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武骨な武士の姿に父を重ね 周平の長女/遠藤展子さん |
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「主役の東山紀之さんはすてきでした。父はあれほど格好よくなかったですけど…」と笑う遠藤さん |
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藤沢周平原作の短編「山桜」映画化
藤沢周平原作の「山桜」が映画化され、31日(土)から公開される。近年、映画化が相次ぐ藤沢作品の中でも「山桜」は「一番原作の雰囲気に近い」と藤沢周平の一人娘、遠藤展子さん(45)も絶賛する。悪を憎み、自分に分がなくとも正義を貫こうとする武骨な武士の姿に父・藤沢周平を重ね、数々の色あせない思い出を遠藤さんは語った。
通常、作家の死去後3年で本の売り上げが下火になるといわれる出版界において、死後11年たった今も本が売れ続けるほど藤沢周平の人気は不動の地位を築いている。
「山桜」の原作は短編で、時代は江戸後期、舞台はファンにはおなじみの架空の藩・海坂藩。“出戻り”の嫁としてつらい日々を送る野江と、かつて野江に縁談を申し込んだ武士・弥一郎の物語だ。
映画の冒頭、縁談を断った野江に「今はお幸せでござろうな」と弥一郎が尋ねる。遠藤さんはこのシーンに父・藤沢周平を思うと話す。
「普通、恋愛は自分が幸せであることを願いますが、弥一郎は相手が幸せならいいと思っている。深い愛ですね。『見守る』という姿勢は父性愛と通じるものがある気がします」
弥一郎が自分にいまだ変わらない思いを寄せていることを知り、それだけで生きる希望を得る野江。しかし弥一郎が重い税に苦しむ農民のために思わぬ行動に出たことから、2人の運命は新しい展開へ進んでいく。
藤沢周平のファンなら、野江と弥一郎を見守る野江の父に藤沢自身が重なって見えることだろう。行きつ戻りつを繰り返す娘に、口出しもできない父親の葛藤(かっとう)を、篠田三郎が演じている。
藤沢家の家訓は「自慢してはいけない」「派手にしてはいけない」「間違ったことをしてはいけない」の「いけない」づくめだったと振り返る遠藤さん。しかし、結婚するつもりでいた恋人に振られ毎日泣いていた遠藤さんを散歩に誘い、「人生思い通りにいかないことはたくさんある」と諭してくれるような一面もあった。
「父自身病弱でしたし、あきらめてきたことがたくさんあったのでしょう。その経験あっての言葉と作品だと思います」
1997年の父の死去以来、ぽっかりあいた心の穴は忙しく動き回ることで埋め合わせてきた、と話す。
生前より強い父との密着度
エッセーを著したり、作品の映画化や、09年夏に父の故郷・鶴岡(山形県)に開館予定の藤沢周平記念館にかかわるなどしているうちに乗り越えることができた、と遠藤さん。今は、「生前より父と密着しているような気持ちです」。そして「今からでもやっぱりちゃんとしなきゃいけないな、父を安心させたいなと思っています。生きている間は心配ばかりかけたので」と朗らかに笑った。
遠藤さんが「ぐっときた」という「山桜」のラストシーンには、藤沢作品のエッセンスが凝縮されている。
「未来はわからない。だけど主人公は信じて待っている。今はそういう姿勢が少なくなっているからこそ、ぜひご覧いただければと思います」
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