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  東京版 平成28年1月上旬号  
究極の美に挑み、普遍性を表現  歌舞伎俳優・市川右近さん

オペラ「夕鶴」は、民話「鶴の恩返し」と同様、人間の女性「つう」に姿を変えた鶴が主役だ。最後、鶴が飛んで去っていく場面では「愛を残しながらも別れる心を繊細に表現したい」と意気込む。スーパー歌舞伎で人気の宙乗りは、「抽象美を追究した『夕鶴』にはなじまない(笑)」
オペラ「夕鶴」再演出に意欲
 人間の本当の幸せは—。歌舞伎俳優の市川右近さん(52)が演出を手掛けるオペラ「夕鶴」が今春、2年ぶりに上演される。民話「鶴の恩返し」を基にしながらも、歌手たちが洋装で演じる舞台。右近さんは「この作品には国境や時代を超えた普遍性がある」と言葉に力を込める。自身は宙乗りに代表される派手な演出で人気の「スーパー歌舞伎」の中心的存在。ただ、「夕鶴」で追究するのは、昔話の色彩をそぎ落とした“究極の美”だ。「新しい年も、お客さまの想像をかき立てたい」

 《いつともしれない物語。どこともしれない雪の中の村。》

 優れた随筆家でもあった作曲家・團伊玖磨は楽譜の冒頭に、この一文を書き足している。時空を超え、宇宙をも感じさせる荘厳な音楽。「『夕鶴』は単なる民話劇ではない。江戸時代の風俗にこだわる必要は全くない」。右近さんを含め、スタッフ・出演者の思いは一つだ。2014年の初演で観客をうならせた“右近版・夕鶴”。民家や機織りのセットはなく、出演者はドレスや洋服姿で愛や欲望、悲しみを歌う。

 「目に見えるものをできるだけ抽象化した上で、情景がお客さまの心に浮かび上がるように…。すごく頭を悩ませました」

“形”変えず深化目指す
 大阪市に生まれ、日本舞踊飛鳥流の家元の長男として育った右近さん。「『右近』は僕の本名でもあります」と笑みを見せる。3歳で舞踊の舞台に立ち、8歳の時から子役として歌舞伎に出演。三代目市川猿之助(現・二代目猿翁)に才能を見込まれ、「芸の上での子ども」とされる「部屋子(へやご)」になった。猿之助は娯楽性に富む舞台で歌舞伎界に新風を吹き込んだ“梨園(りえん)の鬼才”。観客の頭上を移動しながら演じる宙乗りを目にし、「子ども心に胸を躍らせ、師匠に憧れた」と回想する。

 猿之助が86年に創始した「スーパー歌舞伎」にも出演を重ね、演出助手も任された。江戸時代の演目の荒唐無稽な面白さ、明治以降の創作の芸術性とメッセージ性…。右近さんは「双方を併せ持つのがスーパー歌舞伎です」と明言する。二代目市川亀治郎が四代目猿之助を襲名した12年以降も「スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)」で重きを成す。昨秋は人気漫画が原作の「ワンピース」で最強の海賊「白ひげ」役。最期を演じた姿は「弁慶の立ち往生のよう」と話題を呼んだ

オペラとの出合い
 右近さんは「師匠のオペラ演出はスーパー歌舞伎の創造に大きな影響を及ぼした」と話す。スーパー歌舞伎第1作「ヤマトタケル」初演の2年前、猿之助はフランスの劇場の依頼を受け、オペラ「金鶏」を演出した。当時20歳の右近さんは「金鶏」でも演出助手。「師匠も僕も歌舞伎の様式や美意識、演技術の素晴らしさをあらためて実感した」と強調する。その一方、オペラの音楽に感嘆した。「音楽に全ての要素が詰まっている。優れた作品は物語を説明するため、長いせりふや小道具に頼らなくていい」

 自身は97年、「ポッペアの戴冠」でオペラ初演出。オペラ演出2作目の「夕鶴」は51年の完成後、計800公演を超すといわれる日本のオペラの代表作だ。純愛と欲望のせめぎ合いが生む悲劇は、「人間の普遍的な問題を宿し、幸せの原点を問い掛けている」。美術の千住博、衣装の森英恵、主演の歌手・佐藤しのぶ…。“右近版・夕鶴”には「すごい才能が結集しアイデアを出し合った。僕は全体の調整役」。回り舞台を用い、日本文化の特徴ともされる「見立て」の技法を生かした。ステージ上は、ある時は田舎家の台所となり、ある時は雪の降る屋外に…。音楽は機織りの音や包丁の音も紡ぎ出す。「情景が幻出する」と激賞された初演の舞台。右近さんは顔をほころばせる。「お客さまの想像力は『すごい』と思います」

 再演には初演と同じスタッフ・出演者で臨む。演出の内容もあえて変えない。「深化し熟度を増した『夕鶴』を目と耳で感じていただきたい」。初演では動的なスーパー歌舞伎とは対照的とも評されたが、「発想の根っこは似ている」と歯切れ良い。「普遍的で奥深いものを分かりやすく。その精神は共通しています」


市川右近さん演出による「夕鶴」の初演=2014年  ©三浦興一
オペラ「夕鶴」
 ある時、矢に射られた鶴を助けた「与ひょう」という若者。その後、与ひょうの前に美しい女性「つう」が現れ、やがて2人は夫婦になる。しかし、つうが織る布に高値が付くため、欲深な男たちは、つうにもっと布を織らせようとたくらむ。男たちにそそのかされた与ひょうも、その企てに巻き込まれていく—。

 東京公演は3月24日(木)、27日(日)、東京文化会館(JR上野駅徒歩1分)大ホールで。両日とも午後2時開演。
 原作・脚本:木下順二、音楽:團伊玖磨、演出:市川右近、美術:千住博、衣装:森英恵、出演:佐藤しのぶ、倉石真、原田圭、高橋啓三、音楽監督・指揮:現田茂夫。
 全席指定S席1万6000円、A席1万3000円〜E席5000円。65歳以上はS席、A席1000円引き。

 横浜公演は2月14日(日)午後3時開演、神奈川県民ホール(みなとみらい線日本大通り駅徒歩6分)大ホールで。
 全席指定S席1万6000円、A席1万3000円〜C席9000円。65歳以上はS席、A席1000円引き。
 ジャパン・アーツぴあ Tel.03・5774・3040

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