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「どんな名車も手入れをしないと走らなくなる。体に心地いい準備を始めたら生活も快適になり、今の方が健康なくらい(笑)」と話す西城さん |
脳梗塞から復帰…“今”を楽しむ
心はいつもヤングマン—。歌手で俳優の西城秀樹さん(55)は「一生青春」を座右の銘にする。8年前に脳梗塞を患い後遺症で苦しんだものの、「諦めない気持ちが大事。できることから始めよう」とリハビリに励み、ステージに復帰した。「大切なのは年齢ではなく、心の持ち方。必要としてくれる人のためにも努力を続けたい」と“今”を楽しむ西城さん。3月に藤原紀香らと共演するミュージカル「マルグリット」では、初の悪役に挑戦する。
アクション・ブームや日本人歌手アジア進出の先駆け…。日本の音楽界に数々の金字塔を打ち立ててきた西城さんは、「80歳になっても好奇心を持って生きたい」とほほ笑む。
広島市出身。歌手の布施明と尾崎紀世彦に憧れていた西城さんは14歳の時に単身上京。16歳で歌手デビュー後、「新ご三家」の1人として人気を集める一方、「自分の中にアイドル志向はなかった。ミュージカルもできるシンガーになりたいと思っていた」と明かす。
俳優としても活躍の幅を広げ、ミュージカルでは「デュエット」「ラヴ」など巨匠ニール・サイモンの作品に多数出演。33歳の時に主演した「坂本龍馬」ではタップダンスを初披露し、「奇想天外な龍馬が自分に乗り移った感覚でした」と振り返る。「(作品が)再演に恵まれてきた」と笑みを見せる裏には下積み時代の努力も。「外部生として劇団四季に通い、市村(正親)君や滝田栄と稽古に励んだ」と懐かしそうに話す。
引退の危機
転機は48歳。ディナーショー先の韓国で脳梗塞を発症した。私生活では第2子の誕生を控え、順風満帆のさなかだった。
帰国後すぐに入院したが、発声そのものが狂う後遺症で歌手生命の危機に直面した。「音程が取れないし、歌も歌えない。初めての大病で先が見えず、めげていた」
リハビリと向き合ったのは約1年後。ミュージシャンである甥(おい)に誘われ、低い音程の楽曲を歌うと「パーフェクトに歌えた」と西城さん。自分の体をいたわる大切さに気付き、今までの激しいトレーニングや減量、食生活を反省。「体の血流を良くする運動から始めると、歌声も徐々に回復してきた」
「歌で言葉を語りたい」
西城さんが“心の持ち方”を意識したのも、そのころだ。「青春とは冒険心のこと。80歳でも好奇心がある限り青春という」。アメリカの実業家S・ウルマンの詩を、あるがん患者(故人)が大切に書き留めたものを読んだのがきっかけ。故人の家族のため、その詩に曲をつけ、非売品のCDとしてプレゼントした西城さん。家族の喜ぶ姿を見て、歌や言葉の力を実感したという。「うまく歌おうとするのではなく、言葉をきちんと語る。自分の個性を出そう」と思うように。
自分らしく伝えたい—。そんな思いを胸に西城さんは今、ミュージカル「マルグリット」に取り組む。原作は不朽の名作「椿姫」。身分の違う男女の悲恋が、第2次世界大戦下のパリで許されぬ愛に身を燃やす男女の物語に姿を変える。
西城さんは、若い2人の愛を引き裂くドイツ人将校役。初の悪役挑戦について、「自分に全くない要素の役。台本を読んでいるうちに引き込まれ、この役に変身していた」。将校としての威厳を見せるための社交的な振る舞い。ポーカーフェースの裏には年下の異国人女性に認められたいという本音…。クールでありながら女への嫉妬に苦しむ“大人の男”を演じる。
映画音楽の巨匠ミシェル・ルグランによるドラマチックな音楽も同作の魅力だ。「転調が多くて変則的」と評しながらも、メロディーラインの美しさは西城さんもほれ込むほど。芝居の中に音楽が溶け込み、「せりふ(言葉)にメロディーが付いている感じ。歌おうと意識するよりも、言葉をきちんと伝えていかないと」。
日常にひと手間
「趣味は花市場巡り。バリ島のアートが好きで香辛料や色使いにも凝った」。西城さんは、30年来の趣味で培った美意識を舞台に生かす。「例えば夏場、おけに氷を敷く。上にトマトを置けば見た目にも美しく、食べておいしいアートになる」。日常にひと手間を加え、さりげなくもてなすのが西城さん流だ。他者との距離感や間合い、息遣い…。演技の細部にまでそんな気配りを心がけている。
西城さんは病気を通して当たり前の生活の大切さを学んだという。「昔は60歳で芸能界を辞めるつもりだった」という思いにも変化が生まれた。「助けられたという気持ちが強い。必要とされる限り、努力を続けていく宿命かな。精いっぱい楽しみながら自分の存在を意識したい」 |
ミュージカル 「マルグリット」
3月11日(金)〜28日(月)、赤坂ACTシアター(地下鉄赤坂駅徒歩1分)で。全24回公演。
「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」の作者が贈るミュージカル。作曲:ミシェル・ルグラン、演出:ジョナサン・ケント、翻訳・訳詞:竜真知子、出演:藤原紀香、田代万里生、西城秀樹ほか。
S席1万2800円、A席8600円。ホリプロチケットセンターTEL.03・3490・4949
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