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  東京版 平成19年6月上旬号  
一筋の光が生きる気力に   緑内障フレンド・ネットワーク代表/柿澤映子さん

「目の病気は"視力がなくなるもの"と思っていました」と柿澤さん
 
 40歳以上の20人に1人が患っているとされる "目の成人病" で、日本人の中途失明の原因第1位に挙げられる緑内障。「6月7日は "緑内障を考える日" 。1年に一度は眼科専門医で目の検査を」と早期発見の必要性を訴えているのは緑内障フレンド・ネットワーク (GFN) 代表の柿澤映子さん (68) 。元外務大臣柿澤弘治氏の妻として駆け回っていた約20年前、緑内障で視野の90%を失った。自らの経験をもとに緑内障の啓蒙活動を続けてきた柿澤さんは「一度はあきらめた。でも一筋の光が見えたとき、生きる気力が残りました」と話す。

体験を生かし目の検査訴え
 緑内障とは、眼圧が高まることで視神経が損傷を受け、視野が欠けていく疾患。放置すると失明の危険性があるが、「定期的な受診と適切な治療で進行を抑え、日常生活に支障のない状態を保てます」と東京警察病院の安田典子眼科部長。視野の欠損は自覚症状がないまま何年にもわたって進行することが多いため、早期発見、早期治療が今後の生活にとって重要だ。

 昔から視力が良かったという柿澤さんが "見えづらさ" を感じたのは40代の後半から。「老眼かな。更年期障害かしら」。階段を踏み外すようになり、電車の時刻表が見えにくくなった。だが目に赤みや痛みがあるわけでもない。当時は息子の中学受験という慌ただしい時期でもあった。「結局、ドラッグストアで老眼鏡を買って済ませました」

「早期発見が一番大切」

 かなりの "ドライブ好き" だったが、「ある日、新橋を走っていたら、交差点で突然信号機がなくなっていた」と柿澤さん。視野上部が欠けていることに気づかぬまま、周りの車の動きに合わせて運転していた。

 同じ年の暮れ、東京に粉雪が舞った。雪道を歩く柿澤さんの後ろ姿を見た (眼科医の父親を持つ) 友人が「歩き方が変。あなた目が悪いのよ」と言い、翌日検査を受けることに。すると、すでに左目は失明、右目も50%の視野を失っていた。「そこで初めて『緑内障ですね』と言われました」

 眼圧を下げるためすぐに入院したが、右目はヒューズが飛びそうな電球のような状態。何もしなければ近いうちに失明すると分かったが、どの医師も敬遠したがるほど手術成功の可能性は低かった。

 八方ふさがりの中、岐阜大学医学部の北澤克明教授 (=当時) に出会った。緑内障の第一人者に診てもらうと、「あと2カ月早く来ていたら右目の視野はもっと残せたのに。(先天的な人に比べ)中途失明をした人は精神的にダメになってしまう。わずかでも可能性があるなら手術しましょう」と。

光を失った1ヵ月
 術後1カ月以上を眼帯を着けて過ごした。身辺整理もしていない、家族の顔ももう見られない、暗闇の中で不安は募った。「どうなるか分からないのがつらかった。一度はあきらめましたね」

 視覚が戻らぬ一方で聴覚はさえ、ほかの患者の泣き声を耳にしたことも。盲学校に行くことになった若い女性や働き盛りで失明した男性の話…。「背後で聞いたあの女性の泣き声は今でも忘れられません」。包帯が外され、一筋の光がぼんやりと見えたとき、「生きる気力が残りました。光だけでも見えると違う。色が見えないと食事も味がしないんですね」と、しみじみと語る。

 感謝の思いが膨らみ「恩返しをしよう」と決意した。が、退院後1年以上は自分のことで精いっぱいの日々。家の中で歩くこともままならず、最初は人に助けを求めるのも嫌だったが、「できないことは人に頼ろうといつしか居直ったんですね」と柿澤さんは笑う。

 少しずつ外の世界にも目を向けられるようになった。緑内障について隠す人が多い中、「患者のあなたが言えば共感してくれる。患者さんの先頭に立ってやってほしい」と知り合いの医師に誘われ、早期発見の必要性を訴えるように。

 
昨年の緑内障啓発イベントの様子。テレビの砂嵐画面を用いた方法で、視野が欠けているかどうか簡易的な自己チェックができる
行政の取り組み促す
 転機は1999年、夫の都知事選出馬だった。テレビ番組で「候補者たちの妻」が特集されると、視聴者から「サングラスは不謹慎」と投書が届いた。だが、まぶしさを避けるためサングラスは欠かせない。その理由をテロップで流すと、逆に緑内障患者から相談の手紙が山ほど届くように。同じ苦しみと正しい知識を共有し、早期発見を呼び掛ける患者の組織づくりを開始した。

 日本緑内障学会、日本眼科医会の支持を受け、00年6月にGFNが誕生。患者同士の情報交換や交流の場をつくるほか、正しい知識を学ぶ講演会や会報の発行も。手弁当の活動は7年が過ぎ、会員は約1600人に。「患者さん同士、家族ですら分からないつらさを話し合い、今緑内障で苦しんでいる人の支えになっています」

 一方で早期発見という本来の課題も残る。「健常者の中から緑内障の予備軍を発見し、早期治療につなげることがまだまだ不十分。行政や地方自治体に対し、緑内障の検査を健康診断へ組み込むよう要請していますが、実施率は低いんです」

 失われた視野は戻らない。外界からの情報の8割は視覚によるものという。「一度どん底まで落ち、光が見えるようなった今だからこそ笑える」と柿澤さん。緑内障を他人事としてではなく、あなたも年に一度は眼科専門医で緑内障の検査を—。


"緑内障を考える日" 緑内障啓発イベント
緑内障の簡易自己チェック体験会や相談会を実施
日時 : 6月7日 (木) 午前11時〜午後5時
料金 : 無料
場所 : JR東京駅構内イベントブース『Break』
問い合わせ : GFN事務局 (TEL) 03-3272-6971
HP : http://www.gfnet.gr.jp/

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