|
「朗読家とも語り手とも少し違う、ただ読むのではなく演じるのが“語り演者”。公演を楽しみにしているリピーターの方が増えています」と鎌田弥恵さん |
|
半世紀前「君の名は」でナレーション
かつて銭湯の女風呂を空にしたという伝説のラジオドラマ「君の名は」−。このナレーションを担当していたのが鎌田弥恵(みつえ)さん(80)だ。30年前から舞台で文学作品の一人語りを始め、ことしで芸歴60周年を迎えた。「面白くなければ“語り”ではない」と今も話芸の向上に励む。
文学を一人語り
鎌田さんの舞台は単なる朗読ではない。自らを“語り演者”と称するように小説の一言一句を記憶し、自分の中で消化したものを表現豊かに舞台の上で“演じる”のである。
鎌田さんの声や表情が照明や音響効果も加わって物語の迫真に迫る時、それを聴いて(見て)いる観客は想像力をかき立てられ、時に映像よりも現実味を感じる。鎌田さんの舞台を見た作家の佐江衆一から「芝居を見るよりも場面、場面が(はっきりと)目に浮かびました」と言われたことを「ああよかった、と思いました」と心底うれしそうに話す。
“ラジオ俳優”経験
鎌田さんは東京・西新宿の成子坂にある成子天神社宮司の家に生まれた。女学校を卒業後、女子美専門学校を中退し1947年にNHK東京放送劇団に2期生として入団。当時はラジオドラマの全盛期で菊田一夫脚本の「鐘の鳴る丘」や「向こう三軒両隣」、「一丁目一番地」などに出演した。「ラジオドラマで娘役などをけっこうやりました。この経験が語ることに生きています」と鎌田さん。52年に放送が開始され大人気となった「君の名は」のナレーションを担当していた1期生の先輩が退社したため,鎌田さんが担当することに。それからは役者を中心にナレーターとしても活躍した。
独立後に転機
結婚、出産を機に55年には同放送劇団を退職しフリーになった鎌田さん。独立後は民放などに出演していたが、NHKの先輩アナウンサーの一人語りの公演会に参加したのがきっかけで語りの道へ進む。77年のことだった。
|
「自分のイメージを大切に語るようにしています」と話す鎌田さん
=2007年6月の言音座公演 |
“劇団”を主宰し公演
その後「鎌田弥恵 物語の会」を立ち上げ、今日まで30回以上、毎年秋に公演を行っている。代表的な演目は藤沢周平作「隠し剣鬼の爪」、江戸川乱歩作「人でなしの恋」、菊池寛作「藤十郎の恋」などで、藤沢周平作「荒れ野」で91年度の芸術祭賞を受賞した。
後進指導にも情熱
01年には新たに「言音座(ことざ)」を主宰し、「物語の会」を含め年2回の言音座公演を行っている。昨年は藤沢周平生誕地の山形県鶴岡市で公演するなど地方にも活動範囲を広げている。
「かつて藤沢先生からいただいたお手紙に『後進を指導してください』と書かれてありました。この言葉が頭のどこかに残っていたんでしょうね」と鎌田さん。言音座を始めたのも、若い人が出演する場をつくりたいという気持ちからだ。それだけに若手の指導には「もっと“取材”しなさい」「字面だけ読んでいないで」「ただ声を出せばいいというわけでない」と熱が入る。朝日カルチャーセンターなどの講師も10年以上務めている。
そんな鎌田さんでも今も“語り”で迷うことがあるという。「こうじゃないかっていまだに思います。芸に終点はないのです」と話芸の追究にどん欲さを見せる。
★言音座「鎌田弥恵 物語の会」
演目は菊池寛作「形」(川辺小都子)、船山馨作「おらんだ時雨」(長谷由子)、北原亞以子作「恋忘れ草」(鎌田弥恵)
日時:10日(金)、11日(土)
昼の部午後2時、夜の部同7時開演。11日は昼の部のみ。
場所:内幸町ホール(地下鉄内幸町駅徒歩5分)
料金:全席自由3500円
問い合わせ:03-3379-5467(言音座事務局TEL&ファクス) |
|
| |
|