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サービス精神旺盛の小松さん。「おっとっとっと」や「知らない知らない知らなぁ〜い」など往年のギャグを次々と披露してくれた |
新春公演で昭和のヒーロー熱演
円熟の芝居で初笑いを—。喜劇俳優の小松政夫さん(69)が新春公演「小松政夫VSコロッケ 爆笑 昭和のヒーローズ!」に出演する。芸に生き、芸で勝負するという共通点を持つ2人が真っ向からぶつかり合う人気シリーズの第3弾。歌あり芝居ありコントありのステージに、昭和を彩る懐かしのヒーローたちが次々と現れる。上京して50年。古希を前に“小松の親分”は「幅広い世代が理屈抜きで楽しめる舞台にしたい」と目を輝かせる。
「長〜い目で見てください」「もう、イヤ、こんな生活!」…。全てのギャグにモデルがいるという小松さんは根っからの役者、観察の人だ。
福岡市出身。生家は菓子店を営み、博多祇園山笠で有名な櫛田神社の真裏に4階建ての持ちビルがあった。祭りになれば露天商を高みの見物。「バナナのたたき売りや居合い抜きなどあらゆる口上を覚え、サクラがいる仕組みも学んだ」
厳格な父からはよく殴られたものの、「いてえな、いてえな」とギャグでかわすのが小松さん流。さらに怒った父に額をたたかれ、飛び散った血がご飯にかかっても「わーい、辛子めんたいこご飯だ」。演じることはやめられず、「くじけなかった」と振り返る。
中学1年の時に父が亡くなり、一家は経済的に困窮した。住み込みで働きながら県立高校を卒業した小松さん。一念発起して1961年に上京、俳優座養成所を受けるものの入学金が払えず、「自分の夢に区切りをつけた」。その後は魚河岸の“若い衆”を皮切りにさまざまな仕事を転歴。事務機器のセールスで通った自動車販売会社では、逆に営業部長から4カ月間口説かれて入社を決めた。「営業は、やっての孝行」とその上司のためにがむしゃらに働き、トップセールスマンに。大卒の初任給が1万3800円の時代に10万円以上の収入があったという。
師は“目配り”の人
そんな折、故植木等の「運転手兼付き人」の募集記事が目に留まる。挫折した夢がふつふつとよみがえってきた小松さん。会社に筋を通し、面接へ臨むと600人の応募者の中から採用され、22歳で芸能界の入り口に。
当時はクレージーキャッツの全盛期。当然、付き人も寝る間もない生活ながら月給は7000円。「オヤジ」と慕った植木に役者志望の夢は伝えなかったが、1年が過ぎたころから小松さんにも端役がつくように。「オヤジは出演する番組の先々で『こいつ面白いから使ってよ』と言ってくれた。おかげで付き人時代にレギュラー4本。ギャラは、恨みがないように他の付き人たちときっちり分けました」
植木の下で3年10カ月。付き人卒業の知らせも突然だった。「明日から来なくていい」。運転中だった小松さんは思わずクビを覚悟したという。しかし植木は「事務所に話は付けてある。給料は俺と同じ4万円からな」と小松さんをタレントにする手はずを整えていた。車を脇に止め、号泣した小松さん。「オヤジの時とは時代が違うよと思ったけど、スタートラインが同じというのはうれしかったね」
その後、「電線音頭」や故淀川長治の物まねなどで一躍人気コメディアンに。70年代は伊東四朗、80年代はタモリやイッセー尾形らとの交流で「笑い」を磨き、90年代以降は本格的な俳優路線に入った。長年、喜劇界に貢献し昨年6月、(社)日本喜劇人協会の10代目会長に就任した。
「昔はテレビが一家に一台。父親が握るチャンネル権によって時代が動いた」。師弟関係や徒弟制度が薄れた現代を「野放しの状態」と危ぶむ一方、「才能ある若者を少しでも引き上げたい」と自身の役割を語る。誰よりも汗を流し、笑わせ、最後にホロリと涙を誘う—。素質ある若手にチャンスを与える目配りの役と同時に、日々研さんする姿勢を自らの背中で教える。「行儀のいい俳優さんが育てばいい。喜劇は芝居の中で一番厳しい世界だから」
芸人魂の“対決”
1月公演は、そんな喜劇役者の芸人魂を懸けた対決が見どころだ。競演は“目利き”の小松さんが「目の付けどころが違う」と評する物まね芸人のコロッケ。「研さんを積み、喜劇役者としての円熟度も増している」と認める相手だけに、ハラハラドキドキの掛け合いに期待が高まる。誰もがよく知る時代のヒーローを2人があらん限りの芸で演じ、傑作コメディーに仕立てていく。
小松さんの課題は「懐かしの昭和」というイメージを突き破り、幅広い世代が楽しめる舞台にすること。「この年代にはこの芸でいいなんて思っていない。昭和という時代の薫り、私たちを知らない世代でも見たら一生忘れない作品にしたい。芝居好き、舞台好きになってもらえたら…」
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「シリーズ第一弾
〜昭和ギャグパレード〜 舞台写真より」 |
「小松政夫VSコロッケ 爆笑 昭和のヒーローズ!」
1月16日(月)〜22日(日)、シアター1010(マルイ11階、JR北千住駅すぐ)で。
監修:桂邦彦、作・演出:清水東、出演:小松政夫、コロッケ。
全7回(開演時間は日により異なる)。全席指定7000円。
シアター1010チケットセンター TEL.03・5244・1011 |
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