恐妻家で有名な水木さん。「恐妻はいいこと。世の中は女性が強くないと」と話す。その夫人から先日、水木さんが声優で出演したアニメ映画「明日の希望」を見て「涙が止まらなかった」とメールで褒められ、「大いに驚いた」と話す
「ゼェェーット!」の雄たけびで知られる歌手の水木一郎さん(64)。アニメソング(アニソン)の“帝王”と呼ばれて日本はもちろん海外にも多くのファンを持つ。このほど、アニメーション映画「明日(あした)の希望—高江常男物語—」に主人公の声で出演する一方、「マジンガーZ」(永井豪原作)がテレビ放映されて40周年となるのを記念してCD2枚組「ALL OF MAZINGER SONGS」(日本コロムビア)を発表するなど精力的な活動を続けている。その元気の源はどこにあるのか。「老けたとは言わせない」と話す水木さんに聞いた。
「アニソンを歌い始めて41年。これまで1200曲を歌い、ヒーローたちから勇気や元気をもらっている。だから老けこまないのかな」とにこやかに話す水木さん。
このほど発売された「ALL OF MAZINGER SONGS」はマジンガーシリーズの歌をほぼ網羅。新たに録音し直した曲も含めてロック調のものからバラード、あるいはライブなど、さまざまなバージョンが収録された。
あらためて聴いてみると幅広い音楽性を持っている“マジンガーソング”。これらの歌は20代から60代までの水木さんの歩みと重なる。ファンからも、「子どもと一緒に聴いていた40年前を思い出し、元気になった」という声が届く。「その曲を聴いていた年代に戻れるのが歌の効能。特にアニソンを歌えば元気になれる。実際、自分がそうだから」と笑う。
東京都出身で子どものころからジャズなどを聴いて育った水木さん。20歳の時に歌謡曲でレコードデビューしたが芽が出ず、3年後、石ノ森章太郎原作「原始少年リュウ」のテーマソング「原始少年リュウが行く」からアニソン歌手としての道を歩んだ。
今でこそアニソン歌手を志望する若者は多いが、当時はほとんど注目されなかった。テレビでアニメ放映が増えるのに伴い、アニソンを専門に歌える歌手が求められレコーディングは増えた。しかし、レコードジャケットには「水木一郎」のクレジットだけ。「声は聞くけど顔は知らない」という時期が長く続いた。70万枚以上の大ヒットとなった「マジンガーZ」もその当時の曲の1つだ。
水木さんの顔と名前が一致して世間から認識されるようになったのは、テレビに出るようになったここ10年ほどのこと。歌手生活の約3分の2を“雌伏の時”として過ごしてきたともいえる。それでも水木さんはアニソン一筋に仕事を続けてきた。
「自分にはアニソンが合っていたから。子どもたちに夢を与えることのできる、こんな良い仕事はないと思ってやっていたら、ここまできていた」と水木さん。顔が知られなかったことも、「神様がお前は修行中だからもうちょっと待て、と考えていたのでは。けれど自分ではテレビに出られなくても“苦節”とは思ってなかった」と述懐する。
世界各地にファン
水木さんが歩んできた道のりは、これまで歌った1200曲を超える楽曲数や前人未到の「24時間1000曲ライブ」(1999年、河口湖ステラシアター)など数々の“金字塔”として残る。
そんな水木さんの人気は今では国際的だ。ツイッター(短文の投稿情報サービス)などで世界各地にいるファンから連日届く“声”に対し、25カ国語に翻訳できる機械で返事を送っている。ウィキペディア(インターネット上のフリー百科事典)の「水木一郎」の項目は、その言語数で黒澤明監督とトップを競う。また、国際交流基金などの合同プロジェクト「東日本大震災の記憶/世界の絆に感謝」では、海外23カ国に向けて、宇宙飛行士の毛利衛さんらとともに著名な日本人の1人としてメッセージを発信。
「自分も(歌を通じて)40年以上も皆さんに愛された。そろそろお返しをする時」と水木さん。「水木一郎としてドーンと座っているんじゃなくてどんどんしてあげる時期にきている」と話す。
こうした気持ちの1つの表れが8月に発売された震災復興支援ソング「東北合神(がっしん)ミライガー」。「デビュー以来、いろいろとお世話になっている東北が震災にあって何かできないか」という思いから生まれた。CDの収益金はすべて東北の子どもたちに寄付されるという。
映画で“声の主演”
アニソン一筋に生きてきた水木さんは最近、声優としても注目されている。重度の身体障害者だった北海道の社会事業家、高江常男の生涯をアニメ化した映画「明日の希望」(監督:山田火砂子、制作:現代ぷろだくしょん TEL.03・5332・3991、なかのZEROほかで公開中)ではテーマソングを歌い、主人公の声で出演。水木さんの前向きなキャラクターが主人公とマッチした。
世間でいう「高齢者」の年代になろうとしていても、現役バリバリで新曲を発表している水木さん。その原動力となっているのがアニソンへの強い愛情だ。アニソンの黎明(れいめい)期から今日まで関係者が愛して作ったアニソンを「日本文化として後世に正しく残していくこと」を自らの使命と考えている。「もうかるから」という理由でアニソンに参入する動きに対して、「日本の文化のアニソンがだめになる」と警戒する。
その意味で力を入れているのがライブ活動。「アニソンを理解してもらうためには見てもらうのが一番」と水木さん。東京など大都市はもちろん、生の公演を見る機会が少ない地方も含め日本各地を回っている。「ぜひ、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に3世代で来てほしい」と話す。
操縦席で「得意のポーズ」
「マジンガーZ」の操縦席で得意のポーズをとる水木さん(CD「ALL OF MAZINGER SONGS」ジャケット)(C)
ダイナミック企画・東映アニメーション