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「たおやかに生きていきたい」 女優/松原智恵子さん |
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「女優を辞めようと思ったことはない」と話す松原さん。取材日は震災から1年の3月11日。1分間の黙とうの後、生涯現役と東北地方への支援の継続を誓った |
出演作が公開…舞台は震災後の福島
戦争と震災—。東日本大震災後の福島県を舞台に、家族の絆と再生を描いた映画「トテチータ・チキチータ」が7日(土)から公開される。戦争で引き裂かれた前世での家族が、60数年の時を経て“再会する”というファンタジー作品。同作で主人公の「妹」を演じたのが女優の松原智恵子さん(67)だ。「たおやかに生きていきたい」。デビューから半世紀が過ぎた今、生涯現役を誓い、演じる喜びをかみしめている。
震災7カ月後の福島県全域でロケを敢行した本作。もともと2007年に始まった企画で、自然豊かな福島を舞台に11年の夏クランクインの予定だった。しかし3月11日の大震災。甚大な被害を前に製作断念という選択もあったが、地元・福島の人々の声援が撮影の後押しになった。
地元住民も出演
サテライト校に通う高校生、原発避難区域で故郷に帰れない親子、震災詐欺…。「今の福島の日常」を捉えるためシナリオも改訂され、震災と戦争がオーバーラップする物語に。撮影時には地元住民のエキストラ出演や撮影現場見学のワークショップも取り入れられた。
映画は、耐え難い孤独を抱えた男が再び人の温かさを知り、戸惑いながらも明日への一歩を踏み出していく姿を描く。軸にあるのは前世で家族だったという人々。妹の百合子を演じた松原さんは「役に素直に入れた」と振り返る。
認知症の症状を抱えながら独居し、家族の帰りを待つ百合子。「きっとどこかで生きているはず。生まれ変わって会えると思うことで、少しは救われるかもしれない」と思いを寄せる。松原さん自身に戦争の記憶はないものの、デビュー翌年の62年、台風20号で父親を亡くした経験を持つ。「元気だった人が突然亡くなってしまう。それを受け入れるには、すごく時間がかかるんです」
ブロマイドで1位
終戦の年の1月。松原さんは一男三女の末っ子として疎開先の岐阜で生まれた。父は名古屋市内で旅館や銭湯などを営む事業家。ミスコンテストの常連だった姉たちの影響もあったという。芸能界入りのきっかけは高校1年の時、自ら申し込んだ「ミス16歳」コンテスト。「女優になるとは思ってない。東京見物というコンテストのご褒美につられて…」。副賞である撮影所でのカメラテストを機にスカウトされて上京。61年1月、日活に入社した。
日活時代は、主にアクション映画や青春映画のヒロイン役で活躍。「東京の高校に復学し、5年かけて卒業しました」と仕事の合間を縫って学業にも励んだ松原さん。吉永小百合、和泉雅子とともに「日活三人娘」として日活映画の黄金期を支え、67年のブロマイド売り上げでは女優部門のトップに輝いた。
日本映画の斜陽化に、自身の結婚も重なった70年代初め、松原さんは日活を退社。人気ドラマ「時間ですよ」で共演した森光子に誘われて新天地へ。事務所移籍後、森の代表作である「放浪記」で初舞台も踏んだ。「学園のようだった」という日活時代と対照的に、礼儀やあいさつ、発声の基礎からみっちり仕込まれたという。「厳しかったけれどどれもが貴重な教え」と笑みを見せる。
震災支援続ける
その後も映画やテレビドラマを中心に活躍する松原さん。「スタッフと一緒に作り上げる過程、完成時の喜びがたまらない」と、「待ち」の多い現場でも泰然と構える。NHK大河ドラマへの出演も7作品を数え、坂本龍馬の継母を演じた「龍馬伝」(10年)では趣味を生かした楽しみ方も。古い着物やTシャツなど使わなくなった布を裂いて糸にし、それを織りあげる「裂き織り」。自分で織った半幅帯を着用しリハーサルに臨んだほどの凝り性で、「何か目標があると早く予定を立てて取り組みたくなる性格」と笑う。震災のチャリティーオークションにも自作を出品した松原さん。収益を寄付するなど、「手作りのものでできる限りの支援を続けていきたい」と話す。
震災後の心境の変化について、「自分の人生を振り返り、亡くなった両親や姉への感謝の気持ちが深くなった」と松原さん。昨年5月には「龍馬伝」で夫婦役を演じた児玉清や日活時代の先輩である長門裕之の訃報が続いた。共演者の死が身近になりつつある中、テレビで見た名優・大滝秀治のスピーチが胸にしみるという。「役者には過去も未来もない。あるのは今だけだ」。文化功労者を祝う式典での言葉を、松原さんはかみしめる。「今生きていることを大切に。どんな状況に置かれても自分を見失わないように」
ことしは3作品の公開が控える“映画の年”。70代にむけて「無理をせず、楽しみながら自然体でいきたい。生涯楽しく、たおやかに」と目を輝かせた。 |
「トテチータ・チキチータ」 日本映画
監督:古勝敦、出演:豊原功補、寿理菜、葉山奨之、松原智恵子ほか。95分。
7日(土)から銀座シネパトス(TEL.03・3561・4660)ほかで全国順次上映。 |
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