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「自分は常識人」と話す喰始さんはキャップ姿にベスト、短パンという独特のファッションにこだわる。「谷啓さんのように『変わっている』といわれる人に憧れて、努力して演出しています」。ちなみにそのユニークな名も「漢字2字で『口』が2つ」という「谷啓」をもじったものだ |
劇団「ワハハ本舗」主宰の“笑いの仕掛け人”
演出家で放送作家の喰始(たべ・はじめ)さん(64)は、数々のバラエティー番組を生み出した“笑いの仕掛け人”だ。30代半ばで旗揚げした劇団「ワハハ本舗」は、観客参加型のショービジネスとして幅広い世代に人気の個性派集団に成長した。現在、全国公演の真っ最中。「やりたいことは待たずに、自分で作ればいい。人生を面白がる、その姿勢を見せることが僕らの世代の仕事」。何事も丸ごと楽しむポジティブ思考でまい進する。
香川県高松市出身の喰さんは少年時代から都会へ憧れた。当時の“師”は漫画と映画だという。手塚治虫の壮大なストーリー漫画や、「漫画家残酷物語」を描いた永島慎二の私小説的漫画の世界観に影響を受け、「無名でも貧乏でもいい。自分の納得するもの、面白いものを作りたいと心に決めた」。
一方、映画は東映の時代劇を皮切りに、東宝の「駅前シリーズ」や外国の喜劇映画に没頭。独学でシナリオの勉強を始め、高校時代にはSF作家の星新一にはまって同人雑誌を作った喰さん。笑いの指針となる谷啓(1932〜2010)に夢中になったのもこの頃からで、「ファンレターにギャグをぎっしりと書き込んで送り続けていた」と振り返る。
日大芸術学部在学中、永六輔主宰の作家集団に参加したのを機にテレビの世界へ。「巨泉×前武ゲバゲバ90分!」で放送作家デビュー。1冊の台本に100以上のギャグが載る番組で、「3分の2は僕が書いたネタ。自分は天才だと思い込み、暴走が始まった」と苦笑する。
「欽ちゃんの仮装大賞」「カリキュラマシーン」「ひるのプレゼント」など携わった番組は数多い。「時代に早すぎる」という理由で不採用になったものの、「生前葬」をテーマにした企画や茶の間を定点観測する番組など挑戦的なアイデアも出した。しかし、売れっ子の生活の中、来る仕事から面白いものを選ぶという“生意気”な態度は徐々にテレビのオファーを減らしたという。
「やりたいことは待ってもこない。面白く生きるということは何でもやることだ」。そんな思いからワハハ本舗を旗揚げしたのは1984年。「劇団なら芝居小屋だけでできる」と喰さんは全貯金200万円を下ろし、稽古場を確保。久本雅美や柴田理恵など縁のあった「劇団東京ヴォードヴィルショー」の若手5人が創立に参加した。
「役者の作家性育てる」
エネルギッシュさとパワフルさ、そしてポジティブ思考を信条としたワハハのステージ。「芝居というよりショービジネス」と喰さんが評する公演には幅広い世代の観客が集まる。時に「過激な笑い」と評されながらもリピーターが多いのは、「観客と一体となるステージ構成だから」と分析する。観客全員をコーナーに巻き込んで“共演者”に仕立ててしまうのもお手の物だ。「皆さん、『こんなことまでやらされるの?』というのが楽しいんでしょう」
年間20本以上というワハハ本舗公演全ての「作・演出」を手掛ける一方で、一切台本を書かないのが喰さん流。創立当初から役者自身がネタとストーリーを考え、練り上げたものを採用するという手法をとる。役者の作家性—。土台にあるのは敬愛した谷啓とクレージーキャッツの姿だという。
「谷さんはみんなが大きくジャンプする場面で、1人だけ小さく跳ぶようなあまのじゃくな人。自分1人で面白がる部分を持つ。また、当時のクレージーキャッツといえば、今でいうSMAPのような人気集団。役者、コメディアン、トロンボーン奏者と多忙なのに『シャボン玉ホリデー』の作・構成まで手掛けた谷さん。これからの時代に必要な要素でした」とワハハ本舗に踏襲したのだ。
「続ける潔さ」
結成から28年。「かしまし娘」の正司歌江など大ベテランも加わったワハハ本舗。個性派集団の輝きを「花火大会」に例え、「久本や柴田など大輪の花が咲けば、まだ無名な小さな花火も。一つ一つの個性の花が集まってどんなショーになるかを楽しんで」と喰さん。
「クレージーキャッツも解散していない。ダラダラと続ける格好よさ、潔さもある」と喰さんは劇団の継続を願う。「疑似家族」と慕う“ワハハ一家”での立場も父親から祖父役に変わりつつあるようだ。40、50代の役者には「今ががむしゃらにやる時」と鼓舞する。「60代で悠々自適は難しいよ。40、50代は60代を現役で過ごすための頑張り時だから」
個人目標としては念願だった映画の仕事を挙げる。「プロデューサーとして年5本、低予算の映画を作りたい。ギャラなし、手弁当だけど、面白いものを作る。『この指とまれ』に集まる人たちと一緒にね」。ワハハ本舗創立時とスタンスは同じだ。
団塊世代の喰さんには「自分たちが時代を動かしてきた」という自負がある。そして、その役目は今こそ必要だと考える。「老後のあり方や遊び方など若い世代に『こんな年寄りがいてもいい』という姿を提案していかないと。年を取るのも病気になるのも、人生面白がるしかないもんね」 |
ワハハ本舗2012年全体公演 「ミラクル」〜東京公演〜
6月15日(金)〜24日(日)、天王洲・銀河劇場(りんかい線天王洲アイル駅徒歩3分)で。
構成・演出:喰始、出演:大久保ノブオ、佐藤正宏、柴田理恵、久本雅美、梅垣義明、正司歌江ほか。全席指定、前売りS席8800円〜B席6800円(当日券は800円増し)。
サンライズプロモーション東京 TEL.0570・00・3337 |
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