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映画「旅の贈りもの 明日へ」では、昨年春まで運行されたボンネット型特急車両「489系」などの走行を見ることができる。「僕は鉄道に詳しくない」と前川さんは話すが、「鉄道マニアの注目度はすごく高いですね」 |
新たな挑戦で相乗効果
新たな挑戦が広がりを生む—。27日(土)から公開される映画「旅の贈りもの 明日へ」で、前川清さん(64)は初恋の女性を探す定年直後の元サラリーマン役を演じた。デビュー44年目の映画初主演。「(本業の)歌とは勝手が違った」と苦笑するが、「言葉の大切さを再認識する、またとない機会になった」と声を弾ませる。主題歌も歌う前川さんはこうも話す。「声量に頼らず言葉で語り掛けるような歌にできた。映画と歌、その相乗効果かな…」
「そこまでしなくても…」。32年ぶりの映画で主演の大役|。出演依頼を聞き、前川さんはとっさにそう感じた。歌の表現力には定評があるが、「単純に演技に通じるものではない」。
長崎県佐世保市出身で“長崎なまり”が抜けなかったのも、俳優の活動に二の足を踏んだ一因だ。1969(昭和44)年、「内山田洋とクール・ファイブ」のボーカルとしてメジャーデビュー。メンバー6人は九州生まれで「標準語を話すと、ばかにされた」と苦笑する。今も「僕が主演で良かったのかな…」と控えめだが、「プロデューサーから『前川さんの存在感をそのまま出せばいい』と言われ、挑戦させていただいた」。
ヒット曲を連発
米軍基地のある佐世保で洋楽に接し、高校中退後、ナイトクラブなどで歌い始めた前川さん。クール・ファイブに加わってから間もなく、デビュー曲「長崎は今日も雨だった」で一躍脚光を浴びた。その後も「そして、神戸」(72年)や「東京砂漠」(76年)などヒット曲を連発。
しかし、分刻みのスケジュールをこなす中、「スターになったという実感はなく『また歌うの?』と思ったこともある」と回想する。ただ、もともとジャズを演奏していたクール・ファイブのコーラスは完成度が高く、「一緒に歌うことで僕の歌の力も鍛えられた」。
テレビのバラエティー番組では萩本欽一と“コント54号”を名乗り、歌う時のクールな印象とは違う「とぼけた感じ」でお茶の間の人気を得た。「僕が失敗しても萩本さんがアドリブで笑いに変えてくれた」。しかし、映画やテレビドラマの出演依頼には、「演技では『失敗できない』という意識が強過ぎて、(出演を)断ったこともある」と明かす。
80年代からソロ活動を始め、坂本龍一や中島みゆき、さだまさしらから曲の提供を受けた。福山雅治が作詞・作曲した「ひまわり」(02年)など、クール・ファイブ時代のムード歌謡とは曲調の違うポップスやジャズも好んで歌う。「長く歌手を続けていられるのは人との出会いに恵まれたおかげ」。高校になじめず中退したころを振り返り、「両親の言う通り就職していたら、今ごろ僕も定年かな」と笑みを見せる。
「体験と重なる」
そんな前川さんが映画「旅の贈りもの 明日へ」で演じたのは、定年直後の元サラリーマン・仁科孝祐だ。仁科は画家を夢見ていた高校時代、福井の女子高校生と絵手紙の文通を重ねていた。福井で会って恋心を募らせたのもつかの間、桜の木の絵手紙を最後に、彼女は消息を絶ってしまう。その後の結婚、離婚、幼かった娘との別離…。退職後、一人暮らしの朝を迎えた仁科は42年前の「さよなら」の理由を知りたい思いにかられ“人生の忘れもの”を探す旅に出る—。
前川さんは「実は仁科と同じように、僕にも会いたい人がいる。妻には内緒にしておきたかったけど…」と照れる。「見る人が自分の人生と重ね合わせ、それぞれの感慨に浸れる映画では」。これまでの出演作で「一番せりふが多かった」と言う一方、「せりふ一つ一つに味わいがある。言葉の重み、温かみをあらためて感じた」と話す。
作詞の伊集院静に自ら映画の内容を説明してできた主題歌「春の旅人」は、しっとりした情感の漂う歌だ。
〽もし一人でいるなら 今すぐ逢いに行きたい
「演じたからこそ、歌でも言葉を丁寧に伝えられた。新しい事(主演)をやったかいはあったかな」
いい年の取り方を
映画ではヒロイン役の酒井和歌子が“福井弁”で語り掛けるシーンがある。
《年を取るのも悪くないってことやの》
前川さんは「いい年の取り方をしている人だからこそ口にできる言葉では…」と語る。自らの歌唱力や演技を声高に誇ることはないが、「僕もうまい具合に年を取るくらいはできたかな」。
大風呂敷を広げて突き進んだ半生ではない。「それよりも1日1日を大切に。これからもその積み重ねから、新しい出会いと広がりが生まれると思う」 |
(C)2012「旅の贈りもの 明日へ」製作委員会 |
「旅の贈りもの 明日へ」 日本映画
監督:前田哲、出演:前川清、山田優、葉山奨之、清水くるみ、須磨和声、酒井和歌子ほか。114分。
27日(土)から新宿武蔵野館(TEL.03・3354・5670)ほかで全国公開。
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同作の主題歌「春の旅人」のCDは、(株)テイチクエンタテインメントから発売。作詞:伊集院静、作曲・編曲:都志見隆。1200円。 |
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