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想像力と創造力…江戸の生きる力 文筆家/丸田勲さん |
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丸田勲さんの仕事部屋の書棚には、さまざまな分野の書籍が並ぶ。「僕の興味が“とっ散らかっている”証拠かな」。最近は「江戸史評論家」と呼ばれることも多い。「確かに、このところ江戸関連の本がどんどん増えている」 |
江戸の物価を「円」に換算
そば一杯320円、ゆで卵は400円—。「江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし」(光文社新書)を著した文筆家・丸田勲さん(71)は江戸の物価を現在の「円」に換算する試みに挑んだ。「値段を通して見ると、江戸の暮らしがより身近に感じられる」。調査・執筆を通して実感したのは、当時の庶民の“二つのソウゾウ力”だ。「想像力と創造力。この二つの力を持ってたくましく生きた姿は、現代の私たちの生きるヒントになるのでは…」
フリーのライターとして雑誌の企画・取材に当たってきた丸田さん。「好奇心が原動力」と穏やかな笑みを見せる。好奇心の対象は幅広い。インフルエンザ、宗教、釣り、蒸留酒…。ただ、「一番好きなのは、やはり歴史」。池波正太郎や司馬遼太郎らの歴史・時代小説が、若い頃からの愛読書だ。しかし「小説を読んでも、物の値段が実感としてつかめなかった」。江戸の物価を調べ3年前、写真誌「FLASH EXCITING」(光文社)に「大江戸八百八町の経済学」と題した特集を載せた。この時、確信したのは、「物の値段は時代を知る重要な指標ということ」。さらに調査を進め昨年4月、「江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし」を発行した。
「好奇心が心の健康法」
「江戸の卵は1個400円! モノの値段で知る江戸の暮らし」
(光文社新書・777円) |
大阪市に生まれたが幼い頃の大阪大空襲で父親の店が全焼し、父親の古里の広島県に移った丸田さん。日本大芸術学部で写真を学んだ後、一人でヨーロッパ各国やトルコを1年半ほど“放浪”した。「これで随分ずぶとくなった。何をやっても生きていけると…」。フリーの写真家を経てライターになり、「FLASH」や「週刊宝石」(共に光文社)などの雑誌作りに携わった。「芸能以外は何でも取材した」。南米の奥地や南アフリカにも足を延ばし、「辺境の取材記者と言われたこともある」と苦笑する。日本史関係では女性天皇、江戸時代の街道などを特集し反響を呼んだ。気が置けない友人でもある編集者の後押しを得てまとめた著書「江戸の卵は1個400円!」では、「歴史の知識の蓄積を生かせたかな…」とほほ笑む。
「1文=20円」
同書では260年以上に及ぶ江戸時代のうち、町人文化が花開いた文化・文政期(1804〜29)を中心に、さまざまな物価を現代と比較した。そこから導いた“仮説”は「一文=20円、銀一匁(もんめ)=2千円、金一両=12万8千円」。自ら「大胆で強引」と笑うが、落語の「時そば」に登場する“屋台のそば”が長い間16文だったことなどから推定した。仮説に基づき、食べ物や家賃、職業別収入、エンターテインメント、旅、吉原の遊興費など、多岐にわたる値段を取り上げた。銭湯は1回120円、裏長屋の家賃8千円〜1万2千円(月額)、不倫の慰謝料100万円、大岡越前守の年収2億70万円といった具合だ。丸田さんは目尻にしわを寄せる。「僕の本を読んだ人から『時代小説が一段と面白く読めるようになった』という声が届く。それがうれしい」
職業には、特に興味を抱く。「職業を調べると、庶民の“二つのソウゾウ力”が強く実感できる」。例えば「落ちた物」を意味する“おちゃない”という商売だ。落ちている髪の毛を拾い集め、かつらの店に売って小銭を得た。会社勤めの経験がなく、「自分で(雑誌などの)企画を考え、形にしてきた」と言う丸田さんは、おちゃないのような“すきま産業”の担い手に共感を寄せる。「物足らずの時代を生き抜いた彼らの想像力と創造力、そして行動力はすごい」。ただ、「貧しくても結構楽しく暮らしていたのでは…」と往時に思いをはせる。長屋の暮らしぶりに触れ、「温かい地域コミュニティーがあった。自殺は今より格段に少なかったはず」。
丸田さんは「江戸と現代は決して遠い時代ではない」と断言する。明治維新による“断絶”のため、「江戸は遠い昔」と思われがちだが、「江戸時代に始まった習慣、しきたりは意外と多い」。著書に込めた思いをこう語る。「江戸の庶民から今の僕たちが受け継いでいる何か、例えば生きる知恵や文化を感じてもらえたら…」
著書の発行から1年近くたつ今、「江戸時代の農村の値段も調べている」と話す。さらに「急激な欧米化を迫られた明治時代にも興味が湧く」。日本初の団体海外旅行を挙げ、「今度はこれを切り口に時代の転換点の素顔に迫っても面白いかな」と言う。柔和な笑顔を絶やさず、言葉を継いだ。「何歳になっても好奇心が一番大事。好奇心があれば人は簡単に老け込まないと思う」 |
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