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  横浜・川崎版 令和3年12月号  
命尽きる覚悟で歌う  シンガー・ソングライター小椋佳さん

昨年から今年にかけてのコロナ禍では引きこもり生活を余儀なくされたというが、ちょうど楽曲提供の依頼が舞い込み、ほぼ歌づくりで時間を費やしたと小椋さん。「もし次があれば、演歌もつくってみたいね」。さらに、口述筆記での著書制作も進行させ、年内には「もういいかい まあだだよ」(双葉社)が刊行される。「幼なじみで70年の付き合いである妻のことばかりしゃべっていた気がします。迷惑をかけた自覚もありますし、自分自身の分身とも思っています。77歳にして書き上げたラブレターですね(笑)」
1月からファイナル・コンサート・ツアー開催
 「さらば青春」を収めたファーストアルバム「青春〜砂漠の少年〜」(1971年)発表から半世紀、さまざまな歌手への楽曲の提供のほか、自らもステージで歌い続けてきたシンガー・ソングライター小椋佳さん(77)。2014年には「生前葬コンサート」を開催し世間を驚かせたが、以降も“第二の人生”として「余生」を生き、活動を継続。そんな小椋さんがファイナル・コンサート・ツアー「余生、もういいかい」をスタートさせ、来年1月には都内のステージに立つ。人生最後となるだろうと話す同ツアーに際し、「命尽きる覚悟で歌います。ツアーは来年11月ごろまで全国を回りますが、その終了直後にぽっくり逝くのが理想です(笑)」と意気込みを語った。

 「老衰ですかね。もう100メートルもまともに歩けない体です。本当に『もういいかい』という感じです」と苦笑する小椋さん。14年の生前葬コンサートでは、4日間にわたり100曲を歌い上げ、時には4時間を超えるステージもあったが、今回のコンサートはコンパクトに収めるという。「僕のファンは同世代人が多い。お互い長時間座っているのがつらい年になりましたからね。短い時間であっても、僕の歌を聞きながらおのおのの人生を振り返っていただければうれしいですね」

 小椋さんは青春時代、“生きること”に真剣に悩み、自ら命を絶つことも考えるほど思いつめたこともあったという。だからこそ東大卒業後、「創造」に携わることを望み、芸術に生きることを渇望するも挫折。その後、銀行に就職するが、偶然の出会いから発表したアルバムがヒット。「歌づくりは日記」というスタンスで、歌の道で身を立てることは全く考えていなかった小椋さん。だがそれ以来、銀行員と音楽人の二つの道を歩みながら、「シクラメンのかほり」(75年)、「夢芝居」(82年)など数々の名曲を世に送り出すことになる。「昔は仕事でどんなに忙しくとも、3時間あれば1曲はつくれました」

「慢性現状不満症」
 その後、93年に49歳にして銀行を退職。そして70歳を迎えたとき、死後に家族に迷惑が掛からないようにと「生前葬コンサート」を開催し、以後はずっと「余生」を生きてきたと話す。「14年からのこの7年間、客観的に見ると大変幸せな時間でした。こんな“老いぼれ”にも楽曲提供の依頼があり、ステージも程よくできて、家族も元気。おかげさまで経済的にも困ることはありませんでしたからね」

 しかし、“主観”では違うと話す。「僕には『慢性現状不満症』という持病があります(笑)。どんな状況でも、『こんなもんじゃない!』という現状への不満が頭をもたげ、そして若いときからある“いわれなき不安”に折節襲われるのです。この年なら人生を達観してなくてはうそなのですが、僕がその境地に達することはないと思います」

 ただし、その「慢性現状不満症」が自身の歌づくりや仕事にさらなる進化をもたらした火種であったとも分析。そして77歳になった今もそれがくすぶり続けていると苦笑する。

 しかし、そんな小椋さんも“老い”には苦戦している。「どんなに忙しくても楽しかった歌づくりが、今は苦痛に感じるのです。そして老いとともに“欲”が薄れていくのです。寂しいですね」

 それでも小椋さんは新しい挑戦をやめない。「昨年からプランター栽培を始めました。全く興味がなかったのにふと土いじりを始めたくなり、今では青い芽が出てくるのが楽しくてしょうがない」

芸術に“還元”を
 また、自身の財産の多くを傾け、私設の「貸しスタジオ」建設にも着手している。「以前、ミュージカルを主宰したときですが、リハーサルのスタジオ代に閉口しました。ならば、自身でリーズナブルな貸しスタジオを建ててしまえ、とね(笑)」

 自身が存命のうちに完成を見るのは怪しいというが、「後進の芸術家や表現者の青い芽を育むことができれば」とほほ笑む。そして、今回のツアー後も“生き残って”しまったら、そのスタジオの一角にある小さなステージでピアノの弾き語りをするのが夢だと語る。「遺言状も書き終えたし何も思い残すことはありませんが、『余生のおまけ』があれば、いろいろな可能性に挑戦してみたいですね」

♪小椋佳 ファイナル・コンサート・ツアー 「余生、もういいかい」(東京公演)♪
 1月9日(日)、10日(月・祝)、Bunkamura(JR渋谷駅徒歩7分)オーチャードホールで。9日は午後5時開演、10日は午後2時開演の2公演。

 全席指定。S席9000円、A席7000円。東京音協Tel.03・5774・3011

https://t-onkyo.co.jp

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