広島の原爆の死者は、終戦翌年以降の死亡を含めれば20万人ともいわれるが、「命が数字だけで語られてはいけない」。広島市出身の女優・綾瀬はるかは実名を挙げ“目・耳・舌の記憶”を語る。「失われた命を、名前と顔を持つ一人一人の人間として、立ち上げていく作業です」。綾瀬の周りに置かれた幾つもの木箱は、遺影の額やひつぎ、墓石、そして時には本川の流れを想起させる。「見る人の想像力への信頼が大前提」。46年ぶりにリメークされた作品は昨夏、テレビ放映され、今夏の劇場公開用に再編集されている。

劇映画でも戦争を
 是枝さんは「近い将来、劇映画でも戦争の問題に取り組みたい」と新たな意気込みを見せる。構想は既に頭の中にある。一つは敗戦を受け入れられなかったブラジル日系移民の「勝ち組」、もう一つは「満州国」の国策映画会社「満映」をめぐる物語だ。国家に見捨てられた「棄民」への関心。夫を自殺で失った妻を描写した「幻の光」、母親に置き去りにされた子どもたちを描いた「誰も知らない」などを送り出してきた自負も胸に言葉を継ぐ。「題材は変わっても“残された側の生”と向き合っていきます」


©広島テレビ
「いしぶみ」 日本映画
 監督:是枝裕和、出演:綾瀬はるか、インタビュアー:池上彰、美術:堀尾幸男。85分。
 16日(土)から、ポレポレ東中野(Tel.03・3371・0088)ほかで全国順次上映。

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