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広田さんは今、2つの夢を念頭に置いて活動する。「1つは大人のロマンに応える主観的な作品。そして子どもの夢をかなえるため、リアリティーのある(乗り物の細部が分かる)客観的な作品も撮り続けています」 |
60年間“自分流”を追求
「憧れの鉄道車両をかっこよく撮りたい」。鉄道写真家・広田尚敬(なおたか)さん(75)の思いは60年間一筋だ。師はいない。独学で「感性のある写真」を目指し、日本の鉄道写真界をリードしてきたパイオニア—。アマチュアの啓蒙(けいもう)活動にも努め、「鉄道写真は生きがい」と満面の笑みを浮かべる。「人は生まれながらに個性的。好きなものを究めるなら、とことん自分流でやりましょう」
港区三田出身。東海道本線の近くで生まれ育った広田さんは、「列車を見ると機嫌が良くなり泣きやんだ」と笑う。中学3年の時、自宅にあったカメラで初めて鉄道写真を撮影。「当時は鉄道模型に夢中で、図面におこしたい部分を撮りに行くうちに写真が面白くなった」。高校の野球部からスカウトされ進路に悩んだものの、将来の道を鉄道写真家に定め、高校時代から精力的に写真や紀行文を発表。25歳の時、フリーランスの写真家になり活動は本格化する。
「鉄道車両を楽しむための写真、主観的な作品を目指した」。広田さんの一貫した思いは、既存の鉄道写真界を大きく変えた。「今までは鉄道趣味の資料という位置付け。車両の全景をフレームに収めるのが常識」という中で創意工夫を重ね、表現世界としての道を切り開くことに。
感性磨き時代の“旬”撮る
大胆でシャープな構図、駅や車内でたたずむ人物の表情…。40年以上前の北海道では吹雪の中、遠方から近づいてくる蒸気機関車の正面写真を初めて撮った。当時最長の200ミリ望遠レンズでも届かず、カメラにAF(オートフォーカス)機能もない時代。望遠レンズにエクステンダー(望遠効果を得るための補助レンズ)を2個付けるという珍しい手法を選んだ広田さん。ピント合わせもままならない状況下で被写体をぎりぎりまで引き付け、C62重連「ていね」の“表情”をダイナミックに表現した。1968年に初個展「蒸気機関車たち」を開催すると、「サロン史上最多の入場者数。昼間見に来た人が夕方に戻ってきて熱心に見てくれた」。潜在的なファンの多さを実感し、鉄道写真が市民権を獲得し始める最初の機会になったという。
70年代のSLブームの立役者となった後も、広田さんの挑戦は続いた。鉄道写真の裾野を広げるため一般誌での作品発表を心がけたほか、30年以上続くロングセラーシリーズの「のりものアルバム」など、子どもたちを意識した仕事にも積極的に携わった。88年に設立された日本鉄道写真作家協会では初代会長に就任。「昔は職場に鉄道好きと知られると、管理職につけないといわれたほど。世間でもここ10年で『鉄道が好きだ』と言えるようになった」とほほ笑む。
撮影してきた車両の中には姿を消したものもある。しかし、広田さんはノスタルジーや感傷に浸ることはない。「当時は全てが現役の車両。時代の旬のものを撮るようにしてきたし、引退の“ラスト走行”を撮りに行くようなことはない」と自らのポリシーを語る。
最近のテーマは、橋を絡めた鉄道風景だという。また、動画(ムービー)での撮影を試みるなど新しい表現にも意欲的だ。「写真でも動画でも、表現は自分半分、カメラ半分。そのカメラにふさわしい被写体や撮り方がある」と柔軟に対応する。
5日(水)から開かれる写真展では総合光学機器メーカー、(株)タムロンの「18−270ミリ PZD」レンズを使用。同社主催の鉄道風景コンテストで審査員を務める広田さんは、息子で鉄道写真家の広田泉さんとともに作品を出展している。撮影は鉄道と徒歩の組み合わせが多い広田さん。このレンズについて、「財布に優しく手に持っても軽く、レンズ3本分の領域をカバーする。時刻表などの荷物を持って3000歩が限界なところ、これなら1万歩は軽く歩ける。アウトドアの写真や、年配者にはありがたいレンズです」と笑みを見せる。
写真を愛好する中高年が多い昨今、広田さんは「写真は個性で個人プレー。客観的な正解はない世界」と“自分流”の追求を勧める。「例えば、写真にはピントが合わない面白さもある。アスファルトの道路など宝石箱みたいにキラキラしてきれいです」。作品とその人柄から「鉄道写真の神様」とも呼ばれる広田さん。若い感性の登場を楽しみにしながら、自身もフィールドワークを続けている。
http://tetsudoshashin.com/ |
「飛鳥山のD51の動輪部分」(C)広田尚敬 |
「−Eternity at a Moment− 写真家60人の『瞬間と永遠』」
5日(水)〜11日(火)正午〜午後7時、3331 Arts Chiyoda(地下鉄末広町駅徒歩1分)で。
タムロン創業60周年記念プロジェクト。60人の写真家が、それぞれが感じている「瞬間と永遠」を、タムロンのレンズ「18−270mm F/3.5−6.3 Di II VC PZD (Model B008)」で撮り下ろした作品展。
入場無料。TEL.03・6803・2441 |
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