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石井ふく子さんの母は“売れっ子芸者”で、小唄の師匠としても活動した。「着物の着こなしや立ち居振る舞いなど、母から学んだことも多いです」 |
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「家族」は生涯のテーマ
「渡る世間は鬼ばかり」(TBS)など、数々のホームドラマをヒットさせたテレビプロデューサー、石井ふく子さんは、83歳の今も精力的に活動する。生涯のテーマは家族の“きずな”。舞台演出家としても名高いが、「日々の仕事が自分の勉強になる」と謙虚な姿勢を崩さない。4月再演の舞台「華々しき一族」は、家族のもつれ合う愛情を描いた作品。派手な事件はないが、「これは心のサスペンス」と話す。「初演以上に、見る人の心を震わせたい」
石井さんは殺人など、血なまぐさい事件をドラマで全くといっていいほど取り上げない。「(テレビを見る)子どもへの影響を考えてしまう」。それでも「ドラマの材料に困ることはない」とほほ笑む。「身近な出来事の中にこそドラマがある」。1960年代以降のホームドラマ史を彩るヒット作の“生みの親”だ。「肝っ玉かあさん」、「ありがとう」、「渡る世間は鬼ばかり」…。制作本数は4000本を超え、ギネスブックにも記載されている。
東京の下町(旧下谷区)に生まれ、3歳から日本舞踊を習った石井さん。新派俳優の伊志井寛は養父で、「芝居や芸能を身近に感じて育った」と話す。終戦後、伊志井と親しかった長谷川一夫の勧めもあり、新東宝の女優になったが、「はにかみ屋で、演じるのは好きになれなかった」。
再演の“怖さ”感じる
2年余りで映画出演をやめ、建売住宅の会社に就職した。「芸能界とは完全に縁が切れたと思いました」
しかし、勤めた会社がラジオドラマのスポンサーになったことから、番組制作にかかわるようになった石井さん。企画や予算の使途のほか、ストーリーや配役なども考え、「いつの間にか、プロデューサー的な役回りになっていた」と笑う。
TBSの誘いを受け1961(昭和36)年に入局した直後から、「東芝日曜劇場」のプロデュースを担当した。当時、テレビドラマ作りで教えを請う人はおらず、「試行錯誤の連続」。それでも「東芝日曜劇場」を軌道に乗せた上、水前寺清子主演で最高視聴率50%を超えた「ありがとう」などの連続ドラマで、「ホームドラマの定型化に成功した」と評価された。一人っ子だった石井さんは、「大家族へのあこがれが作品に反映した」と語る。「家族は最も大切なテーマです」
68年から舞台演出も手掛ける石井さんは、「舞台はテレビとは違う発想が必要」と語る。やり直しができない緊張感、ステージの広さを考えた振り付け…。「難しいと感じる時も多い」と言うが、「忠臣蔵 いのち燃ゆるとき」、「初蕾」などは、世代を超えた共感を呼ぶ。
平和の祈り込める
4月再演の「華々しき一族」は、昭和の戦時色が濃くなる中、華やかに見える家族に起きた“愛憎の事件”を描いた作品だ。複雑な家族関係などから「登場人物の心理的葛藤(かっとう)、心のサスペンスが交錯する」。そして戦争がもたらす思いがけない結末…。戦前に書かれた原作は、石井さんの意向もあって“リメーク”されている。「現代に生きる誰もが納得できるお芝居に」。石井さんは「残虐なシーンを出さず、戦争の愚かしさも表現した」と言葉を継ぐ。空襲の直撃で、目の前の人が犠牲になったという自身の記憶は生々しい。
主人公の美しい妻「諏訪」は、もともと杉村春子の当たり役として知られるが、石井さん演出による08年の初演では若尾文子らの好演もあり「杉村の時とは一味違う魅力のある新・華々しき一族」と往年のファンをもうならせた。それだけに「再演の“怖さ”を感じている」と胸の内を明かす。
“まさか”の坂
石井さんは人生を坂道に例え、「どんな人にも必ず、“まさか”という坂がある」と言う。「良くない“まさか”は自分にもあった」。“まさか”を防ぐ手立ては、「やはり作品に愛情を注ぎ苦労すること」とかみしめるように話す。「そのためにも元気でいたい」。80歳を超えた今も、付き人はいない。「自分でできることは自分でします。それがわたしの健康法」と穏やかな笑みを見せた。
「華々しき一族」
4月7日(水)〜11日(日)、天王洲銀河劇場(東京モノレール天王洲アイル駅直結)で。全8回公演。
原作:森本薫、脚本:大藪郁子、演出・衣装:石井ふく子、出演:若尾文子、松村雄基、小林綾子、徳重聡、吉野紗香、西郷輝彦。
全席指定S席7800円、A席6000円。上演時間など詳しくは問い合わせを。CATチケットBOX TEL03・5485・5999
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