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最後の監督作「みをつくし料理帖」公開 映画製作者・角川春樹さん |
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角川さんは映画プロデューサー、監督、冒険家のほか、俳人としても活躍。「(俳人としても知られる)父・源義は死ぬ前の俳句が一番良かったんです」と話し、監督は引退するものの映画製作や出版、それに俳人としてこれからも活動していく |
映画化に「宿命感じる」
自社で発行する小説を映画化して売り込む手法、メディアミックスで1970年代〜80年代に社会に一大旋風を巻き起こした、映画製作者で(株)角川春樹事務所社長の角川春樹さん(78)。約10年ぶりに自らメガホンをとった映画「みをつくし料理帖」が完成、16日から全国で一斉公開される。髙田郁(たかだ・かおる)の同名小説を基にした江戸時代を生きる女性2人の友情物語だ。映画「犬神家の一族」や「男たちの大和/YAMATO」など数々の大作を製作してきた角川さんだが、監督としては今作で引退。「最後の監督作品はこの小説で、と決めていました」
映画の原作「みをつくし料理帖」はシリーズ全10巻・特別巻1巻を合わせ、400万部以上売れたという時代小説。角川春樹事務所から時代小説文庫(ハルキ文庫)の書き下ろし作品として10巻目が6年前に出版された。
近年、ベストセラー小説やコミックが映画化されることが多い邦画にあって、同作の映画化には時間がかかった。名プロデューサーとして多くの映画を製作した角川さんにとってもそのことは意外だったという。「400万部も読まれた小説が今まで映画化されなかったのは不思議としかいいようがない」
テレビではNHKなど2局が製作し放送されており、映画化の話もこれまで複数の製作プロダクションからあったものの、配給会社の辞退などもあって、まとまらなかったという。「この小説は私が製作、監督して映画化されるのを待っていたかのようで、目に見えない“宿命”を感じています」
映画「みをつくし料理帖」は、原作全10巻のうち1巻〜3巻をメインに物語を構成した。物語の始まりは浮世絵や滑稽本、歌舞伎など江戸の町人文化が全盛期を迎えようとしていた1802(享和2)年。「何があってもずっと一緒」—。姉妹のように仲の良い8歳の澪(みお)と野江。2人は大坂で暮らしていたが、その大坂を大洪水が襲い、共に両親を亡くしてしまう。生き残った2人は離れ離れとなり、長じて澪は江戸・神田にある「蕎麦処つる家」で女料理人に、野江は吉原にある遊郭で幻の花魁(おいらん)・あさひ太夫と名乗っていた。2人は互いの所在が分からずにいたが、澪が不眠不休で生み出しただしで作った「とろとろ茶碗蒸し」のおいしさが江戸中の評判になり、ある日、吉原の遊郭「扇屋」で料理番をしている又次が訪ねてくる…。
「見せ場は料理で」
同作は時代劇ではあっても「刀を包丁に、見せ場はチャンバラではなく料理で」というのが見どころ。それだけに人情劇として現代にも通じる部分があり、角川さんは「あえて奇を衒(てら)わず、“昭和の映画”のようにオーソドックスに撮ることを心掛けました」と話す。
角川さんはこれまで数多くの映画作品に製作や監督として関わってきた。しかし、(株)角川書店の創業者・角川源義(かどかわ・げんよし)の長男として大学卒業後、同社に入社するまでは特に映画好きというわけではなかった。 後に、メディアミックスで“時代の花形”となった角川さんだが、そのモデルとなったのがマイク・ニコルズ監督の「卒業」(1968年)。「映画を見て、音楽を聴き、原作を読む」という現象が起きた同映画で、角川さんはメディアミックスが出版ビジネスの有力な戦略になると、感じとる。
製作映画70作以上
75年に角川書店社長に就任した角川さんは翌年、角川春樹事務所を設立し映画製作に進出。その第1作、横溝正史原作の映画「犬神家の一族」(76年)を皮切りに、映画公開と合わせた角川文庫フェアや、テレビコマーシャルを打つなど複数のメディアで大々的な宣伝を展開。森村誠一「人間の証明」(77年)、小松左京「復活の日」(80年)、辺見じゅん「男たちの大和/YAMATO」(2005年)などの大作を次々に製作する。
これを機に、横溝正史や森村誠一などの角川文庫がベストセラーとなり、映画に出演した薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子、浅野温子らスターが生まれた。これまで角川さんが製作した映画は全部で70作を超え、そのうち自らメガホンを取った作品は「汚れた英雄」(82年)、「天と地と」(90年)、「REX恐竜物語」(93年)など7作を数える。
8作目となる「みをつくし料理帖」は、「これまで原作を5回は読んだ」というほどのほれこみよう。「原作のイメージが壊れるようなことはしたくない」と、撮影期間中もモニターを見ながら原作本をずっと手元に置いていたという。劇中で澪が作る料理は全て原作者が一品、一品創作したオリジナル。そんな原作者のこだわりに応えようと、角川さんは料理監修を料理評論家の服部幸應に依頼し、角川さんが通うそば店の店主にも演技指導をしてもらった。
「これまで肺結核、胃がん、腸閉塞(へいそく)、脳血栓、心臓手術…と多くの大病を経験しています」と話す角川さん。「“現役”のうちに最後の監督作品を撮りたい」と考え、夫人のすすめで3年前からスポーツジムに通い、学生時代からやっていたボクシングを再開するなど、体力づくりに励んできた。そんな角川さんの気概を感じたスタッフやキャストが今作に集結。「映画はハッピーエンドがいい」と言う角川さんらしい作品となった今作で、監督としてのフィナーレを飾る。 |
©2020映画
「みをつくしを料理帖」製作委員会 |
「みをつくしを料理帖」 日本映画
製作・監督:角川春樹、脚本:江良至、松井香奈、角川春樹、出演:松本穂香、奈緒、若村麻由美、石坂浩二、中村獅童ほか。131分。
16日(金)から横浜ブルク13(Tel.045・222・6222)ほかで全国一斉公開。 |
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