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  東京版 平成20年3月上旬号  
田舎暮らし結果よりも過程楽しむ  エッセイスト・画家/玉村豊男さん

朝は日の出とともに起きる玉村さん。原稿の執筆や朝の光に照らされた植物を絵に描くことなど、仕事の大半は午前中に片付けるという
 
 定年退職を迎える団塊世代を中心に田舎暮らしへの関心が高まっている。「自然の中では、できること、できないことがある。結果でなくその過程を楽しめればね」と話すのはエッセイストで画家の玉村豊男さん(62)。25年前、東京から長野県に移住した“田舎暮らしの先駆け”的存在だ。軽井沢でのソフトな田舎暮らしを8年、その後農村地域の里山に移住してから農業を始め、今では農園主、ワイナリーオーナーという“顔”も。長野県を拠点に執筆や講演、大病を機に再開した絵画など精力的に活動を続けている。

長野に移住 農業や創作活動
 玉村さん夫妻が軽井沢に移住したのは1983年。前後に第1次田舎暮らしブームがあったというが、玉村さんの場合は「知人の誘いに乗っただけ」。当時実際に移住した人は少なく、「学園紛争でならした40代や“中年ヒッピー”のような人だけ。田舎も元気で『よそ者は来るな』という感じだったね」と振り返る。

 が、「今では彼らが定年退職を迎え、団塊世代の“ふるさと回帰”という大きな潮流になっている」と玉村さん。過疎化・高齢化が進み共同体機能の維持が困難な“限界集落”もここ10年ほどで増え、田舎も存続をかけていると指摘する。定年世代の人脈や経験が「地域活性化につながる」と受け入れ態勢を整える自治体も増えている。

絵を再開し肝炎“寛解”
金銭に換算できぬ仕事も

 「ソフトな田舎体験が本格的な田舎暮らしの準備になった」と言う玉村さん。軽井沢では昼はテニスやアウトドア、夜中に原稿を書き、翌日昼過ぎに起床するという“東京型”の生活を楽しんだ。

 しかし86年、原因不明の大量吐血で緊急入院。その後も下血を繰り返し、一時は回復したものの、今度は輸血による肝炎を患い、だるい症状に苦しむ日々。いつ治るか分からない中、初めて老後のことを考えたという。「肝臓の数値に一喜一憂してはだめだ」。暇つぶしできるものは何かと考えた時、「“絵を描く” ことにたどり着いた」。

 父は日本画家の玉村方久斗(ほくと)。早くに亡くなった父からは「よく見て描くこと」と教えられた。“絵画少年”の玉村さんは大学受験まで油絵などを描いていたが、絵筆を執るのは25年ぶり。うまくかけないもどかしさや、熱中しすぎて疲れがたまることもあったという。しかし描き始めてから半年後、枝付きのリンゴをモデルに初めて水彩で描くと「作品に透明感があった。水彩ならではの偶然の効果や早く描ける点が面白い」。肝炎の寛解(かんかい=病気の症状がほとんどなくなった状態)に希望が見えた瞬間だった。

ワイン作りも
 「老後は畑仕事をやろう」という妻の提案もあり、91年、玉村さん夫妻は東部町(現・東御市)に移住。荒れ地を開墾しハーブやワイン用ブドウの苗木を植えた。04年に「ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリー」をオープンし、ワインや農園でとれた野菜、ハーブを使った食事を提供している。

 89年の初個展以降画家としての活動も本格化。最近では毎年個展や各地での巡回展を開き、みずみずしい野菜や果物を描いた作品にはファンも多い。来場者の反応から“絵の効用”を実感することもしばしばだという。

 例えば、事故で体が不自由になった男性が玉村さんの作品を見て以来、絵を描き始めたことも。医者は治らないと言ったが、休み休み絵を描くことでだいぶ体が動くようになったという。「絵は言葉を越えて、脳に直接入ってくるからね」

25年の経験で学ぶ
 「3カ月先のスケジュールは真っ白」というフリーランスの玉村さん。入院中など経済的につらいこともあったというが、「やりたいことが選べる」と金銭に換算できない仕事もあると話す。東京に住んでいたころは「自分で計画を立てればある程度の仕事ができた」と言うが、田舎では天気や動物の被害など、丹精込めて作った野菜や果物が収穫目前で台無しになってしまうこともあると学んだ。「結果でなく過程を楽しむことが大事。東京の人は次々と新しく挑戦するけど、毎日同じことが続けばそれでいいんだよね」。ぴんとした背筋と隆々とした腕の筋肉に“大地に生きる男”の風格が漂う。



  『ヴィラデスト ぶどうの芽吹く頃 玉村豊男新作絵画展』
期間:12日(水)〜18日(火)
場所:伊勢丹新宿店・5階アートギャラリー
問い合わせ:伊勢丹新宿店 TEL 03-3352-1111(代表)
※15日(土)午後2時から玉村氏によるギャラリートーク&サイン会も。
◎ヴィラデスト
問い合わせ:TEL 0268-63-7373(代表)
URL:http://www.villadest.com/

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