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  横浜・川崎版 令和6年5月号  
言葉を音の世界に解き放つ  ピアニスト・仲道郁代さん

「ベートーベン尽くしの日々(笑)」。仲道さんは「The Road to 2027」の“春のシーズン”に、「ピアノ・ソナタ全曲演奏会」と「“ピアノ室内楽”全曲演奏会」を加え、3つのベートーベン・シリーズ公演を並行させている。楽曲の魅力の1つに「強いメッセージ性」を挙げる。「主語が『私は…』で始まっても、最後は『われわれは…』となる。だからこそ、聞く人はおのずから、苦悩の中から生まれる希望やエネルギーを作曲家や演奏家と共有できるのだと思います」
6月にリサイタル「夢は何処へ」
 ピアニストの仲道郁代さん(61)は2027年の演奏活動40周年に向け、10年にわたるリサイタル・シリーズを進めている。「音楽家として自分の人生を見つめ、『今、弾いておくべき曲』を選びました」。「夢は何処(いずこ)へ」のタイトルの下、ベートーベンの“月光ソナタ”などを弾く、6月の東京公演もその一つだ。演奏では「(楽曲を思索する)言葉を音の世界に解き放つ」と言い、タイトルに込めた思いも語る。「偉大な作曲家たちの『夢』が宿る名曲は、涙を誘うほどの美しさに満ちています」

 「The Roadto 2027 リサイタル・シリーズ」。仲道さんは演奏活動30周年の翌年の18年、全20回のシリーズ公演をスタートさせた。自身の「40周年」とともに没後200年を迎えるベートーベンを軸にした“春のシーズン”と、多彩な演奏技術を用い種々の音響をつくる“秋のシーズン”の各10回だ。「若い頃は主として、その時々に『弾きたい』と思う曲を披露してきました」と話し、こう続ける。「私も今や『定年世代』。限りある人生を意識して、私の芸術性全てを表わそうと…。そして音楽家としての私を耕してくれるプログラムを練り上げました」

 4歳でピアノを始めた仲道さんは小学生のとき、ドイツの名ピアニストとして知られたビルヘルム・ケンプの演奏に接している。「ベートーベンの曲に引き込まれました」。ミュンヘン国立音楽大学に留学後、ジュネーブ国際音楽コンクールで最高位に輝き、エリザベート王妃国際音楽コンクールでも入賞した。

 1987年、プロとして演奏活動を始めてからも、「ベートーベンは特別な存在」。ベートーベン研究者でもあった作曲家・諸井誠らの薫陶を受け、「楽譜は音符の羅列ではないと…。そこに込められた作曲家の考えや感情を、言葉で論理的に探究するようになりました」と力を込める。「研ぎ澄まされた感性と論理がうまく合わされば、人の心を震わせる音が生まれる。言い換えれば、言葉が音に昇華するような感覚です」。楽曲の演奏論も書く仲道さんは、「思索するピアニスト」ともいわれ、その響きは国内外を問わず多くの聴衆を魅了し続ける。

鑑賞の「手助け」に
 モーツァルトやシューベルト、ショパン、シューマン、ブラームス…。“春のシーズン”では、ベートーベンのピアノ・ソナタを軸にした上で、“楽聖の以前・以後”を生きた作曲家の作品も取り上げている。「ベートーベンと他の巨匠とのつながりにも耳を澄ましていただきたい。特に『以後』は、ベートーベンの影響を受けていない作曲家はまずいない。それを感じていただければ…」。6月のリサイタル「夢は何処へ」では、“月光ソナタ”と呼ばれる「第14番」をはじめ、ベートーベンのピアノ・ソナタ3作を聞かせ、シューベルトの「ピアノ・ソナタ第18番『幻想』」を演奏する。「ベートーベンが苦悩の中で求めた夢、シューベルトが悲しみと痛みを抱えながら探した夢…、その響きの美しさにさめざめと泣きたくなるような…、そして心が洗われるようなプログラムです」。演奏の前には、仲道さんによる「お話」も。「専門的な解説でなく、鑑賞がもっと味わい深くなる『とっかかり』になればうれしいです」

「40周年の後も」
 がん闘病を続けた母親を57歳で亡くした仲道さんは、「人生、いつ何があるか分からない。でも、母の享年を越えた今も、私の音楽は成長を続けている実感がある」とかみ締める。「The Roadto 2027」の“フィナーレ公演”の一曲は、ショパンの「ピアノ・ソナタ第2番『葬送』」だ。「生前の母の希望で、母の葬儀のとき弾いて以来、人前では弾いたことがありません」。穏やかな笑みを浮かべ、言葉を継ぐ。「この曲で(シリーズを)締めくくることで、私の前に“新たな音の風景”が広がる予感がある。それを新たなスタート地点として、『40周年の後』も音楽の高みに向かい、深みを探っていきたいです」

♪ The Road to 2027 仲道郁代ピアノ・リサイタル 夢は何処へ(東京公演)♪
 6月2日(日)午後2時、サントリーホール(地下鉄六本木一丁目駅徒歩5分)大ホールで。

 予定曲:ベートーベン「ピアノ・ソナタ第27番」、「同13番」、「同14番『月光』」、シューベルト「ピアノ・ソナタ第18番『幻想』」。

 全席指定。一般S席6000円~B席4000円、65歳以上S席5400円~B席3600円。ジャパン・アーツぴあ Tel.0570・00・1212

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