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ビッグバンドは“ジャズの華” ジャズ・ピアノストの山下洋輔さん |
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2004年、自作のピアノ協奏曲をイタリアで演奏するなど、クラシック音楽界からも高い評価を受ける山下洋輔さん。「(イタリアでの自作ピアノ協奏曲演奏は)モーツァルトとラフマニノフに続き3人目だって。自分でも『すごい』と思った」 |
7月、ムソルグスキー「展覧会の絵」に挑む
縦横無尽の即興演奏、それを支える精緻な理論—。世界を舞台に活躍するジャズ・ピアニストの山下洋輔さん(70)は、ジャンルの枠を軽やかに超える。オーケストラとの協演、協奏曲の作曲…。大人数編成のビッグバンドでは、「ボレロ」などの名曲を、迫力あるジャズのアレンジで響かせる。この夏、新たに挑むのは、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」。山下さんは快活に話す。「ビッグバンドはジャズの華。豪華で分厚い音…、ぜひ聴いてほしいな」
「訓練や勉強は嫌いだった(笑)」。父親の仕事の関係で小中学校の一時期、都内から福岡県田川市に移った山下さんは、泥だらけで遊んだ少年時代を回想する。家にピアノがあったが、楽譜を見ない“いたずら弾き”。母親から最初の鍵盤を教わっただけで「エリーゼのために」を最後まで弾いた。
中学3年生の時、兄に誘われジャズバンドへ。たちまち「ジャズの自由さ」のとりことなり、高校3年生でプロ活動を始めた。ただ、「次第にクラシック音楽のすごさも分かってきた」。国立音楽大に進み、演奏活動を続けながら作曲を学んだ。「作曲とジャズの即興演奏には、すごく近いものがある」
好奇心抱き「たかが70歳」
1969年、「今までにない音楽をやろう」と、中村誠一(テナーサックス)、森山威男(ドラム)と「山下洋輔トリオ」を結成した。従来のジャズの決まりにとらわれない、躍動感あふれるフリージャズ。当初、拒否反応を示す評論家や愛好家は少なくなかったが、すでに「ブルースの節」をテーマに論文を書いていた山下さんは「ジャズの根本を押さえていれば、今も何をしてもいいと思う」と歯切れ良い。74年には、初のヨーロッパ・ツアーが評判となり、世界的なアーティストが集う「ベルリン・ジャズ・フェスティバル」にも出演した。国内では学生運動で騒然としていた早稲田大で「バリケード内コンサート」を強行するなど、数々の“伝説”を生みながらも、既成の音楽に飽き足りない若者から、やがて熱狂的な支持を得た。
軽妙な筆致のエッセーをつづるほか、偶然知り合ったタモリの芸能界進出のきっかけをつくるなど、その才能は音楽の枠をも超える。「トリオ」は幾度かのメンバー交代を経て83年に解散したが、互いの信頼関係は今も強い。09年には歴代メンバー総出演のコンサートも開催し、長年のファンを喜ばせた。
名曲をジャズで
トリオ解散の前後から、山下さんはクラシック音楽や和太鼓、舞踏など、他分野との交流を増やしている。「未知への畏敬を抱きつつ挑む、いわば異種格闘技戦」。86年にはガーシュインの代表作「ラプソディ・イン・ブルー」をオーケストラに交じって弾いている。
トランペットにトロンボーン、サクソホン、ドラム、ベース、そしてピアノ…。迫力ある音響のビッグバンドを「ジャズの華であり神髄」と表現する。06年、自ら編成したビッグバンドで、ジャズの要素を前面に出した“山下編曲版”の「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏した。おととしには、ビッグバンド向けに大胆にアレンジしたラベルの「ボレロ」。肘で鍵盤をたたく“肘打ち奏法”は、「ジャズになじみのない人には驚かれた」と笑う。
この夏のビッグバンドコンサートでは、「ボレロ」を再び響かせ、「展覧会の絵」に挑む。「展覧会の絵」は、親しみやすいメロディーを持つが、「複雑で演奏家にとっては、むちゃくちゃ難しい曲」。だが、顔をそろえる16人は「今、考えられる限りでは一番のオールスターチーム。僕自身がわくわくしている」と声を弾ませる。さらに「山下洋輔ファン」のNHK交響楽団首席オーボエ奏者・茂木大輔がゲストとして、音に厚みと深みを加える。以前、茂木からオーボエ協奏曲の作曲依頼を受けた山下さんは言葉に力を込める。「クラシックファンにもおなじみの名曲をジャズでバリバリやるビッグバンドは、ジャズ入門としても最高」
山下さんは58歳で、初めてピアノ協奏曲を作曲し、その4年後、佐渡裕の指揮で、イタリアでの自作演奏を果たしている。90歳過ぎまで活躍したハンク・ジョーンズ(ピアノ)ら“長命系”のジャズ・アーティストを身近に知るだけに、「正直『たかが70歳!』という気持ちはある」と快活だ。「展覧会の絵」だけでも演奏は30分間を超すが、「ピアノの前に座ると疲れを忘れる」と言う山下さんはこう続ける。「これからも『面白い』『新しい』と思えるものに、どんどんぶつかっていきたい。好奇心が衰えない限りは大丈夫です」 |
♪「山下洋輔スペシャル ビッグバンド・コンサート2012」
7月6日(金)午後7時開演、サントリーホール(地下鉄六本木一丁目駅徒歩5分)大ホールで。
山下洋輔「グルーヴィン・パレード」、デューク・エリントン「スイングしなけりゃ意味がない」、ラベル「ボレロ」、ムソルグスキー「展覧会の絵」ほかを演奏。山下さんとゲストの茂木大輔(オーボエ)によるフリージャズの協演も。
全席指定S席7000円、A席5500円。ジャムライス TEL.03・3478・0331 |
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